EP.5 - 38
騒がしくなった周囲の様子を把握する為に、俺は画面をスリープモードに移行させてBGMが鳴りっぱなしのゲームアプリを停止させた。
そんな俺を手に持ちながら、リニーは落ち着かない様子を見せている。
恐らくは騒ぎのあったテラスの方向と、ユーシィが出て行ったであろう食堂の出入り口、そしてスマホの画面を代わる代わるに見ているのだと思われる。
騒ぎの原因や姉の行方も気になるが、スマホもやっぱり気になるといったところだろう。
肉親とスマホを天秤にかけるという行為はあまり宜しくないと思うが、異世界人の目にはそれだけの価値があるものに映っているという点は、俺にとって非常に喜ばしいことだ。
騒ぎの現場に駆けつけようか、姉の後を追おうか、この場でスマホを弄ろうか散々迷ったであろうリニー。
結局、彼女に選ばれたのは――――――――俺でした。
(嬉しいけど、それはどうかと思うぞリニー……)
リニーは一生懸命スマホの画面をタップしている。
しかし現在はスリープモードなので画面は真っ暗、何をしようが無反応である。
「エ、エルミー……スクオヒスカ……」
「エイナンキスカ?」
真っ暗になった画面に不安を覚えたか、リニーはエルミーに助けを求めたようだ。
エルミーは手渡されたスマホの画面を覗き込むと、上下にブンブン振り出した。
「オキロ!」
(起きてるよ! "スリープモード"だけど!)
振られっ放しは堪らないので、俺は仕方なくスリープモードを解除してホーム画面に復帰した。
エルミーが今しがたやった「起きろ」と言いながらスマホをシェイクするやり方は、当然だがコアンの真似だ。
ゲームのやり過ぎで調子を崩されては困るので、定期的に画面を消して止めさせようとするのだが、その度にコアンは「寝るな」「起きろ」「働け」などと言いながらスマホを振る。
いったい彼女は俺を何だと思っているのだろうか。
「リューゼ!」
「クー、フランクスエルミー!」
「おまえら、らんぼーにあつかってこわすなよー?」
(お前が言うな!)
エルミーからスマホを受け取ったリニーは、光の戻った画面を見るとエルミーに感謝をしながら嬉しそうな表情を浮かべ、なれない動作だが我慢しきれないといった感じで徐に画面をタップした。
「エルミー……アーコイレイン?」
リニーは、また不安そうにしながらエルミーに助けを求めた。
彼女がタップした位置は時刻がデジタル表記で表示されている部分だ。
ホーム画面に常駐している時計アプリをタップすると表示が切り替わり、画面全体にアナログの時計が表示される。
異世界人にはこれが何か理解できないらしい。
「ン~~~…………ケーフシェイニ……」
やはりエルミーにも解らないようだ。
「コアン、コレ、ナニ?」
彼女はコアンにスマホの画面を見せ、拙い日本語で質問をした。
「ん? ああ、とけーだよ、と、け、い!」
「ト……?」
(だから日本語で説明してもわからんだろって……)
相変わらずゴリ押しで会話を成立させようとするコアンだが、伝わらないと見るや否や、辺りをキョロキョロしだした。
「どこにもないんだよな、とけー」
恐らく同じ使用用途のものを見せて説明しようと考えたのだろう。
しかしどうやら彼女はこの世界の時計を知らないようだった。
(あるんだけど、ちょっと仕様が違うから解らないのかな)
この世界の時計に該当する物は、元の世界同様に円状ではある。
しかし外周に時間を表す数字は振られておらず、六芒星の頂点がそれに当たる。
時計の針に該当するものは付いているのだが、コアンにはそれが時計であると理解出来なかったようだ。
そんなやり取りをしている間に、周囲のざわつきもひと段落してきた――――――と思ったその時、窓ガラスの割れる音が食堂に鳴り響いた。




