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EP.5 - 46

 食堂の入り口に、暫く何処かに行っていたユーシィとモエナの姿が見えた。


(おっ、戻ってき……何かあった感ハンパ無いな!?)


 モエナは人を背負っている。

 背負われている人物は食堂を襲撃してきた黒衣の者達と似た服装だ、仲間だろうか。


(二人もどこかで襲われたのかな……)


 襲撃されたのであるならば、迎え撃ったのはモエナだろうと俺は考えた。


 ユーシィは、可愛らしい見た目とは裏腹にクレバーな立ち回りをするが、身体能力に関しては然程高くないように思われ、何よりも華奢な体格が戦闘経験の無さを表している。


 その点モエナは、女性的ではあるが若干肉厚な体型で、肩幅も一般的な女性よりは広く見える。


 にわか仕込みとは思えない筋肉と骨格から地力の高さが垣間見え、加えて人をひとり、恐らくは男性を軽々と背負っているという事実が、襲撃者と一戦交えたのがモエナだという推測を確信に変えた。


 モエナは背負っていた男をゆっくりと降ろした。

 どうやら負傷しているらしく、膝を折り額を床に擦り付けながら苦しそうに呻き声をあげている。


(あ……腕、折れてるな……)


 見慣れない方向に折れ曲がった腕が痛々しい。

 ……まあ、骨折の痛みの程度は未経験である俺には解らないが。


 苦しんでいる男にキースが近寄り、声をかける。


「ジゼ、ノーマディ?」

「ノーマディシェイニ……!」

(あれ、知り合いなのか……どういうことだ?)


 心配そう――――――という感じでは無いのが若干気になるが、キースは"ジゼ"と呼んだ男に「大丈夫か?」と聞いた。

 それに対するジゼの返事は"大丈夫"という意味の『ノーマディ』に、部分否定の『シェイニ』がくっついた言葉で、日本語に訳すと「大丈夫じゃねぇよ……!」である。


(天然なのか、それともSッ気があるのか……)


 キースの人間性に不安を感じつつ成り行きを見守っていると、何故かコアンがジゼの前に招かれた。


「え、なに……?」

(え、何……?)


 この場では残飯処理にしか使えなそうなコアンに、いったい何をさせようというのだろうか。


「ん~? ……こいつ、あのときのよっぱらいじゃん」

(ああ、ほんとだ。ていうか今日の昼にも見掛けたな)


 屈んで覗き込んだジゼの顔が見知ったものであることにコアンは気付いた。


「おいおまえ~、ま~たわるさしてたのか~?」


 コアンはそう言うと、俺でジゼの頭を軽く叩き始めた。


(やめろっての!)


 バイブを作動させて抗議するも例のごとくシカトされる。


「ん? なに? ……あ~、うでおれてんのか」


 キースはジゼの腕を指差していた。

 彼が腕を骨折している事を伝えたかったようだ。


「……ルージー……アテミクセリ…………」

「なっさけないこえだすなよな~、ほっときゃなおる」

(いやいや、放っておくのはだめだろ……)


 ジゼは震えた声で神に救いを求めている。

 どうやらこの場に居る者達がコアンを神様的な存在だと誤認しているのは間違いないようだが、残念ながら彼女は只のケモミミ少女である。


(可哀想なジゼ……誰か早く医者のところに連れてってあげて……)


 コアンは確かに傷の治りが異様に早い。

 だが治癒魔法的なものが使えるわけではなさそうなので、彼女に何かを期待することは出来ない。


「アテミク…………セリ……」

「あーもー、しょーがねーなぁ」


 コアンは仕方ないといった感じで、ジゼの腕に両手をかざした。


(えっ…………何するつもりだ?)


 コアンは「むむむ……」と唸り、何やら力を込めている。


 確かに彼女は神がかった力を有しているようには見えないし、魔法のような不思議な技術を体得しているようにも思えない。

 しかし、傷の治りが異様に早いのは紛れもない事実だ。

 実は隠し持った能力があり、それを今ここで発揮しようとしているのかもしれない。


 呼吸を整え、神経を集中させている様子のコアン。

 程無くして彼女は一度大きく息を吸い込むと、ジゼの腕に向けていた両手を天に掲げ、高らかに叫んだ。


「……いたいのいたいのとんでけー!」

(だと思ったよバカ狐ぇー!)


 どう考えても効果の無さそうな(まじな)いを、重傷で苦しむ患者に施して満足した似非神様は、「後は唾でも付けときゃ治る」という、あまりにも無慈悲な有難い御言葉を残し、再び辺りの料理を物色し始めた。


 俺は確かに聞いた。

 コアンのおまじないが終わった後にジゼが、「フランクス」と呟いたのを。


 このままでは彼の両腕が完全に再起不能になってしまうので何とかしてあげたいが、俺には祈ることぐらいしかできない。


(神様…………いや駄目だ駄目だ)


 神頼みをしようとしたところで俺は気付いた。

 今このタイミングでの神頼みは無意味だ。

 何故なら、今一番身近にいる神様と認識されている存在は、人間界の料理に夢中な狐の神様だからだ。


 他に俺が知っている神様といえば"Zakuro Store"の爺さんだが……やっぱり不安だ。


(えっと…………神父様お医者様、邪悪な女狐に騙され、未だ苦しみ続けている哀れな子羊をどうかお救いください……)


 俺は、極力現実的な方法での治療がジゼに施されるよう、極力頼りになりそうな存在に向けて願った。

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