EP.5 - 13
現在、大聖堂では異世界人達による会議のようなものが行なわれている。
俺の視線の先には、会場の中央に立って熱弁を振るっているユーシィの姿があった。
その姿はスマホに動画として記録されている。
撮影者はエルミーで、撮るように指示したのはユーシィだ。
(議事録でも作成するつもりかな、スマホはこういう時便利だよな。俺の凄さを思い知れ異世界人!)
この会議は、挙手をし、場を取り仕切っている者に指名され、席を離れて会場の中央に辿り着くまでは発言が許されない決まりらしく、かなりテンポが悪い。
その代わり雑談等でざわつくことはなく、厳粛な雰囲気が保たれている。
そんな会場では、静かである為に際立ってしまう音があった。
――――腹の虫が鳴らす音だ。
丁度昼食時だと思われるので仕方がないだろう。
コアンとエルミーは直前に肉を食べたので平気なようだが、ユーシィをはじめ、近くに座っている人たちの腹も時折くぅくぅと悲しげな声をあげている。
(もしかして、居眠り防止策なのかな)
食後は睡魔に襲われやすい。
参加者は会議に集中する為に敢えて食事をとっていないのかもしれない。
(そういう決まりがあるのかもしれないなー)
ここへの道中、おっさんに肉を貰ったコアンはユーシィに怒られていた。
あれは会議の直前に食事をしてはいけないという決まりがあったからなのかもしれない。
(まあ、お嬢を空腹のまま放っておくのは逆効果だし、結果オーライってやつだな)
どんな内容の会議であれ、異世界の言葉を碌に理解していないコアンが参加する事は不可能だ。
であるならば空腹で騒がれるより眠ってもらっていた方が良いだろう。
――――発言を終えて席に戻ってきたユーシィのクソでか溜息が聞こえた。
(この状況でお嬢が寝ないわけないんだよなぁ……)
案の定、コアンは爆睡していた。エルミーの太ももを枕にして。
皆が何を話しているのかさえ分からず、暇つぶし用のスマホはエルミーが撮影用に使っている。
そして騒ごうとすれば窘められるのだ、そうなればもう寝るくらいしかやる事がない、致し方なし。
コアンの事は一旦置き、現在行なわれている会議の内容について考えてみた。
異世界人達の発言には、聞き覚えのある名前が幾度も登場する。
エンジーク、ミノーグ、マークェイだ。
そしてユーシィはエルミーの名前も頻繁に出している。
その他に『クレイス』という単語が登場し、『キースクレイス』という使い方が多かったことから、ミノーグやマークェイと同じく人名で、キースのファミリーネームに相当するものである事が分かった。
(間違いなく、あの事件について話してるな)
詳細は分からないが、登場する名前の因果関係を考えれば、今行なわれているものがコアンとエルミーの誘拐事件についての会議である事は明らかだ。
(なんか、結構複雑な事件に思えてきたな……)
誘拐された二人が無事に帰ってきて終了とはならず、集落とは距離のあるこの街で未だ多くの人が事件について語っているのだから、個人間の怨恨程度の小規模なものでは無いのだろう。
関わっている人物について考えてみても、やはり複雑な事情があるように思える。
ユーシィの家は資産家のようで、エスティも服装等から憶測するに、同様であろう。
そんな資産家の娘二人が奪い合ったキースという男。
彼は、とんでもない資産家か、或いはかなりの権力を有している可能性が高いと見える。
(うーん……終わったもんだと思ってたけど、何だかキナ臭くなってきたな)
賊と結託したエスティによるコアンの誘拐は失敗し、ユーシィはエスティを殺す事で復讐を成し遂げた。
しかしそれで解決とはならず今日まで縺れ込み、現在ここでなされている議論はコアンとエルミーの誘拐事件に関連する事でありながら、キース、ユーシィ、エスティの"ファミリーネーム"が多く登場している。
(ああ、そうか……)
ここにきて、事件について行なっていた考察に確かな手応えを感じた。
(これ、政略結婚絡みの事件だったんだ)
キースの家、クレイスファミリーに自分の娘を嫁がせる為に、反社会勢力まで利用して行なわれた資産家同士の抗争。それがこの事件の真相ではないだろうか。
(だからキースはユーシィに迫られても素っ気無い感じだったんだなぁ……)
彼は裏の事情を知っているが故に、ユーシィの好意を素直に受け入れられなかったのだろう。
巫女に相当すると思われる『エンジーク』というキーワードが度々登場してくる事から、この政略結婚には宗教的な側面が有り、それに反発していたとも考えられる。
(宗教に定められた制度を利用して仕組まれた政略結婚となりゃあ、模範的な聖職者のキースにとっちゃ我慢ならん事だろうなー)
憶測の域を出ないが、そういった可能性もあるだろう。
定かではないが、キースは何らかの理由で結婚に反対していた。
それがユーシィの復讐劇を生んだと考えると、いつぞやの思いつめた彼の表情の真意が何となく分かったような気がした。
(エスティも、他人のエゴに人生を左右された被害者なのかもな……)
エスティがコアンの誘拐を画策した真意について考えてみた。
コアンをエンジークであると認識した事が発端であろうことは明らかだ。
ユーシィと一緒に生活していたエンジークのコアンを、ユーシィの実妹だと誤認したのかもしれない。
であるならば、ライバル関係にあったユーシィの姉と妹を殺しているであろうエスティが、何故コアンについては誘拐するだけに留めたのか。
コアンを人質にしてユーシィを誘き出し、二人纏めて亡き者にしようと考えていたのか、或いは――――――
(……良心が咎めた?)
誘拐事件の起きた日の朝、エスティは難しそうな表情をして窓から外を眺めていた。
あの時彼女は、コアンを殺すべきか否か、迷っていたのかもしれない。
幼過ぎる命を奪う事を躊躇っていたのかもしれない。
(いやでも、それならユーシィの妹も生きてるか……)
ユーシィの家に飾ってあった肖像画の一つに、家族を描いたと思しきものがあった。
恐らく最近描かれたであろうその肖像画には、ユーシィらしき人物とその姉妹二人が描かれていて、妹らしき人物はコアンと同じくらいの歳に見えた。
(故人の考えを部外者の俺がいくら想像してもしょうがないか……)
俺の視線の先では見知らぬおっさんが熱弁している。
やたらとマークェイマークェイ言ってるのが気になり、じっくり聞いてみようと思い立ったその時――――
「ティー! ソー!」
ユーシィが声を上げた、簡単な異世界語なので意味は直ぐに分かった。
ティーもソーも否定の意である。
ユーシィは見知らぬおっさんの発言を否定し、抗議をしたのだ。
「ユーシィ=マークェイ、シェイク!」
(やっぱ怒られたか……突然どうしたんだろう)
議長らしき男はルールを破り発言したユーシィを諌めた。
ユーシィはおっさんの発言に強い憤りを感じたようで、声を上げるだけでなく立ち上がって意思表示をしたが、結局議長らしき男に従い大人しく席についた。
「しずかにしろよ~……ねれないだろ~……」
(どこまでも暢気だな!)
コアンの寝惚けた声が聞こえてきた。
ユーシィにもその声は聞こえている筈だが、先程の様に大きな溜息をつくでもなく、何やらブツブツと独り言を言っている。
(なんか、不穏な感じになってきたな。これからどうなるんだろう……)
俺は会議の、そしてユーシィの行く末を憂いた。




