EP.5 - 42
コアンは食堂をうろうろしながら、床に落ちた料理を食べて回っている。
「あーもー、もったいないなー!」
(だからって拾い食いすんなや!)
一応、食器と一緒に落ちるなどして床に直接触れていないものを選んで食べているようだ。
食べ物を粗末にしないという心掛けは素晴らしいが、ここまで徹底する彼女の真意は別にあると俺は考えた。
(多分、単に食い意地張ってるだけなんだろうな……お腹壊しても知らんぞ……)
卑しい女狐の行動に呆れつつ、俺は落ちた食事以外を注視した。
襲撃してきた黒衣の者達は大半が縛り上げられている。
拘束用の縄など準備してある筈が無いので、本人の着ている服やテーブルクロス、カーテン等で縛っているようだ。
縛られずに倒れたままで放置されている者は、既に息絶えてしまったのだろうか。
「むむむ……」
(おい、何するつもりだ)
コアンは仰向けに倒れている黒衣の男に近付き、体中を触り始めた。
全く反応が無いので、やはり男はもう死んでいるのだろう。
「えーっと…………これか」
次にスマホを操作し、LEDライトを点灯させるコアン。
彼女はライトが点いた事を確認すると、閉じた男の瞼を指で開き、光を当てた。
(死亡確認かよ………………んっ!?)
この男が既に死んでいるのであれば対光反応を示さない筈であった。
しかし光を当てた瞬間、男の目は間違いなく瞳孔を収縮させた。
「ふぅ……ごりんじゅーです」
(いや待て待て、まだ生きてるぞコイツ!)
ガバガバな死亡確認である。
「ゴニンジューデ?」
「ざんねんながら……」
(いや生きてるよ! 危ないから離れろって!)
隣で様子を見ていたエルミーの問いかけに対するコアンの返答は、まるでドラマのワンシーンをうろ覚えで再現しているかのように不自然だった。
彼女がいったいどこでこの確認方法を覚えたかは不明だが、男がまだ生きている事に気付いていないのでその知識が不十分なのは確かだ。
一刻も早くまだ息のあるこの男からコアン達を離れさせなければならないと考えた俺は――――――とりあえず震えてみた。
「うおっ!? …………びっくりさせるな! ばか!」
驚かされたと勘違いしたコアンは俺に悪態をついた。
言葉で伝えられない事をもどかしく思いつつ次の手を考えていると――――――男がついに身動ぎをしだした。
「うおっ!? ……おまえもか! びっくりさせるなっつってんだろ!」
(おい、やめろ馬鹿!)
死体だと思っていたものが動き出した事に驚いたコアンは、あろうことか男の頭を平手で打った。
「しごこーちょくかな?」
(生きてんだよ! いい加減気付け馬鹿狐!)
馬なのか鹿なのか狐なのか……などとふざけた事を考えている場合ではない。
敵意を持ってこの場に現れた人間が満身創痍であるとはいえ拘束もされず放置されているのだ、このままでは危険なので何とかしなければならない。
「ウッ…………グゥ…………」
「……ッ!? コアン! デオタリィ!」
男が呻き声をあげた事でやっとエルミーが気付き、リニーを含めた三人は足早にその場から離れた。
「いきかえった……なんまんだぶなんまんだぶ……」
(混乱してる混乱してる)
気が動転しているのかコアンはこんな感じであったが、エルミーとリニーは近くに居た神父に現状を報告しに向かい、程無くして倒れていた男は他の者と同様に縛り上げられた。




