EP.5 - 28
獣耳の少女による介護のお陰でモエナの体調は順調に快方へと向かい、問題なく歩けるようになると二人で外へ食料を調達しに行くようになった。
今日は川で魚釣りだ。
良く撓る細い木の竿に、数本縒り合わせて強度を増した糸、それに獣の骨を削って作った針。
川べりに腰掛け、少女に渡された釣具で食料確保に精を出すモエナ。
釣りは初めてだったが、手取り足取り教えて貰い、何度か試行してみると直ぐに釣れるようになった。
一方の少女はというと、近くで虫と戯れている。
餌用の虫を捕まえているのだが、魚の食い付きが良い虫はすばしっこいらしく、あちらこちらに駆け回り大忙しの様子だ。
川の水が日光を反射し、輝いている。
そして少女のクリーム色をした毛も、光を良く反射してキラキラ輝いていた。
彼女が駆け回ると、揺れ動く髪の毛と尻尾が反射した光の残像を残す。
それはまるで、彼女自身が光の衣を纏っているかの様だった。
幻想的なその光景に見蕩れているモエナに声がかかる。
「もえなー、ひいてるぞー?」
少女の声を聞き我に返ったモエナは竿から手に伝わる感触に気付き、勢い良く立ち上がり釣竿を引き上げた。
フッキングが上手くいったようで、釣糸の先が暴れまわり始める。
「おっ、ないす! まってろいまいくぞ!」
釣り針を魚に掛けるまではモエナ一人で事足りるが、魚の大きさによっては釣り上げるのに少女の助力が必要であった。
「でかいぞ! がんばれもえな!」
少女は川べりに突っ伏して釣糸の先を見ながら「みぎ」「ひだり」とジェスチャーを交えつつ声を上げて指示を出し、モエナはそれに従い左右に竿を振る。
魚の泳ぐ方向に合わせて竿を引く角度を変える技術を用い、時間をかけてゆっくりと魚の体力を奪っていく。
やがて魚の動きが鈍くなると、モエナと少女は二人で竿を握って力を込め、魚を川から引き摺り出した。
「おー! めっちゃでかいぞ!」
釣り上げた魚は、今日一番の大物であった。
少女は釣果に大変満足したようで、釣行はこれにて終了となった。
釣り上げた魚はその場で起こした焚き火で焼き、腹いっぱいになるまで食した。
そして、木こりの小屋に戻る道中で採集した木の実を炙ったものを夕食とし、日がとっぷりと落ちた頃、二人は床についた。
現在は気温の高い時期と低い時期の中間、豊穣期とされる時期に該当し、日中はそれ程でもないが夜は若干冷え込んだ。
少女は平気なようであったが、モエナにとっては、藁で作った床敷に数枚のボロの衣を重ねた掛け布団という環境は少々辛く、自然と二人は身を寄せて眠る体勢をとるようになった。
少女の体温と、時折触れる尻尾のもふもふした感触に心と身体を癒され、劣悪な環境の寝床にも関わらずモエナは不思議と安眠出来た。
床の中で今日あった出来事を思い返すモエナ。
彼女は今日、『ミギ』と『ヒダリ』が方向を示す異国の言葉だという事を覚えた。
少女の行動を良く観察し、彼女の喋っている言葉が何を意味しているかを理解しようと努めつつ、自分からも極力話しかけ、喋っている言葉を理解して貰えるよう働きかけるモエナだったが、少女はなかなか覚えようとしない。
もどかしさに苛まれる日が暫く続いたが、昨日ついに『モエナ』という自分の名前を覚えて、今日何度も少女が自分の名前を呼んでくれた事が、モエナは堪らなく嬉しかった。
必ず少女の名前を聞き出そう。
そしてお互いに名前で呼び合えるようになろう。
モエナはそう決意すると、少女の温もりに抱かれながら眠りについた。




