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EP.5 - 2

 ユーシィの家の内部は外観通り広々としていた。

 それなりに資産を持った家庭である事は間違いないであろう。

 しかし高価な調度品がそこかしこに飾ってあるような、いかにも金持ちの家という感じでは無い。それ故に屋内の広さが際立っている。


(金にものを言わせてって感じがしないのは好印象だな~)


 悪く言えば殺風景だ。

 しかし階段の手摺りやキャンドルスタンド等に細やかな装飾が施されていて、ある種の拘りの様なものを感じる。

 床が総絨毯なので靴音が殆どせず非常に心地良い。派手さは無いが要所に手間と金をかけて住居そのものの価値を高めている、上品さの塊のような内装だ。


(…………そうでもなかった)


 オーディヌスさんとはエントランスで別れ、そこからコアンとエルミーはユーシィに連れられ大階段を登り、大きなベッドのある部屋へと案内されたのだが、その途中、壁などの汚損がやたらと目に付き、管理という点に関しては甘さが見られた。


 しかし、コアンとエルミーが案内された部屋は違った。

 汚損は全く目立たないし、設置されているドレッサーなどは値が張りそうな豪華なもので状態も良い。

 壁には肖像画が飾ってあり、部屋の外と比べると随分派手な印象だ。


 コアンは物珍しそうに室内をウロウロしている。

 一方エルミーは、これまた派手な装飾が施された白い丸テーブルを前に椅子に座り、ユーシィと何やら話をしているようだった。


「なんだこれー?」


 コアンが興味を示したのは、大体三十センチ四方の大きさをした箱型の置物だった。

 前面に六芒星が描かれた円状の盤があり、中心から右斜め上を指した棒が取り付けられている。彼女はその棒が微動したのを見て興味を示したようだ。


(時計っぽい感じはするけど、何だろう)


 数字が記されていないので違うかもしれないが、形状は長針のみの時計を連想させる。


 コアンは謎の装置を暫く眺めていたが、やがて興味を無くし部屋の物色を再開した。棒が一向に動かないので飽きてしまったようだ。


 その後、オーディヌスさんが真っ白な陶器のポットとティーカップ、それにお茶菓子が沢山乗った皿をトレイに載せて現れた。


「おー、くいもの!」


 匂いで解ったのだろう、空腹を持て余していたコアンが超反応した。

 エルミー達が座っているテーブルにそれらが並べられ、オーディヌスさんは上品な動作でカップに液体を注いだ。


(紅茶っぽいな、お嬢の舌には合わなそうだ)


 案の定、コアンはカップを口に運ぼうとしない。

 では皿に盛られたビスケットの様なお菓子はと言うと――――――


「ぱさぱさしてて、いまいちだなー」


 好みでは無い様だ。

 逆にエルミーには好評の様で、


「アイガフー!」


 異世界語で高評価を表す『アイガス』という言葉を、彼女はお菓子を口に含みながら発した。


 その様子を眺めつつ目を細めて笑うユーシィが見え、その表情に思わずドキリとした俺は心の底から思った。


(こんな子に迫られて無反応とか、完全にイカレてるわあの朴念仁)


 次いで、キースに対する殺意にも似た衝動が俺の中に湧き起こった。




 お茶会の後、昼食をとるため食堂へ案内された。

 順序が逆の様な気がしないでもないが、食事の準備に時間がかかる為に気を使ってくれたのだろう。

 実際、コアンはお茶菓子を食べている間大人しかったので非常に助かった。高価そうな調度品が多くあるここで空腹を理由に暴れられでもしたらどうしようかと心配していたのだ。


「おー! ういろうー!」


「ウィ~オ~ン~~~!」


 エルミーに何度か訂正されているのだが、コアンはウィオンの事を頑なに『ういろう』呼ばわりする。

 新たに覚え直すのがそんなに面倒なのだろうか、何とも不思議な生き物だ、この狐娘は。


 白いテーブルクロスが掛けられた長テーブルの端に、大皿に盛られたウィオンの姿焼きが鎮座していて、その横にパンと野菜類の入った金属製のボールが並んで置かれている。

 その傍に立つ真っ白な衣装を纏った男性がパンを手に取りナイフで切り込みを入れ、そこにウィオンの切れ端と野菜を挟む作業を繰り返していた。


 それをコアンとエルミーが眺めていると、ユーシィが完成品を手に取り二人に渡した。

 白衣の男性はその行為に対し何も言及する事なく、一度手を止めこちらに笑顔を向けると、また作業を始めた。


「やったー!」


「ター!」


 パンを頬張りつつ、スープの用意された席に着かされる二人。


(もう順序めちゃくちゃだな!)


 環境が変わったせいで、二人の育ちの悪さが際立ってしまう。

 それでも何事もなく食事が始まるこの家には、きっと心優しい家族が住んでいるのだろう。


(俺、ユーシィを信じるわ……)


 この街で、何が行なわれるかはまだ解らない。

 だがユーシィを疑うのはもうやめようと、俺は誓った。




 ――――その日の深夜、事件は起こった。




 コアンとエルミーは昼間案内された部屋のベッドで熟睡しているようだ。

 俺はというと、お茶会で使用したテーブルに、アウトカメラを上にして置かれている。


 そして俺の視線の先には、


(何しに来たんだ……)


 別室で休んでいる筈のユーシィが居た。


 寝ている二人を起こさないようにこっそりと部屋に入って来た彼女の目的は、どうやら俺らしい。

 テーブルに置かれていた俺を手に取り、フリップを開いて画面を眺める彼女の表情は暗くて良く見えない。


 だが次の瞬間、とんでもないものが俺の視界に現れた。


(誰だッ!?)


 ユーシィの背後に何者かが居る事に気付き、俺は咄嗟に『Find me』を作動させた。

 それとほぼ同時にユーシィの口が手で塞がれるのが見え、その刹那、俺は床に落ちた。


「おいぃ……うるさいぞ~?」


 俺の音を聞きコアンは目を覚ましたようだ。

 視界がフリップで塞がれてしまった為現状を目視出来ないが、口を塞がれもがくユーシィの声を俺の聴覚が捉えている。


 次いで聞こえたのは、恐らくは椅子が倒れる音だ。




 そして――――――――




 ――――ユーシィの金切り声が部屋に響いた。

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