EP.1 - 2
タイトル『スマスマ』にしようかと考えたのですが、敵に回してはいけない層を敵にする事になりそうなので断念しました。俺はまだしにたくない。
摘み上げられて空中でプラプラしている俺は、狐娘の太くて長く、クリーム色の綺麗な毛並みをした尻尾に見蕩れていた。
そして、程無くして胸の奥に熱い感情が湧き起こった。
(――――撮りたい!)
思わず撮影を開始しようとする。
(――いやいやいや駄目だ今は駄目だろアホか俺は! そんな事をすれば魂ごと消されるぞ!)
インスタ映えとは逆ベクトルだ。
ハエの集る死体すら残らず跡形も無く消滅しかねない。
うっかりでは済まされないので思い留まる。
しかし分かった事がある、今俺が使える機能の一つだ。
『カメラ機能を使って撮影が可能』
撮影した画像はちゃんと保存されるだろう。でなければ意味が無い。
これらはつまり、『見る』『記憶する』という生物的なものではなく、歴とした機械としての機能である。
(一番最後に撮影したのはいつだったかなぁ……)
真歩ちゃんはあまりカメラ機能を使わなかった。
外に出てそこら中にカメラを向け矢鱈にパシャパシャしたりしないし、逆に自分にカメラを向けてアプリで盛りまくった自撮り画像をSNSに晒す事もしない。
両親の教育の賜物と捉える事も出来るが、実は単に恥ずかしがり屋さんなだけなのだ。どうだ、可愛いだろう?
そんな真歩ちゃんが俺のカメラ機能を最後に使ったその目的は、実は自撮りだ。
ベッドに寝転がりながらスマホを弄り倒していた時に、何の気無しにカメラを起動し自撮りモードに切り替えた。
仰向けになりスマホを持って腕を目一杯伸ばし画面に映る自分の顔を見つめる真歩ちゃんは、別に誰かにその画像を見せる訳でも無いのにちょっと恥ずかしそうな表情で、そっと――撮影ボタンを押した。
――分かりますか?
――――想像してごらん。
俺視点のその様子を想像する事が出来ますか?
俺はその時確信した。
自分は間違いなく『No.1の勝ち組スマホ』であると。
(あっ――――いかん、発作が……)
真歩ちゃんに会いたい想いが溢れ過ぎて――――
(真歩ちゃんに会いたいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)
――――――震えた。
ヴヴヴ――ヴヴヴ――。
「ふぇぁっ!?」
狐娘はビックリして変な声を上げた。
うっかりバイブ機能を作動させてしまった俺はしくじったと思い、放り投げられる事を想定して対ショック姿勢を――取れたかどうかは分からないが心構えだけはした。
だが狐娘は顎を引いて多少仰け反ったものの、俺を摘んだ指は離さずにいてくれた。
真歩ちゃんロスに因る発作の余韻が残る俺を見つめる彼女は訝しげな顔をし――――
「おまえきもちわるいなー」
――――言い放った。
(――なんだぁ? お前……)
聞き捨てならない言葉であった。
(つるつるでぺったんな子供にゃ俺の気持ちは分からんだろうがよぉ~……気持ちわりぃたぁどういう了見だぁ? ロリ狐よぉ……)
どう見てもキングオブつるぺったんなスマホボディが怒りに震える。
ヴヴヴ――ヴヴヴ――。
「にゃははは! ぶるぶるー! きもちわるー!」
しゃがんで俺を摘んでいたロリ狐は、俺の体の上部と下部を両手で掴み画面を寝かせた状態にした。
そして徐に立ち上がって俺を天高く掲げた。
「おもしろっ!」
真歩ちゃんロスに苦しむ様子を馬鹿にされたと思っていたがどうやら勘違いだった様だ。
単にバイブの動作に興味を惹かれただけらしい。
(ふぅ……焦ったぜ、心を読まれたかと思って我を忘れるところだった)
そんな俺の心境など知る由もないロリ狐はキラキラと輝いた目で未知の物体を見つめている。
俺だったら間違いなく、震えることしか出来ない何の役にも立たない無能な俺なんて放り捨てて去るところだったが好奇心旺盛な子供なのが幸いした。
「おらー! もっとふるえてみろよー!」
ロリ狐は俺を激しくシェイクしだした。
(ちょ、おまっ、わかった! わかったから乱暴にしないでっ!)
うっかり手を滑らせて落とされたら困るので、俺は控えめで小刻みなパターンのバイブを作動させる。
ヴ――ヴ――ヴ――ヴ――。
「おおー?」
ロリ狐の手が止まる。
俺は透かさずバイブのパターンを別なものに変える。
ヴヴヴ――ヴヴヴ――。
「おー! たーのしー!」
(ぬははははは! 見たか! 緩急のついた俺のこの芸術的バイブレーション!)
ロリ狐は時折チカチカと点滅する俺の画面を見つめながら感嘆の声を上げる。
(――手懐けた!)
この子のハートをキャッチした、確かな感触を得た。
だがこんなもので満足してはいけない。俺はまだトップブリーダーへの道を歩み始めたばかりなのだから。
(あっ――そうだ、もう危険なものは映ってないし、撮ろうか)
しかし、今のアングルでは立派な尻尾が写らない。
俺は少し迷ったが、暫くお預けを喰らっていた事もあってか、とりあえず何でもいいから撮りたいという気持ちに推されて画面を撮影モードに切り替えた。
「――っ!!」
俺を見つめ次のアクションを期待していたロリ狐の目がまんまるになった。
そして俺を上下左右前後に動かしてまたもや感嘆の声を上げている。
(ちょっ、こら! 動かすんじゃない! 綺麗に撮ってやるからちょっと止めろ!)
俺を派手に動かしたり、まるでダンスでも踊るかの様にくるくる回ったりして落ち着きのないロリ狐にヤキモキする。
だが楽しそうで何よりだ。彼女にとっても、そして何と言っても俺にとってもだ。
「かがみーーーーー!」
(うーん、鏡か。ちょっと違うんだがまあ、お前がそう思うんならそれでいい、お前の中ではそれで)
今はまだ俺の用途を正確に把握して貰えなくても構わない。とにかく興味を惹いて、せめて屋内に持ち運ぶくらいはして貰って、色々と細かい事を考えるのはそれからだ。貴重なけもみみしっぽは惜しいが、もう少し知恵の有りそうな人間の手に渡して貰ってもいい、それから――――
――――それから?
それからどうすればいいのだろうか。
この世界で俺が成さねばならない事は『徳を積む』のただ一点のみ。要するに善い行いをするという、非常に単純且つ簡単な事だ。生きてゆく過程で善行と言えるものを行い続ける事が簡単であるとまでは言わないが、気の向いた時に善い行いをしようと考え行動に移す事くらいは誰でも出来るだろう。
だが、それはあくまで人間の話だ。人間が自我を持ち社会を形成し、そこで他者と同様に暮らし善悪という一様な価値観を互いに共有している存在であるからこそ容易だと言えるのであって、機械である俺は別だ。
そもそも機械の行なう善とは何だ。
人間が作り上げた体に、人間に依って組み込まれたプログラム通りにしか動かない機械の善行とは一体何だ。
――例えば、掃除機だ。
部屋が汚い、掃除をしよう。人間がスイッチを入れて掃除機はゴミを吸い取る。めでたく部屋は綺麗になりました。――――これは掃除機の功績になるのだろうか。
(――あれ!? 随分お話のレベルが高くなってきたな……)
俺の目には相変わらずはしゃいで落ち着きの無いロリ狐の姿が映っている。
変な顔を作って画面に映った自分を見て笑ってみたり、映す位置を変えて普段見れない角度で自分の顔を眺めてみたり、股下を潜らせ――おいやめろ! まあとにかく楽しそうだ。
(難しく考え過ぎかなぁ……俺を使ってコイツが喜ぶ。それでもいいんじゃないか?)
深く考えても分からないものは分からない。異世界じゃ当然元の世界のネットに繋ぐ事は出来ない、特定ワードで検索して他者の知識を拝借したり、またその知恵に縋る事も叶わない。『スマートフォン』なんて、まるで賢者のような名前であるが、賢い部分はあくまで『人類の叡智が生み出したもの』であって俺が賢いわけでは無い。
(――――なんだこれ……哲学?)
兎も角、徳を積むには俺を誰かに使わせなければならない。
道具は基本受け身だ。俺は受動的なんだよ。
だが扱う者が現れてくれればこちらからアクセスも出来る。というか、そうしなければならない。
何せ異世界の高度な文明の利器だ。この世界の文明がどの程度なのかわからないが、ロリ狐の様子や辺りの景色を見る限りでは、ひと目俺を見ただけで操作方法を理解して貰えるなんて事は期待出来そうもない。
ならば、俺自身が俺の使用者を、俺を正しく扱えるよう躾けなければなるまい。
この世界の人間を、道具である俺が使役しなければならないわけだ。
(――フハハハハハハ! 人間共よ、賢者の元に集い、我が徳の礎となるのだ!)
未だロックも解除出来ず、大して役に立たない状態から抜け出せていない俺は、その事も忘れてつるぺた狐娘に弄ばれながら全力でイキるのだった――――。
【登場キャラ】
アイザック:イキりスマホ
ロリ狐(仮):つるぺた狐娘




