EP.5 - 20
今、大聖堂内は混乱の最中にある。
俺に記録された動画は聖堂内に居る多くの聖職者達を困惑させた。
ユーシィはスマホのカメラ機能について一生懸命説明していたが、やはり初見では半信半疑くらいに持っていくのが関の山のようだ。
しかしその後に行なわれたユーシィの、力の篭った演説は、一度は怒号を生み出すも最終的には皆を絶句させた。
何を話しているかはいまいち把握できなかったが、彼女が全て語り終えた後の静寂と張り詰めた空気は、まるで推理ドラマの名探偵が犯人のトリックを暴くシーンを見た時のような爽快感を俺に与えた。
何だか分からないがユーシィの大勝利で閉会かと思っていた矢先、事件は起きた。
恐らく、人が死んだ。
キースの周りにいた者達が手に持っていたクロスボウをぶっ放し、同士討ちを始めたように見えた。
その直後、俺を持ったユーシィに一直線に駆け寄る目隠しをしたままのキース。
どうやら流れ矢に当たらないよう盾になってくれたらしい。
(流石のイケメンムーブ、モテる男は違うな……っていうかそれ、心眼とかいうやつですか?)
据え置かれている状態ではないので視界が安定しておらず、その姿をじっくりと見ていたわけではないが、確かにキースは目隠し状態でも安定したフォームで走っていた。
両手の拘束具もいつの間にか外れていて完全に自由の身になっている。
力任せに引き千切ったのだろうか、聖職者のくせに完全に戦闘職向けの能力が備わっているようだ。
(何かスキルとか使ってんのかなぁ……身体強化的なやつ)
ド派手な攻撃魔法の類は今のところ見られないが、身体の内部に作用する不思議な力の存在は確認している、コアンの超回復能力がそれだ。
(自分の身体をどうにかする事は出来ても、突然空中に炎を出現させるようなのは流石の異世界でも無理なのかなぁ……)
離れた位置の空間に干渉する力よりも、自分自身の体内に作用する力の方が何となく現実的な気はしないでもない。
(異世界とは言え『現実』だもんな、起こせる奇跡にも限度があるよな……っていうか、そんな事考えてる場合じゃなかった、今ってわりとピンチなんじゃないか?)
聖堂内は騒然としている。
閉鎖された空間で殺傷能力を十分に備えた飛び道具が使用されたのだから当然だ。
「ミューゾナント、エイナンク!?」
会議の参加者の男性が叫んだ。
同士討ちを始めた者達の目的を知りたいのかもしれない、恐らくは「何やってんだお前ら」といった感じの意味なのではないだろうか。
(そうだな、奴らが何を考えて行動しているのか知る必要があるな……こっちに危害を加える気が無いなら慌てる必要も無いしな)
人の命が造作も無く奪われていく様を間近で見た経験が影響しているのか、この緊迫した状況でも冷静になれている。
己の成長を感じられた喜びと同時に疑問が湧いた。
経験を得る事で、このスマホという機械のどこが成長したのか、と。
(……ま、いいか。そんなことより出来れば向こうの様子が見たいんだけど、キースが邪魔で見えないな)
屈み込んだユーシィの前で背を向けて姿勢を低くしているキースが見える。
頼り甲斐のある大きな背中の向こう側では、いったい何が起こっているのだろうか。
最適な行動を取る為に少しでも情報が欲しいところだ。
「アムノイ、サーキエイゾ!」
男の声が響いた。
聞くという動詞の『サーキ』に接尾語『エイゾ』を付けることで他人にその動作を促す言葉となる。
つまり「皆の者、聞け!」と、何者かが叫んだのだ。
(おう、なんだなんだ…………あれ? この声って……)
聞き覚えのある声だった。
音に関する機能に定評のあるiZakuroX6は確かにそれを鮮明に記憶していた。
(あの時の泥酔男じゃねえか、捕まったんじゃなかったのか……)
声の主は、幼女二人の連携攻撃でノされたが、そのお陰で唯一生き残ることが出来た賊の男だった。
会議の参加者の中に紛れていたようには見えなかった。
そうなると、奴はキースと一緒にいたフードを被りクロスボウを持った者達の中に居たことになる。
(あの野郎……まさか、復讐に来やがったのか!?)
武器を構えた物々しい集団だが、現れた時の状況から考えて聖職者達の関係者なのは間違い無いだろう。
つまり、泥酔男はその中に変装して潜んでいた事になる。
そして、先程一瞬だけ見た光景では、複数人が互いにクロスボウを向け合っていた。
泥酔男は、仲間を連れて復讐に来たと見るのが妥当だろう。
(やべぇ……どーすんだこの状況……)
一件落着で終わるかに見えた誘拐事件は、更なる局面を迎えることになった。




