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EP.5 - 22

 キースは軽く溜息を吐いた。

 背に添えられたユーシィの手から伝わるものが、人の温もりと言うに相応しいものでなかった事が残念に思えたからだ。


 普段キースに対して彼女が取る態度は、傍目には好意的でありながらどこか取り繕った感じがあり、腹の底を見せまいという思惑が逆に透けて見えてしまう、あまり気持ちのいいものでは無かった。


 しかし先程腕を強く握ってきた時の彼女は、特に何かを口にした訳ではなかったがとても感情的で、嘘偽り無い想いを確かにぶつけてきていた。

 その想いは恐らくあまり良いものでは無いだろうと憶測したが、それでも彼女の素の人格からくるものが自分に向けられた事が、キースはほんの少しだけ嬉しかった。


 常に神への不信仰を内に秘めながら従順を装い生活し、自分自身が生み出す嘘にずっと触れ続けていたせいか、人は嘘をつくものだという考えが染み付いてしまい、自分が慢性的な人間不信に陥っていることにキースは気付いていた。


 そんな中、嘘をばら撒き続ける少女ユーシィと共に生活することになり、そのことがキースを疲弊させてきた。

 しかし、そんな嘘塗れの彼女がふいに見せた剥き出しの感情は、朝靄の肌寒さを払う陽光がごとき温もりを感じさせ、思わず顔が綻んでしまう程に喜びを湧き立たせた。


 その直後、慌てて腕から手を離した彼女の様子もキースの心を揺り動かした。


 薄布に覆われた秘所を覗き見てしまったような気恥ずかしさが湧いた。

 しかし、非常に人間的であり、そして歳相応の少女らしさで満ちていた彼女の動作がキースにはとても魅力的に見え、やがて良いものを見させて貰ったという下卑た感情が気恥ずかしさを塗り替えた。


 普段のユーシィとは懸隔した印象を与えたそれは、実に多くの感情をキースの中に生じさせた。


 その内の一つが、キースが長年抱いていた蟠りを解くきっかけとなった。


 恋愛というものが、キースには全く理解出来なかった。

 一般的でない家庭で育ったからだろうと諦めてなるべく考えないようにしていたのだが、ユーシィの姉がそういった話を好むので会話に苦労した。


 そんな謎に包まれた恋愛感情というものの正体を、キースはついに掴んだ。



『支配欲』



 これに違いないと、キースは確信した。


 ユーシィの姉が語っていた、ずっと傍に居たい、という気持ち。

 それは、手の届く所に置いておきたいという感情となんら変わりない。

 コアンを世話しようと思い立ったのも、きっとそれだとキースは考えた。

 珍しい生き物を手元に置いておきたいという欲求、それが己を突き動かしたのだと。


 嘘だらけの少女がほんの少しの間晒した本性。

 とても魅力的に見えたそれを、キースは欲しくてたまらなくなった。


 キースも嘘をつき続けて来た。

 本性を露にし、声高に異端を口にしたいと思ったことが何度もあった。

 それ故に、いつしか人間の本性というものを崇拝するようになっていった。


 コアンは、話している言葉はまるで解らないのに本心は手に取るように解った。

 嘘をつく気すらない真っ直ぐな彼女に神々しさすら感じた。


 神に祈りを捧げる時は、神の言葉に耳を傾けよと教えられた。

 キースは、何を言っているのか、そもそも語りかけてきているのかすらも解らないそんなものより、コアンの言葉を聞いていたかった。


 それが、コアンが神の使いであって欲しいという気持ちに移り変わっていったのだろうと、キースは自己分析した。


 不思議な感覚であった。

 あれほど不信に思い距離を置きたいと考えていたユーシィを、ずっと手元に置いておきたいと思うようになった。


 気乗りのしなかったマークェイ家の娘ユーシィとの結婚がキースは待ち遠しくなった。


 半ば情けのつもりで進めようとしていた話が、いつの間にか自分の為になってしまった事実に、キースは滑稽さを感じずにはいられなかった。

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