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EP.2 - 7

【先週更新分のあらすじ】

 台風が去り、平和になった集落。コアンの天気予想の恩恵を受けた住民達は、スマホへの興味を深めた。スマホを操作しながら彼らはいくつかの日本語の単語とその意味を知る。その出来事から一ヶ月の後、キースの知り合いと思しき来訪者が集落に現れた。

 来訪者達による大掛かりなスマホ弄りが始まった。


 彼らは、恐らくだが学者なのではないだろうか。

 黒色の塗料で塗り潰された大きな板が教会に運び込まれ、エントランスホールの壁に立てかけられた。

 それに白い棒状の筆記具でスマホに表示されている文字や画像を書き写す者、コアンのご機嫌を取りながら異世界語で質問を繰り返す者、偶に鳴るスマホの音声に耳を傾ける者等、行動は様々だがその興味は全て俺たちに向けられている。


(黒板とチョークまで用意してるとは……そうか、それが目的か)


 期待に胸 (無い)が膨らむ。つるぺたって言うな。

 彼らは俺とコアンが扱う言語を解読するつもりだ。


 きっとキースが彼らを呼んだのだろう。知人の様だし、似た様なデザインのローブを着用しているという共通点もある。

 何処かに出かけていた様子は無かったので誰かにお使いを頼んだか、他に何か連絡方法でもあるのか。


 何にせよ頼もしい人達が来てくれた事に変わりはない。

 俺が異世界語を解読したところで会話する術が無い。

 なので、俺と同じ言語を扱うコアンを通して異世界人と交流しなければならなかった。

 だが異世界人がこちらの言語を理解してくれさえすれば、コアンを介する必要は無くなる。


 可能性を拡げる好機が訪れた。

 何を提示すれば彼等の言語研究を効率化させられるか考えねばなるまい。


 やはり画像と文字を紐付けて理解させるのが常套手段だろう。

 そして文字をコアンが読み上げてくれれば、異世界人が俺達の扱う言語を喋る事が出来るようになる。


(良かったなお嬢、皆とお話出来るようになるぞ!)


 異世界語をなかなか覚えてくれない彼女にやきもきしていたが、異世界人達の頑張り次第で、一番のネックであった言語の問題が解決するかもしれない。俺に出来る事は少ないかもしれないが、彼らを少しでもサポートせねば。


(画像といえば撮影した画像を表示するビューワーだけど……微妙かな?)


 文字情報が少ないという点もだが、そもそも記録されている画像が少ない。


(いや待った、今の状況でならビューワーは役に立ってくれる筈だ)


 直ぐに使えないアプリだと断じてしまうのは良くないと、これまでの経験が物語っている。

 だがビューワーの有用性を、現在俺を手にしている眼鏡の女の子に示すにはひと手間要る。


(眼鏡も存在してるんだなこの世界……っていうかこの眼鏡、レンズがちょっと青いぞ?)


 ブルーライト対策でも施されているのだろうか――――流石に無いか。

 恐らくそういう色の鉱物を利用した眼鏡なのだろう。それよりも今はカメラだ。


 電話帳が映る画面を見ながら真歩ちゃんの友達の個人情報を黒板に書き殴る青眼鏡っ娘の暴挙をスリープモードへの移行で止め、視覚をアウトカメラに切り替えつつカメラを起動させた。

 画面に黒板が映っている事を確認して撮影し、ビューワーを起動する為に一旦スリープモードへ移行する。


(そういえば、真歩ちゃんが写った画像も保存されてるよな多分……)


 エッチな自撮りはした事が無い筈だから見せても問題――――は有るかもしれないが、仕方ない。ごめんよ真歩ちゃん。


 俺は、青眼鏡っ娘のリアクションでも拝んでやるかとインカメラに切り替えて、ビューワーを起動させた。

 記録されている画像のサムネイルが画面に並ぶ。先ほど撮影した黒板の画像に、コアンやエルミーの顔画像が並んでいる。


(俺が操作出来るのはここまでだ。後はこの眼鏡っ娘が黒板の画像を見て、情報の記録と閲覧を瞬時に出来るという有用性に気付いてくれるのを期待するしかない)


 青眼鏡っ娘は訝しげな表情をしながら眼鏡のブリッジに中指を当てて押し上げる。

 そして、画面を下から上へスワイプし始めた。


(あぁぁ……そうじゃなくて黒板の画像を見て欲し…………って、あれっ!?)


 スライドインしてくる画像の中に――――真歩ちゃんが写っているものが無い。


(削除しちゃったのか……いや違う、多分ファイルが破損してるんだ)


 黒い四角の中にひび割れたアイコンが描かれた画像が数個見られた。破損ファイルを表すサムネイルだ。


(使い方が荒かったからかな……でも、何で真歩ちゃんが写ってる画像ばっかり……)


 破損ファイルは少ない、ほんの数個だけだ。

 まるで真歩ちゃんの写った画像をピンポイントで狙い撃ったかの様に、ぽつぽつと黒い画像があった。


(マジか……マジかぁぁぁ~~……)


 保存されている画像に関して俺が常時見ることが出来るのはファイル名やファイルサイズ等の、画像が持つ情報だけだ。実際に画像を閲覧するにはアプリの手を借りねばならない。


 だが画面に表示出来れば、俺はそれを『見る』事が出来る。

 実際に見ている訳ではないのだが、画面の状態を把握は出来るのだ。

 命令実行の可否が画面の状態で決定される為か、それとも視覚情報を画面に表示する事が出来るからなのだろうか、可能性は色々考えられるが実際の理由は不明である。


 いちいち画面に表示しなければ画像を閲覧出来ないが故に、スマホの中にあるファイル群に壊れた画像ファイルが混在している事に今迄気づけなかった。

 ファイルが破損したのは何時だろうか。撃たれた時か、水に浸けられた時か――――思い当たる節が有り過ぎて特定出来ない。


 FaceIDやパスコードに続き、俺が真歩ちゃんのスマホである事を示す要素がまた一つ減ってしまった。

 青眼鏡っ娘が何やら騒ぎ立てているが、少々精神的ショックが強かった為に傾聴出来ていない。


(駄目だ駄目だ、気をしっかり持て俺! 別に真歩ちゃんを忘れた訳じゃないんだから大丈夫だ!)


 大事の前の小事だ、いちいち気にしていられない。

 真歩ちゃんの所に帰れたら思う存分撮ったらいいじゃないか――――常識の範囲内で。


 画像の件は兎も角、俺を取り巻く環境は好転の兆しを見せている。

 今も、研究熱心な異世界人に囲まれてチヤホヤされまくりだ。


(……おや? エルミーじゃないか、いらっしゃい)


 コアンの通い妻がいつの間にか混ざっている。

 健気に通い詰める彼女がコアンと共通の言語でお喋り出来るようになったら、俺は感極まって泣いてしまうかもしれない。スマホだけど。

 彼女の幸せは俺の幸せ、皆の幸せは俺の幸せだ。幸せな来世を迎える為に、俺は多くの幸せをこの世に生み出さなければならない。


(絶賛片想い中の女の子が二人……そうだ、先ずは彼女達を幸せにしてあげよう!)


 二つの恋心が向かう相手は肉食狐娘と朴念仁だ。


(うん、無理だ。諦めよう!)


 ――――その間僅か、三秒くらい。


 あの二人は難攻不落だと思う。

 コアンはそもそも、下手したら年齢一桁かもしれない女の子だから仕方が無い。

 それよりもキースだ。

 いきなり抱き付いてきたあの女の子、しわしわおばさんなんてコアンは呼んでるがハッキリ言って美少女だ。あんな子に抱きつかれても無表情を貫いたキースは異常と言う他無い。表情のパターン少な過ぎだろ。


(神に仕える為に煩悩を捨て去ったのかもしれないな。恐ろしい男……ッ!)


 だが、しわしわおばさん (美少女)のメンタルが少々気掛かりなので、出来る限りの協力はしてあげたい。怖いし。


(そういえばあの子の姿が見えないな……ホールには居ないのか?)


 キースと二人で、何時ぞやの様に台座に食材を乗せて祈祷していたのを見たがそれっきりだ。一緒に料理でもしているのだろうか。


(果敢にアタックするねぇ、でも暖簾に腕押しなんだろうなぁ……)


 思い余って包丁で一刺し、なんて展開を思い描いて震えている俺の体からシャッター音が鳴った。


(お嬢が数ヶ月掛けても遂に辿り着けなかった領域に、たった数時間で辿り着いたか)


 青眼鏡っ娘は自分でカメラを起動し、撮影までして見せた――スバラシイ。

 スマホの画面を覗き込む異世界人達の顔が並んだ画像が新たに保存された。


(流石に自分達の顔が写ってれば見てくれるだろう)


 俺はビューワーを開いた。

 たった今保存された画像のサムネイルが追加されている。


「――――ッ!?」


 思惑通り、先ほど撮影した画像が開かれた。

 すると異世界人達は――――爆笑し始めた。


(すっげぇ微妙な顔で写ってるな……)


 不意を突かれて撮られた自分達の間抜け面がツボに嵌まったらしく、異世界人達はお互いを指差しながら笑っている。


「キース、ユーシィ! ホーキリー!」


 青眼鏡っ娘がキースを呼んだようだ。『ホーキリー』は『こっちに来い』という意味だ。

 呼びつけた相手と俺の目が合った、というかスマホの画面を向けられた。


(ユーシィってのは、彼女の名前なんだろうな)


 俺の視界に映ったのは、並んで立つキースとしわしわおばさん改めユーシィの二人だった。


 ――――シャーターが切られる。


 画面を相手側に向けノールックで撮影ボタンを押すという器用な、またある意味では不器用な操作方法でキースとユーシィを撮る青眼鏡っ娘――――この子は才能あるな。

 彼女は早速画面を確認する。

 早く画像を見たいだろうからビューワーを開いてやろうと思ったのだが、俺がそれを実行する前に撮影画面の右下に生成されたサムネイルをタップされた。


(この眼鏡、やりおる……)


 青眼鏡っ娘の観察力、そして洞察力に感心する。


 彼女はキースとユーシィに歩み寄り、二人が写る画像を見せた。

 カメラを向けてから殆ど間を置かずに撮影された為、ピントが合っているか不安であったが思いの他クリアに写っている。流石俺、流石iZakuroX6。

 キースはいつもの変わり映え無い顔だが、ユーシィはと言うと――――写りは悪くない。キースと一緒に居るので気を張っていたのだろうか。


(キース、罪な男……大罪人だな)


 この動かざること山の如しな罪深き朴念仁を如何様に処してやろうかと考えていると、ユーシィがスマホの画面を難しそうな顔で覗き込んで来た。眉間に皺が寄っている――――しわしわユーシィだ。


「オ……オーサディ!」


(なんだなんだ、どうしたユーシィ)


 知らない単語は前後の状況から意味を憶測するしかない。

 声を上げたユーシィが次に取った行動は――――キースに寄り添って立ちつつ時折髪を撫でたり大袈裟に瞬きをしてみたり、何やら落ち着きが無い。


「オーーサディーー!」


(あっ、ハイ……)


 恐らく「もう一回撮れ」という事なのだろう。

 青眼鏡っ娘はユーシィの声に弾かれたかの様に慌てて後退り、ユーシィ達に再度スマホの画面を向けた。


(落ち着け眼鏡、撮影モードになってないぞ)


 仕方ないので撮影までの操作は俺が行なった。


 ――――シャッター音が鳴る。


 音に気付いた青眼鏡っ娘が画面を確認する。

 撮影は成功し、例によって右下に新しいサムネイルが生成された。


 青眼鏡っ娘の手により最新の保存画像が表示される。

 そこには頭を掻きながら無表情でこちらを向くキースと、笑顔でキースに寄り添うユーシィが写っていた。


 それを見たユーシィは満足そうな表情を浮かべた。良かったなユーシィ。




 しかし俺は、あまり良い画が撮れなかったなと思った。


 キースの視線が明後日の方向にある事実を目の当たりにし、ここまで心の距離を如実に描写してしまうものなのかと、写真が持つ正直さを少しだけ疎ましく感じた。

【キャラ紹介】

ユーシィ:しわしわおばさんと呼ばれし美少女。どうもキースが好きらしい。

青眼鏡っ娘:ブルーライト対策がされていそうなレンズの眼鏡をかけた女の子。

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