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EP.5 - 4

 侵入者騒ぎの後、オーディヌスさんと別れたユーシィは俺を持って自室に戻った。


「オー……ッホ……ッホッホ……」


(そこ声に出して読むのやめて! ユーシィのイメージ崩れちゃうから!)


 ユーシィは真っ暗な部屋でスマホの画面に表示されている漫画を読んでいる。

 時折キャラクターの台詞を声に出して読み上げるのは、記憶する為だろうか。


 ユーシィが読んでいる漫画は、所謂『悪役令嬢もの』というジャンルのものだ。

 乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったゲーマーの男が、どのシナリオでもメインキャラクターの誰かが非業の死を遂げてしまうという運命に、ゲームのやり込みで培った知識を以って立ち向かうという話である。


 自分と同じく貴族の娘であるメインヒロインを好きになってしまったり、相手役の男達に言い寄られたりと、様々なイレギュラーに翻弄されつつも登場キャラクターの死亡フラグをへし折り続けた結果、結局は『逆ハーレムエンド』という、悪役令嬢である自分が死んでしまう結末に辿り着いてしまう。


 主人公は当初、やはり自分の命が一番大事だと思い、メインヒロインが死んでしまう『没落死亡エンド』のルートで進めていたのだが、メインヒロインに恋をしてしまい、相手役の男の誰かが死んでしまう『個別エンド』のルートに切り替える。


 しかし相手役の男達のイケメンムーブに絆されて彼らの死亡フラグをへし折り続けた結果、没落死亡エンドルートに引き戻されてしまう。


 何とかメインヒロインを救いたいと考えた主人公は、自分の中身が男であるという『バグ』を利用して、死亡ルートまっしぐらなメインヒロインを『買う』という選択肢を獲得する。


 主人公が利用したバグとは、『メインヒロインへの告白』であった。


 ゲームにしか興味が無かった主人公が、敵役という複雑な立場でメインヒロインに想いを伝える為に頭をフル回転させるこのシーンが本作品の一番の山場である。


 色々な要素が邪魔をしてストレートな告白が出来ない主人公が苦し紛れに言い放った台詞は『私を姉と呼びなさい』であった。


 一旦、奴隷として買ったメインヒロインを、両親にねだり養子として迎え入れさせ義理の妹として没落死亡エンドを回避し、男と結婚する気が起きない主人公は相手役の男達を全てメインヒロインに宛がい、『真・逆ハーレムルート』というメインヒロインと悪役令嬢が対立しない不正なルートの確立を目論むも、あと一歩のところで本来の『逆ハーレムエンドルート』に引き戻されて死亡し、物語は終幕を迎える。


 どれだけやり込みを続けてもゲームの内容が変わることは無い。

 それでもやり込み続ける意義とは何なのか、というのがこの作品のテーマである。


 そんな作品の何が、ゲームそのものが存在しない異世界の住人であるユーシィの琴線に触れたのだろうか。


「ン~……ヘキサン……」


 主人公がメインヒロインに『私を姉と呼びなさい』と言うページを見たユーシィが、しかめっ面をしつつ異世界語で姉を意味する『ヘキサン』という言葉を呟いた。内容を把握できている証拠だ。


(やっぱ絵があると内容を想像し易いんだろうな)


 漫画は様々な視覚情報を有していて、書かれている言葉が読めない異世界人でも何となく内容を理解出来る。

 その為、この漫画は学者達による言語研究の資料として用いられていた。

 なのでユーシィはこの漫画の存在を以前から把握していたが、強い興味を示したのは今が始めてだった。


(何で突然読みたくなったんだろ……)


 趣味趣向は人それぞれだが、流石に夜中にこっそり他人の寝ている部屋に忍び込んでまで読みたくなるような内容だとは思えない。

 だが現にユーシィはこの漫画を強く求め、必死に日本語の文章を読もうとしている。


(……ああそうか、覚えたい日本語があるんだな、きっと)


 ユーシィがコアンと何かしらの会話をする為に必要な言葉がこの漫画には含まれていて、それがどれであるかを彼女は今、探しているのだろう。


「ヨビナサイ……」


(もどかしいなぁ、質疑応答出来ればすぐに解決するのに)


 急を要するのだろうか、その表情は真剣そのものだった。




 ユーシィは異世界の言語と戦い、俺はもどかしさと戦いながら夜は更けていった。




 翌朝、俺のアラームで叩き起こされたユーシィはスヌーズ機能の解除方法が解らず、音楽の鳴り止まない俺を持ってコアン達の居る部屋に向かった。


 そこでは、コアン達もアラームに悩まされていた。


「あ、おばさん! こいつだまらせろ!」


 コアンがそう言って指差したのは、昨日見た時計の様な箱型の置物だった。

 どうやらこれはタイマーだったらしく、六芒星が描かれた盤上の針は以前確認した位置とは全く違う所を指していた。


 異世界のアラームはオルゴールの様な音色だ、恐らくは似たような構造なのだろう。


 ユーシィはコアンに俺を渡し、異世界タイマーを弄って解除したようだ。

 コアンもスマホのアラームを解除し、部屋に静寂が戻る。


「ふい~、じゃあもうひとねいりするか~」


(……オイ)


 二度寝しようとするコアンを注意する為にバイブを作動させようとしたところ、俺はベッドの上に放り投げられた。


「へへ~ん、おまえのかんがえなんておみとーしだ」


(読まれてたか。まあ、でも……)


 俺は『Find me』で爆音を奏でてやった。

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