EP.5 - 48
ユーシィは苛立っていた。
何故こうも思い通りに事が運ばないのか、考えた通りの状況にならないのか。
そんなことを考えれば考える程苛立ちは募り、ついには苛立っている自分自身に対しても腹を立てる始末であった。
今回の襲撃事件について、関係者に対し色々と聞き取りをしたいというキースの要請を受け、夕食会に参加したほぼ全員がクレイス邸の一室に集められた。
食堂が何者かの襲撃を受けた時、現場に居なかったユーシィは、自分への質問は後の方になるだろうと考えていた。
食堂を出る直前にキースとひと悶着起こしてしまい、立場上迂闊な発言が出来ないので、その後の状況を把握する為にもその方が都合がいいと考えていた矢先、キースに指名されてしまった。
何故なのか。
普通に考えたら自分は後回しだろう。
この男はいったい何を考えているのだ。
考えなしに選んだのだとしたらいい迷惑だ。
アレコレ考えながら、苛立ちを抑えつつゆっくりと椅子から立ち上がるユーシィ。
何を聞かれるのかと不安になりながらも、頭の中を整理しつつ待つ彼女に向けられたキースの第一声は、起立は不要だという一言であった。
精神状態の宜しくないユーシィは、そんな何気無い一言すら、まるで自分を全否定しているかのように感じてしまい、最早苛立ちを隠そうともせず勢い良く椅子に腰かけた。
ユーシィの態度に疑問を感じたか、キースは少し考える素振りを見せたが、程無くして、事件に関係することなので正直に答えて欲しいという前置きをした後、ユーシィへの尋問を開始した。
内容は主にミノーグ家との争いに関することだった。
ユーシィは全ての質問に対して、言われた通り正直に答えた。
巫女として教会関係者との婚姻を望んだ本当の理由は何かと問われると、商売が立ち行かなくなったので教会の金と権力を当てにしたのだと答え、現在マークェイ家が置かれた状況と、それにどう対処しようと考えていたのかを赤裸々に語った。
ミノーグ家に先んじる為、外部の者に協力を要請したかという問いには、巫女の資格を得るために商売仲間の伝手を頼ったと答えた。
逆に、外部から接触を図ろうとしてきた者は居たかという質問に関しては、少し考えた後、完全に無関係な者からの接触は無かったが、クレイス家御抱えの学者達は良くしてくれたと答えた。
会議室に参列したユーシィの両親は、終始青い顔をしていた。
クレイス家の心証が悪くなることを恐れてのことだ。
そんな両親の姿を見ながらユーシィは、
大丈夫だ、問題ない。
いざとなったら泣き落としてみせる。
この男が押しに弱い事は確認済みだ、きっと上手くいく。
と、心の中で呪文のように呟いた。
しかし、その他細々とした質問を繰り返した後にキースは
――――――貴女は私が嫌いですか。
と、問うた。
想定外の質問をされたユーシィは酷く狼狽した。
真っ白になりかけた頭の中で、必死に質問への返答を考えようとしたが、どうにも上手くいかない。
それでも彼女は思慮を巡らす。
正直に"嫌いだ"と答えたらどうなるか。
心証は最悪であろう。
決まりかけた婚約の話が破談になる可能性が出てくる。
面と向かって嫌いだと言った後だ、切り札にしていた泣き落としを使っても効果は薄いだろう、それで関係を改善できるだろうか。
手詰まりになる可能性は低くない、この答えは選べない。
では"嫌いではない"と答えたらどうだろうか。
数刻前に頬を思い切り叩いた後だ、納得して貰えるかどうか。
だが、この答えならば後で何とでも言い繕える。
こちらが正解か。
答えが出たのでそれを口にしようとした直前、ユーシィの脳裏に新たな疑問が湧いた。
何故キースはこのような質問をしてきたのだろうか。
食堂を出た後、いったい何があったのだろうか。
次々と疑問が湧き、そこから不安が生じてゆく。
不安の種が芽吹き、そこから伸びた蔓に心を絡め取られたユーシィは思考停止状態に陥ってしまった。
暫くの沈黙。
何か発言せねばと、口をパクパクさせるユーシィを見兼ねたか、キースは彼女に、こう告げた。
好かれるよう、努力する――――と。
キースのその一言に含まれる真意を読み取ろうと必死になるユーシィ。
しかし考えれば考える程、頭の中はこんがらがってゆく。
結局、以上で質問は終わりだと言われるまで、ユーシィは何も発言することが出来なかった。
もう夜も遅いが寝なくてよいのかというキースの問いには、ぶっきらぼうに心配無用だと答えた。




