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EP.1 - 3

何だかゴチャゴチャして参りましたが、しんどいのでなるべくシンプルにしたいです。

(――よぉ~し良い子だ、そのままにしてろよ~?)


 落ち着きを取り戻したロリ狐は、今度は画面を見つめながら首を傾げたり少し顔を横に動かしたりしている。

 時折作動するオートフォーカス機能が原因だろう。画面に映る自分の顔に突如貼り付く四角い枠を避けようとしていると思われる。



 ――――シャッターを切る音がする。



 撮影は成功した。

 一旦画面が静止し、再動すると同時に右下にサムネイルを生成する。

 ロリ狐は一瞬狼狽した様に見えたが、直ぐに考え込むような仕草をした。


(まあ、理解出来ないよなぁ~……)


 欲求を満たせた事で俺も大分落ち着いた。賢者モードというやつだ。

 俺も目の前のキツネ耳の少女と同様に少し考えてみる。


 彼女は俺にとても重要な情報をくれた。

 それは、彼女の話す言葉を俺が理解できる事。

 であるならば、この世界の人間が話す言葉も理解出来るという事になるだろう。


 異世界の言語を理解できた理由に関しては、何の手懸りも無いので憶測する事しか今は出来ない。


 ロリ狐関係の情報は後はもう『つるぺた狐娘』くらいしか無い。ある意味重大ではあるが重要ではないので後回しにするとして、次は俺自身の事だが……



(――あっ! ちょ、待て! おい!)



 突然、視界が真っ暗になった。フリップを閉じられたのだ。


(暗いよぉ~怖いよぉ~哀しいよぉ~……)


 暗所カ行三段活用で訴えるも返事はない。そもそも喋れてないので当たり前だ。

 スマホケースには背面にアウトカメラ用の穴がある。そこから覗けないかと考えたがどうも無理なようだ。視界が表面に固定されているのか、現在の状態では背面に切り替えられないのか。


(あれだけ楽しく笑い合ったのにもう飽きたの? もう捨てるの!? ひどい! ひどいわっ!)


 暗闇に覆われた途端に女々しさ炸裂するも、持ち運ばれている時の独特な浮遊感を感じ取り、最悪の事態は免れたと思い安堵する。


(と、突然どうしたんだろ……家にでも帰るのか?)


 色々と不安は尽きないが、何か目的が出来て移動を始めたロリ狐の手に俺が握られているという事実はかなりの安心材料だ。まだ俺に興味があるという事の証左なのだから。


(でも、もし実家が巣穴とかだったらどうしよう……)


 異世界なのだから可能性は無限大だ、良くも悪くも。

 例えばこの子が人間と狐の間の子だとすると、人間と交配する狐の存在がこの世界にはあるという事になる。どう考えても化け物だろう。なかなかにファンタジーな設定でそそられるが、それはあくまで物語の世界ならばだ。実際に相対するとなると恐ろしさしか湧かない。


(き、狐さん……? ご両親には何卒宜しくお伝え下さい……)


 長い物には巻かれろ、強い者には逆らうな。俺は生きねばならない。例え臆病風に吹かれたと嗤われたとしても。


「とーりとぉーりにーくにぃーくはぁーらへっっったぁーー!」


 狐さんの素敵な歌声が響きます。


(……ッ!? くっそ……い、いや、狐さんはお腹が空いているだけ、他意は無い……筈……)


 ちっぽけなプライドを守りつつ、俺は考えた。

 狐さんは食事がしたい、それは間違いない。では食事を済ませたらどうする――――まあ……寝るよな、絶対寝る。そんな雰囲気しかしない。


 そこで、もし就寝中に狐さんや俺に危険が迫ったらどうするか。


 ――――バイブで起こす?

 起きるだろうか、バイブごときで。


 ――――――起きないと思う。なんとなくだが。

 なんとなくだが絶対起きない。


 だが、恐らく俺は別の方法で狐さんを起こす事が出来る。

 確実ではないがバイブより強力なアピール方法が、多分ある――――知恵の袖口には暗器が未だ潜んでいるのだ。

 好奇心旺盛な彼女にならきっと効くと思う。


 その辺りも含めて情報を纏める為、この暗闇を利用して思案に集中する事にしよう。


 俺に出来る事を整理する。

 先ず、見る・聞く等の生物的な機能。

 非常に有用で且つ不可欠な機能だが、主に俺自身を補助する機能なので一旦置いておく。


 考えねばならないのは機械的な動作、つまりiZakuroX6(アイザック)の機能についてだ。

 これは他者へのアプローチの手段として用いなければならないので、俺がこの世界で使用できる機能がどれだけ存在しているのかがとてつもなく重要になる。


 Zakuro Storeで可能と判明した『バイブの作動』

 この世界で初の動作である『スリープモードへの移行と解除』

 そして先程判明し実行に移した『撮影モードへの移行と撮影』


 現状はロックが掛かっていて使える機能がかなり限定されてる状態だ。それでもこれらの動作をさせられたのは、ロック中でも特定の操作で作動させられるからだろう。


 スリープモードへはいつでも移行可能だ、解除は言わずもがな。

 そして、ロック画面から撮影モードへ移行可能になっている。


 ではバイブの作動はどうか。

 バイブモードなんてものがあっただろうかと考えていた時、ロック中にも使えて且つバイブの作動を伴う機能の存在に気が付いた。

 その機能を使う事で狐さんを起こす事が可能であると俺は考えたのだ。


 その機能とは、アラーム機能――――




 ――――ではない。

 実はそれを最初に思いついたのだが、アラーム機能の付いた時計アプリで設定してアプリ側から命令させないとアラームが作動しないので除外した。目覚まし機能を使えれば狐さんに快適な起床をプレゼント出来たのに、残念だ。


 では何の機能を使うのか――――それは、



『Find me』



 と呼ばれる、近くに自分のスマホがある筈なのに見つからない時、声を掛けるとリアクションを返してくる機能だ。

 使用者が予め登録して置いた任意の音声と同じパターンを受信すると、バイブの作動と共に大音量で『電子音』と『「I'm here.」という音声』が交互に鳴る。


 つまり、俺はいつでも電子音を鳴らせるし、「I'm here.」となら喋る事が出来るのだ。

 これを『喋る』と言って良いのか分からないが。

 コイツで狐さんを優しく叩き起こすのだ。あくまで優しく。


 ちなみに、真歩ちゃんが登録した音声はというと――――




「あなたはどこにいますか?」




 ――である。割とシンプルだ、実に彼女らしい。

 試しに自室でこの機能を使ってみた彼女はその大音量に大層驚き慌てて止めようとしたのだが、その方法に気付くまでに少し時間が掛かってしまい、その間、平手で俺をバンバン叩き続けたのだった。ご褒美ですが何か?


とまあ、iZakuroX6の機能についてはこの程度だ。

正直まだ理解が浅いと思わざるを得ないが、色々試して扱い方を熟知しよう。


 次に、生物的な機能についてだが、これにはスマホに搭載されている各種センサー等が関係していると思われる。

 レンズやマイク、ジャイロに加速度、感圧センサー等が取得した情報を俺が『感覚』と誤認し、擬似的に『聞く』『見る』『感じる』という事が出来ていると俺は憶測している。

 スマートの名に相応しい、多岐にわたる機能が搭載されているiZakuroX6。実は温湿度計まで付いているが、オミットする予定らしい。その後、一酸化炭素チェッカーを搭載する計画があるそうな――――なんだかスマホそのものが既にチートだ。


 どの機能で何をどう感じているのかは俺自身把握出来ていない。

 聴覚についても、異世界人の言葉をそのまま『聞いて』いるのか、どこかのプロセスで翻訳しているのか、そんな程度の事も分からないのだ。

 現在『誤認』していると結論付けている以上、生物的な機能については分かっている様で分かっていない、そんな状況だ、追々考えていこう。


 ――――そう、『考える』という機能についても、だ。


 以上、機械的、生物的の二つの観点から見た俺の機能について考察したが、それらとは違った観点もある。


『転生によって付与されたと思しき機能』

 という観点だ。


 FaceIDやパスコードを任意にリセット出来る機能は機械的なものとも見る事が出来るが、パスを入力出来なくて機能が限定されて困っているのに任意にリセットが出来るという不思議な状態だ。恐らく転生によって付与されたものだと思う。


 この世界の人間が語る言葉を理解出来るという点はどうだろうか。

 iZakuroX6は様々な言語に対応しているが異世界語までは網羅していない。だが、異世界で扱われる言語だから絶対に現実世界とは別と考えるのもどうか。俺はこの世界の起源を知らない。現実世界と何らかの因果関係が有る可能性はゼロではない。俺が此処に生まれ落ちたという事実もその可能性を高める要素だ。故に付与された能力かどうか結論付けるのは、一旦保留だ。

 ――――が、直に分かる。そして、分からねばならない。


 極めつけは、こうして思考を巡らせている『俺』という存在が正にそれではないだろうか。

 真歩ちゃんと一緒に居た時の俺はここまで能動的ではなかった筈だ。何せスマホなんだから。いきなりカメラが起動したら怖いだろ。

 各センサーが得た情報を感覚と誤認している俺。

 次にすべき行動を決める為に思考を巡らせる俺。

 真歩ちゃんを護り大破し、Zakuro Storeで転生し異世界に来た俺は明らかに異質なものへと進化を遂げた。


 きっとこれが『機種変更』ではなく『転生』であるという事なのだろう。転生という特異なプロセスを踏んでいるからこその異質なアップデート。外面は地味だが、異世界転生の醍醐味であるチート能力を俺も手にしたのだ。性能は完全にスマートフォンの領域、というか常識を限界突破している。

 死を乗り越え、スマホの限界を超え、現実世界と異世界の境界を越えた俺の名は、言うなれば『超越せし者(オーバーフォン)』といったところか。うん、大袈裟(オーバー)な名前で派手さが出て来た、良い感じだ。


(しかし、もっと見た目が派手な能力はなかったんですかね、極大消滅魔法みたいなやつ。俺は擬人化して異世界チーレムとかでも良かったんだけどなぁ……店員さんはそういうの趣味じゃなかったのかな……)


 Zakuro Storeでの出来事を思い返していると、店員さんの心証が最悪だった事を思い出した。それが原因だろうか。




(――――ハッ!? いやいやいや、レムは要らんぞレム要素は。真歩ちゃんという女神が居るのになんと罰当たりな! 猛省しろ俺!)


 俺は己の浅ましさ、その罪深さを知った。

【登場キャラ】

アイザック:大袈裟電話

狐さん:とりにくだいすき

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