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EP.5 - 50

 モエナはキースの質問に対しどこまで真実を語るべきか悩んでいた。

 ジゼの一言がこの場に居る者たちに疑心を抱かせてしまったため、迂闊に口を滑らせれば面倒事に発展しかねないと考えたからだ。

 最早教会の小間使いと化していた海賊は言わば身内だ、モエナは、クレイス邸を訪れた当初は何者かと聞かれたら正直に答えても問題ないだろうと考えていたが襲撃事件が起こり事情が変わってしまった。

 隠さねばならない事実などないのだが、状況が状況なので返答の内容に因っては皆の疑心を深めかねない。モエナは言葉を選びながら慎重にキースの問いに答え始めた。


 キースの質問の内容は、モエナの予想を大きく外れることもなく用意した回答をそのまま話すだけであったので、尋問は淡々と進んで行った。

 特に疚しいこともないのでこのまま尋問は何事もなく終わるだろうとモエナは高を括っていたが、思わぬ質問が彼女の焦りを生む事になった。


 何故、食堂を出て行ったユーシィを追ったのか。


 キースのその質問にモエナは、心配になったからだと答えた。

 嘘は無い。例え自身に宿ったサーラの記憶が妹のユーシィを気遣わせたからだといって、何も問題は無いはずだとモエナは思った。

 しかしキースは、初対面なうえにこれまでそれ程会話が弾んでいたようにも見えなかった相手をそこまで気に掛けるだろうかという疑念が湧いた旨を語り食い下がった。

 同業者の邪魔をしてまでリニーを救い出した事、自宅に連れて帰るだけでなくクレイス邸に訪れた事の二点が不可解だというのが彼の見解だ。


 それに対しモエナはこう切りかえした。

 大方、クレイス家の者に接触を図る口実を作る為にリニーを利用したと疑っているのだろうが、状況を考えればそれらが無駄な行動である事は明白だ、と。


 キースは成程と頷いた。

 食い下がってきたので舌戦になるかと身構えていたモエナは直ぐに折れたキースに物足りなさを感じ、疑り深いのは女に嫌われるぞ、と皮肉を付け加えた。


 それに対しキースは、気を付ける、と即答した後――――


 ――――別に貴女に好かれようとしていたわけではないが。


 と、付け加えた。


 キースのその言葉を聞いたモエナの心臓が、大きく一度、脈打った。

 キースにしてみれば言われた皮肉への仕返し程度の事であるし、"モエナ"にとっても大して気にもならない言葉であった。

 しかしモエナの身体はその言葉に対し過敏に反応を示した。

 心臓の大きな脈動はモエナの身体を痙攣させ、座っている椅子もそれにつられて揺れ動き足を鳴らして大きめの音を立てた。

 異変を感じ取った会議室の面々の緊張が室内の空気を一瞬張り詰めさせたが、キースの祖父だというニザム=クレイスがキースを、女性に対しそのような物言いをするものではないと嗜めた事で、若干ではあるが緊張は緩んだ。


 加えてモエナも、気にしていないので続けてくれとキースに伝えた。


 実際、"モエナ"はキースの発言自体は気にしていない。

 しかし、その発言に示した己の反応が気になって仕方なかった。

 その後キースからいくつか質問を受け、やはり用意していた回答をそのまま伝える形で尋問を終えたが、彼女はその間ずっと心此処にあらずであった。


 キースの言葉に反応したのは"モエナ"ではなく"サーラ"、或いは"エスティ"、若しくはその両方であったように、モエナは感じた。


 サーラの記憶から生じたのは深い悲しみと嫉妬心だ。

 エスティからは明確な敵意、それは自尊心から来るものであったように思われた。

 それらは"モエナ"の感情を完全に塗り潰しかねない非常に強いものであった。


 モエナは、自身の記憶に入り込んできた別の記憶に"モエナ"の自我が押し負け始め、消失の危機に晒されているのではと憶測し、生命の危機に陥った時にすら湧くことも殆どなくなっていた"焦り"を久方ぶりに感じたのだった。

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