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EP.1 - 1

今のところは土曜と日曜に更新出来れば、と考えてます。

「んー? なんだこれ……」


 気が付くと、俺は青空の下で仰向け――という表現が適切かどうかわからないが、まあ要するに画面を上にして倒れ……いや、落ちていた。

 自分じゃ動けないしスマホケースも開きっ放しだし、いくら防水性が優れているとは言え長期間雨に打たれでもしたら流石に不味いなと思っていたところに、言葉を操る人間が現れて俺の画面を覗き込んでいる。


 とりあえず転生は成功したようだ。ぐちゃぐちゃだった体は完全に復元されているようで、真歩ちゃんのスマホケースも同様だと思われる――――ありがたい。


 俺は、気になっていた店員さんの言葉について考えてみる。

 体は新品同様になったわけだが、前世の記憶はしっかりある。

 店員さんは『転生』と言っていたし、これはつまり前世の中身がそのまま生まれ変わった新しい体に入ってるって事になるだろう。

 そして新しい体は、まあもしかしたら細部は違うのかもしれないが殆ど前世と同じだ。


 しかし、結局それは『機種変更』ではないだろうか。

 機種変と転生の違いってなんだ。



(――んっ!?)



 考え事をしていたので目の前の存在を注視していなかった。

 しかし改めて良く見たら体の一部、クリーム色の髪の毛に包まれた頭の部分が見慣れない造形をしていることに気付いた。


 いや、単に見慣れないという表現は少し違う。



 ――――見慣れた、見慣れない造形。



 とでも言おうか。

 どんな特殊な造形か簡単に説明すると――――



 耳の位置が通常の人間よりかなり上の方にある。



 もっと簡単に説明すると――――


 …。


 ……。


(『ケモミミ』だあああああああああああ!!)



 …………。



(――えっ? あれっ!?)



 ………………。



(喋れねえええぇぇぇぇぇえええええ!?!?!?)


 悠長に考え事などしている場合ではなかった。

 このケモミミに普通に声を掛けて「ちょっと雨風の凌げるところまで」とお願いしようと思っていたのだが、まさかの事態だ。


(喋れないなんて事態、想定してなかったぞ!)


 そもそもスマホが喋れるという事自体(以下略


 兎も角、考えねばならない。このケモミミに興味を持ってもらって俺を持ち運ばせる方法を。


(な、何かないのか!? 何か!!)


 思考を巡らせていると、体が発光しだした。


(おぉ……! これは異世界転生お決まりのチート能力! 魔法か!?)




 ――――ブラックアウトしていた画面にホーム画面が表示されただけのようだ。




(期待させんなよクソァ!)


 しかし『俺の意思』でスリープモードから復帰出来た。

 前世と比べ、大分異質な仕様になったみたいだ。


(つまりこれが『転生』なのか……? いや、何か違う気がするな……)


 つい考え込んでしまいがちだが、先ずは直面した問題を解決せねばならない。


(いかんいかん……そうだ! 画面を表示したり消したりしてみよう!)


 俺は画面をチカチカさせ出す。


(おい、どうだケモミミ。ライトが点いたり消えたりして楽しいだろう? ん~~~?)


 俺は必死にアピールする。ケモミミは興味深そうに画面を見ながら目をしぱしぱさせている。

 だがアピール力不足は目に見えている。次の手の用意に苦心している最中、ふと気付いた。


(表示されてるのホームじゃねえ……ロック画面だ)


 転生前、というか死亡前? の状態が保持されていると考えるとパスは『アレ』だ。



 真歩ちゃんのFaceID――――そう、彼女の顔だ。



 凄く嫌な予感がした。


(解除! 解除だ! ロック解除!)


 俺は強く念じてみた。しかし一向にホーム画面に切り替わらない。


(いや、嘘だろ!? それくらい出来るだろ! 画面点けたり消したり出来るんだぜ!?)


 俺は焦る。これからスマホという立場でこの世界を生き抜かなければならないのに、出来ることが『スリープモードへの移行と解除』『バイブの作動』それから見たり聞いたり考えたり……後は記憶が出来るくらいか。課せられた使命を全うするには色々足りな過ぎる。


(待て、落ち着け。パスコードがあった。これをマニュアルで入力すれば良いんだ。簡単な事だ)


 登録されてるパスコードは直ぐに判明した。というか知っていた。


『0810』


(いや~真歩ちゃん、このパスはどうかと思うよ?)


 あまりにも憶測し易い数字に、つい呆れてしまう。でもそんな抜けた所があるからこその完璧美少女JKなのだ。矛盾している様だが、大事な要素だ。


 俺はこの『絶対に忘れてはいけない数字』を入力する事にした。


(――――ん? どうやって?)


 思考が一瞬止まる。


(いやいや、馬鹿か俺は。画面の数字をタップして入力するに決まってるだろ)


 スマホの基本操作だ。何も特別な事はない。


(……どうやって!? だって俺スマホじゃん! スマホはスマホの画面をタップ出来ないじゃん!)


 だが、そうとは言え自分の体だ。触らずとも操作くらい出来るだろう、常識的に考えて。


(どうやってぇぇぇぇぇえええ!?)


 出来ない。無反応だ。

 というか何をどうやったらいいのか分からない。

 スリープモードは移行、解除共に出来るのに画面を操作する事は出来ない。謎だ。


(勘弁してくれよぉ~~……ハードモード過ぎだろぉ~~……)


 俺は何か手はないかと、自分の体内を(まさぐ)ってみる。


 自分で言ってて可笑しな表現だと思う。

 まあ何と言うか要は『検索』なんだが、記憶装置とかを検索するのではなく、『転生した体』にどんな能力があるのか、人間で言うなら体を捻ったり伸ばしたりシャドーボクシングをしてみたりして、『自分に出来ること』を探っているのだ。機械らしい言葉を使うなら、動作確認とでも言うべきか。異世界転生だ、きっとチート能力的なものがある筈なんだ。



(あ、あった……能力っぽいやつ)




 嫌な予感が的中した。




 ――――――『パスコード及びFaceIDは任意にリセットが可能』


 だ、そうです。




(嫌だあああああああああああああああああああああ!!!!)


 俺の目的、俺の目標、俺の願望を考えたら、それはとても残酷な仕打ちだ。


(俺に真歩ちゃんの顔を忘れろと!? そう仰るのですか!?)


 あの日、FaceIDを登録中の真歩ちゃんを眺めていた俺は恋に堕ちた。

 真歩ちゃんはきっと女神だ。女神が転生した姿なんだ。そんな風に思わせる程の奇跡的美少女が俺を見ながらゆっくりと顔で円を描いている、可愛い、可愛過ぎる。


 ――――今後とも一生一緒によろしくおねがいしまぁぁぁすっ!!


 思わず出会って五秒で一方的に告白してしまった。まあ言葉を発する事は出来なかったけど。


 不思議な事に、あの日以前の記憶が無い。

 きっと、あの日あの時、女神の奇跡(ちから)に依り『俺』というものが誕生したのだろう。

 ちょっと何言ってるかわからない気がしないでもないが、俺誕生の切欠なのはほぼ間違いないと思う。

 そんな、俺と真歩ちゃんを繋いだ切欠の大事なFaceIDが消えてしまったら――――


(もしかすると俺、消えっかな……?)


 そう考えると色々と怖い。不採用だ不採用。別の方法を採らねば。


 俺は必死に画面をチカチカさせているが、いつまでもこんな手が通用する筈がなかった。

 ケモミミの顔は興味津々な感じから怪訝な表情へと変わっていた。


(駄目だ、アクションに変化を……バイブを作動させるか? ……いや駄目だ駄目だ! 例えば手に持った未知の物体が震えだしたらどう思うよ? 「震えてみ? 盛んに震えてみ?」とか言って持ったまま食い入るように観賞するか? しねぇよ! 気味悪がって放り投げるまであるわ!)


 バイブが駄目となると、もうロックを解除して何かアプリを起動させる他無いのではないだろうか。

 しかしそれをするには俺にとってとても怖ろしい、そしてとてつもなく辛い行為を伴う。



 ……。



 …………。



 ヴヴヴ――ヴヴヴ――。

「――ッ!?」


 俺はバイブを作動させた。

 ケモミミは飛び退いて俺と距離を取ったようだ。


(しまった! 逃げるか!?)


 しかし足で地面を摺る音がする。まだかなり近くに居るようだ。


(ケモミミが視界から外れてしまったな……って、うおっ!?)


 視界が不規則に動き回る。体が浮き上がっていくようだ。


 ちなみに俺の視界は大体、搭載されているカメラで一度に映せる範囲くらいである。

 辺りを見渡すには人の助力が必要であり、遮蔽物があると自力でそれを除く術が無いのでかなり不便だ。


 程無くして視界が安定する。

 そして、目に映ったのはケモミミの全体像だ。が、スマホケースの角を摘まれて持ち上げられている為、その視界は斜めっている。


(おいおい変な持ち方するなよな……)


 不満を抱きつつも、俺は視界に戻ってきてくれたケモミミの姿に安堵し繁々と眺める。


(うーん、可愛いな。やはりこの『ケモミミ』というやつは不思議な魅力がある……しかし服が酷いな!)


 ケモミミはでっかい麻袋に穴を開けただけのような、雑な作りの服を着ている。


(――――っ!? あっ、これは……ヤバいぞ、レーティングとかの問題で……しかし、そうか女の子か)


 幼い外見だったので判断し辛かったが、性別を確認できる決定的なものがあった――というか無かった。


(――――とりあえず何か穿いてくれ。俺はまだ消えたくない、色んな意味で)


 ケモミミの女の子はしゃがんで俺を摘み上げ斜めになった画面を自分の方に向けているので、結果的に――あくまで結果的に俺が覗き込むような体勢になっていた。


 見えてはいけない――見せてはいけない、深刻な問題が発生してしまう部分から少し外れた場所にピントを合わせると、尻尾がフォーカスされた。


(御立派な尻尾をお持ちでいらっしゃる……けもみみしっぽ、まあ王道よな。ガチケモナーにしてみれば邪道だろうけど俺にはこれくらいが良い塩梅だ)


 その尻尾の形状を見て判断するに、この子は多分狐だろう。


(狐かぁ……獣かぁ……スマホ、ちゃんと扱えるのかなぁ……)




 俺は狐に摘ままれた状態で、自身の未来を憂うのだった。

【登場キャラ】

アイザック:スマホに転生した元スマホ。

ケモミミ(仮):ロリ狐娘。

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