EP.5 - 14
査問会議の予想外な展開に、ユーシィは思わず立ち上がり声を上げてしまった。
マークェイ家は海賊と結託し、教会の内部抗争を引き起こそうとしている。
これが、現在会場の中心に立っている男の発言内容である。
議長に指名された者以外が発言する事は規則に反している、何度も違反すれば退場を命じられる。
ユーシィは、これからミノーグ家の悪事を告発し、同家を潰すという使命を負っている。
退場する破目にならないよう、彼女は昂ぶる感情を抑え、一旦深呼吸してから着席した。
男の発言は、とんでもない言いがかりであった。
海賊と結託して教会を乗っ取ろうとしたのはミノーグ家で、マークェイ家は当然関係ない。
内部抗争を引き起こそうとしているという話は、そもそも初耳であった。
マークェイ家は経営を立て直すことで手一杯であり、教会内を動かすような大仕事など出来る状態ではない。
混乱し始めた頭を持ち直そうと、ユーシィはブツブツと呟きながら情報を整理し始めた。
問題の発言をした男の素性は分からない。
教会の正装であるローブを纏っているのだから、教会の信徒であろうことは間違いないが、ユーシィの見知った顔ではなかった。
彼は、マークェイ家と海賊が結託しているという情報を、どこから得たのだろうか。
ミノーグ家が海賊と繋がってるという話はクレイス家お抱えの学者達から聞いていたが、それが曲がって伝わってしまったのだろうか。
そして、内部抗争という話。
流石に公の場で全くの無から作り上げた嘘の話はしないだろうから、何かしら元になる情報があったのだろう。
部外者であるユーシィは教会の内部事情には詳しくない為、これ以上の事は分からない。
フゥ……と、ユーシィは大きな溜息を一つ、吐いた。
結局、真相に辿り着けそうな情報は何一つ無かったが、落ち着いて考えた事でユーシィの中に一つの仮説が生まれた。
ミノーグ家は、海賊と結託して教会を乗っ取るという計画が漏れている事を察知していた。
なので、確たる証拠を掴まれる前にマークェイ家に罪を着せようと、海賊と協力して嘘の告発を教会関係者であるあの男にしたのではないだろうか。
マークェイ家と海賊が繋がっているという体で話が進めば、巫女同士の争いに一般人であるエルミーを巻き込んだのはミノーグ家ではなくマークェイ家となるだろう。
あいつらならばそれくらいの事は考えているかもしれないなと、ユーシィは思った。
ミノーグ家は情報収集能力が優れていて、行動も早い。
マークェイ家はそれで何度も先手を取られ、苦渋を舐めさせられてきた。
しかし今回ばかりはそうはいかない。
なぜならば、ユーシィの手にはこの世界の人々の想像を遥かに超えた"確たる証拠"があるからだ。
「エルミー、リオスリュジオス」
「……ン? クー」
ユーシィは、エルミーからコアンの不思議な絵本を受け取った。
この絵本には、あの日起こった出来事が鮮明に記録されている。
最早記録されているというより、絵本自体が記憶していると言っても過言でない程のものだ。
この絵本がどのようなものであるかをこの場に居る皆に説明する為、エルミーには会場の様子を記録して貰っていた。大丈夫だ、抜かりは無い。
ユーシィは絵本を開き、エスティと海賊達が談笑している様子が描かれたページを見ながらほくそ笑んだ。
すると、絵本が細かく振動した。
時折起こるこの動作は、一体何を意味しているのだろうかという疑念がユーシィの脳裏に一瞬過ぎったが、そんな事を考えている場合ではないと思い、直ぐに思考を切り替えた。
挙手をして、発言権を与えられるまで待ち、指名されたらエスティと海賊の密会現場の記録を議長に見せに行き、改めて先程の男の発言を否定する。
単純なことではあるが、窮地に立たされている現状、失敗は許されない。
ユーシィはこれから自分がすべき事を落ち着いて、再確認した。
指名された者の発言が終わるまで手を下ろして待ち、発言が終わり次第改めて挙手し指名されるのを待つ。
そんな事が繰り返されるなか、ユーシィが三度挙げた手を下ろした時、ついにこの査問会議の主役が会場に現れた。
「…………!?」
ユーシィは、武装した大勢の信徒達に囲まれたキースの姿を見て狼狽した。
彼は後ろ手に縛られ、目隠しをされた状態で歩かされている。
まるで犯罪者の様だ。
ユーシィには、なぜ彼がそのような扱いを受けているのか分からなかったが、捏造されたマークェイ家の罪を告発した男の発言にあった"内部抗争"という言葉に、ユーシィの不安が掻き立てられた。




