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EP.5 - 40

 窓ガラスが盛大に割れる音が鳴り響いた直ぐ後、リニーとエルミー、そしてコアンは床まで延びる真っ白なクロスが掛かったテーブルの下に、近くに居た誰かによって押し込まれた。


 俺は現在リニーの手の内に在り、食堂で何が起こっているのか目視する事ができない状態だが、周りの音や食堂に集まっている人たちの声の感じで大体の見当はついた。


 クレイス邸は何者かの襲撃を受けたと思われる。


「なんだなんだぁ~!?」

「エイナイナーーー!?」


 コアンとリニーは何が起こったのか解らないといった様子だ。

 二人の発した言葉は違うが、大体似たような意味だと思われる。


 エルミーの声は聞こえないが、ちゃんと傍に居る。

 隠れている身だという自覚があるのだろう、黙って辺りの様子を窺っているようだ。


(エルミーは賢いな。他二人は見習って欲しいもんだ……)


 危険な状況なので騒がしい二人を何とか黙らせたいが俺にはどうする事もできない。

 仕方無いのでその辺りはエルミーに期待することにして、聴覚による状況把握を進める事にした。


 聞こえてくるのは悲鳴と家具や食器などが壊れる音、そして勇ましい声。



 更には、勇ましい声。



 ――――――続け様に、勇ましい声。



(まあ、何となくだけど、そうなるんじゃないかなとは思ってたよ……)


 キースのものと同じ様なデザインのローブを着ている人たちは、皆体格が良かった。

 どうやらこの世界の聖職者は身体を鍛え武道を見につける風習があるようだ。

 何せ十人近くの賊相手に一人で大立ち回りしたキースの仲間だ、恐らく真っ白なテーブルクロスの向こうでは、彼らが襲撃者を千切っては投げ千切っては投げしているのだろう。


「おい、かせ!」


 コアンはそう言うとリニーから俺をもぎ取った。

 そして、スマホのカメラがある部分だけをテーブルクロスの下から覗かせて、「みせろ」と俺に命令した。


(なるほどなー)


 俺が彼女の命令に従いカメラアプリを起動すると、スマホの画面は外の様子を映し出した。


「お~、やっとるやっとる」

(やっとるな~)


 俺の視線の先では、白髪交じりだが体格の良い白衣の神父とナイフを構えた黒衣の賊がにらみ合っていた。


 数秒のにらみ合いの後、先に仕掛けたのは神父。

 三歩詰め寄ると右足のハイキックで賊の側頭部を狙った。

 賊は身を屈めてそれを交わし、両手でナイフの柄を持って突きの姿勢で前方に突っ込む。


 賊のナイフが蹴りを振り抜き後ろを向いた神父の背中に襲い掛かる。


 大振りの蹴りを放ち相手に背を向けた神父は隙だらけに見えたが、バックステップで賊の横をすり抜け、難なくナイフを避けた。


(すげぇ……まるで背中に目がついてるみたいだ)


 俺も一応、背面に"目"を持っているが、同時に機能させることは出来ない。

 武道の達人は機械の利便性をも凌駕する技を見につけているらしい、恐るべし異世界神父。


 神父は擦れ違い様に足払いを繰り出したが賊はそれを前転で交わし、仕切り直しとなった。


 再びにらみ合いになるかと思われたが、横から別の神父が賊に襲い掛かってきて二対一となり、程無くして賊は床に叩き伏せられて決着がついた。


「あのじぃちゃんつえーなー」

(そうだなー)


 そこかしこで大きな物音がしていたので、複数人に襲撃されていた可能性が高い。

 しかしどうやら先ほどの賊で最後だったらしく、食堂の騒ぎは収まりつつあった。

 刃物を持った相手を物ともしない達人たちが大勢居るこの部屋は難攻不落だ、それに気付かず襲撃してきた賊どものなんと哀れな事か。


(飛んで火に入る夏の虫って感じだな)


 もう安全であると判断したようで、コアンが俺を持ってテーブルの下から這い出る。

 その後ストラップで彼女の首から提げられた俺の視界に映ったのは無残に散らばった料理たちと、無様に倒れている賊どもの姿だった。


「あ~あ、もったいない……」

(しゃーないさ、命あっての物種ってやつだ…………ってか、多いな)


 多いと言うのは、落ちてしまった料理の事ではなく、倒れている賊の数だ。

 ざっと見て十人は下らない賊どもを瞬殺に近い形で撃退した聖職者達に驚くとともに、そんな大人数で襲撃してきた目的が気になった。


(何かを盗みに来たって感じじゃないよな……制圧か、或いは誰かの殺害が目的か?)


 昼に大聖堂で起きた一瞬の殺戮劇。

 そしてこの襲撃事件。

 何か因果関係があるのではと、俺は疑わずにはいられなかった。

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