EP.5 - 8
活動を始めた鳥たちのさえずりが聞こえる。
彼らの声のお陰で、視界を塞がれた俺にも外がすっかり明るくなっていることが理解できた。
セットされた目覚まし機能が作動するまでもう少しというところで、俺はバイブ機能を作動させた。
「ンッ…………ンンン~~……」
(ふぅ……起きたか)
昨晩寝床に潜り込んでスマホで漫画を読んでいたユーシィは寝落ちしてしまった。
仰向けになった彼女の胸部という微妙な場所で夜を明かした俺は、このまま目覚まし機能が作動するのを待つか、バイブ機能を使って優しく起こすかの二択で明け方から悩み続けていた。
Zakuro Storeで神様と名乗る爺さんに痛烈な駄目出しを喰らった為、年頃の女性に対して取る行動には人一倍気を使っている。
美少女JKのスマホとして返り咲く為に、常に紳士であらねばならない。
なのでユーシィの胸の谷間でワザとらしく震えるという行為は少々気が咎めたが、爆音アラームで叩き起こすよりは紳士的なのではないかという結論に至り、ついに意を決してバイブ機能を作動させたのだった。
(これは不可抗力……ラッキーなんたらってやつだから! セクハラとかではないんです、許して神様!)
ラッキーとか思っている時点で許されなさそうな気はしないでもない。
しかし眠れる美少女に気を使ったという事実もある。
スマホである俺の正義を証明してくれる存在は現れてくれるだろうか。
ユーシィは着替えを済ませ寝室を後にした。
その最中、俺はアウトカメラを下にしてテーブルに置かれていたので、彼女の着替え姿を見る事が出来ない状態であった。
つまり俺は潔白であり、レーティング問題もクリアだ。
(スマホなだけに女の子も無警戒だからなぁ……もっと『俺』という存在をアピールしたほうが良いかもしれないな)
セクシャルな問題は兎も角、やはりもっと異世界の人々と交流を図りたい。
コアンは何の疑いもなく俺に言葉で指示を出しているが、他の人たちに関しては、常識という価値観が邪魔をしているのだろうか、俺を『物』としてしか見ていないように感じられる。当然ではあるが少し寂しい気もする。
(やっぱ声か、或いは文字によるコミュニケーション方法が必要だな)
学者達の頑張りのお陰で日本語による会話の下地が少しずつ出来上がっている。
スマホには文字情報を出力する機能があるので、所有者とそれでやり取りをする方法があれば活動のし易さは跳ね上がる。
(絶対何か方法がある筈なんだよなー)
綿密な意思疎通が可能であれば、例えば後ろ髪の寝癖を指摘してやる事なんかも出来るのになと、欠伸をしながら歩くユーシィの手の中で俺は思った。
何事もなく朝食を済ませ、昨日のように家の中でぐだぐだと過ごすのかと思われたが、今日は他所に何か用事があるらしく、ユーシィは昼食を待たずにコアンとエルミーを連れて外に出た。
(外食でもするのかな?)
街のメインストリートには多種多様な食品を売る店と、レストランらしき店が立ち並んでいる。
ユーシィはそれらに目もくれず街の奥へと歩み進んでいるが、昼食の時間が近いこともありコアンは興味津々だ。
「おーやきとりだ!」
(鶏かなぁ、豚かもしれんな)
頭に布を巻いた小太りのおじさんが店の軒先に設置された調理台の前に立ち、一口大の肉を数個串に刺して焼いている。
匂いで客を集めるために敢えて店の外で調理しているのだろう。
まんまとそれに釣られたコアンは、ふらふらと引き寄せられていった。
「……ン、ニアー?」
おじさんは少し驚いたような顔をして、近付いてきたコアンをまじまじと見た。
「にゃーじゃないぞ?」
(日本語通じないから……しかし、やっぱりそんなには驚かないな)
おじさんは首を傾げている。
それに関しては、聞き覚えのない言葉で話しかけられたのだから当然だが、コアンの耳や尻尾を見てもリアクションが薄いのが気になる。
ユーシィの両親は随分驚いていた。
特に母親の方は気絶する程ショックを受けていたのだが、この差は何なのだろうか。
(やっぱ偽物だと思ってるのかなー)
そんな事を考えていると、おっさんが謎肉の串焼きを一本、こちらに差し出してきた。
「おっ? くれるのか!?」
(えっ? くれるのか!?)
コアンはそれを受け取ると、早速一切れ食べた。
「うんまー! ちょろいーだなこれ!」
(いいのかなータダで貰っちゃって)
俺の心配をよそにモグモグと串焼きを食べるコアン。
程無くしてユーシィとエルミーが駆け寄ってきた。
(あれ、やっぱマズかったか?)
ユーシィは慌てた様子でおじさんに頭を下げだした。
しかし当のおじさんは笑顔で受け答えをしている、いったいどういう状況なのだろうか。
「じゃーなおっさん! ふらんくすー!」
「ハッハッハ! アワリアフランクス!」
金銭のやり取りなどがなされた様子もなく、結局タダで串焼きを一本ゲットしたコアン。
おじさんに別れを告げてその場を少し離れたところでちょっとしたトラブルが起きた。
「あだだだだだだ!? なにすんだおばさん!」
「コアン、ダメ!」
(ま、そうなるよな……)
ユーシィはお怒りのようだ。
詳しい理由は解らないが、やはり褒められた行為では無かったらしい。
「つぎみみひっぱったら、ひっかくからな!」
(コ、コイツ分かってねぇ~……)
コアンの態度を見て自分の意思が伝わってない事を察したか、ユーシィは大きな溜息を一つつくと、エルミーに耳打ちをした。
程無くしてエルミーは二、三度頷くと、コアンの横にぴったりとくっついた。どうやら腕を掴んでいるみたいだ。
(なるほど、勝手にどっか行かないように見張っとけって事か……)
そのまま、一行は街の奥へと再び進みだした。
(うーん……何だったんだろうなぁ、アレ)
おじさんやユーシィの行動から読み取れたのは表面的なことのみだったが、ひとつだけ気になる事があった。
おじさんはコアンに串焼きを渡した後、一昨日の夜コアンの寝室に現れた男がしていた、腕をクロスさせる例のポーズをしていた事だ。




