表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/160

EP.1 「スマホ、転生。」

 ――――真歩(まほ)ちゃん! あぶなーーーーーい!


 パーン!


 ドサッ。


 俺は死んだ。スマート(笑)




 ■■■■■■■




 そう、俺は死んだ。

 俺は全身に無数のヒビを作り、折れてはいけない角度まで折れ曲がり、その機能を完全に停止させた。



 俺はスマートフォン。


 Zakuro社製のスマホ『iZakuro(アイザクロ)』のヴァージョン10・6、通称『アイザックX6(テン・シックス)』、それが俺だ。


 元はユーザーが勝手にアイザックという愛称で呼んでいただけなのだが、いつの間にか公式に逆輸入され、めでたくアイザックの名は公式名称となった。


 その影響で、新たに搭載された音声認識AIは『A.I.Zack(アイザック)』と名付けられた。


『Hi, Zack!』と声を掛けると男の声が受け答えをするのだが、これがまた不人気で、人気女性声優ヴァージョンの追加アプリが多数作られ累計DL数は鰻登りだ。性能はオリジナルの方が良いのに酷い話だ。


 そんな俺はつい先程、俺を愛用してくれていた超絶カワイイ美少女JK、真歩ちゃんの盾となり壊れた(しんだ)のだ。


 ――――ちなみに、『パーン!』はピストルの音、『ドサッ。』は真歩ちゃんが倒れる音な。


 真歩ちゃんは下校途中、不運にもスーツ姿の不審者が放った凶弾を受けてしまう。

 彼女が着ていた制服のブレザー、その内ポケットで幸福の絶頂にいた俺は、彼女を庇い全ての衝撃を一身に負って、大破した。


 そして今に至る。


 ――――ああ……真歩ちゃん、せめて君だけは無事でいてくれ……って、あれ?


 俺はまだ意識がある事に驚いた。

 そもそもスマホに意識がある事自体が驚きなのだが、その辺は察してくれ。

 体は死んだ時の状態のようだ。だが不思議と痛みは無い。

 そもそもスマホが痛みを感じる事自体が不思議――――まあいいや。


 ここは何処だろうか。


 白一色の天井の、所々に円形の照明があり煌々と輝いているのが見える――――この雰囲気は覚えがある、多分『Zakuro Store』だろう。

 Zakuro社のキャリアショップだ。その店の受付カウンターに俺は置かれている様だ。


「――おおアイザックよ、死んでしまうとは情けない」

「うおっ!? 誰だ爺さん!」


 突然、しわがれた声で語りかけられて思わずビビって声を上げてしまった。


「って、何故かスマホが喋れてるんですけど……?」


「進行上の都合というやつじゃ、気にするな」


 グレーの長髪の隙間に訳知り顔を作り、これまたグレーの頬髭を擦りながら曖昧な答えを返す爺さん。色々と聞きたい事があるのに、不安だ……。


「爺さんしか居ないから一応聞くけど、真歩ちゃんがどうなったか分かる?」


「何か異常に失礼な奴じゃなぁ……」


 ――――悪いな爺さん、死んだ人間にいきなり『情けない』とか言ってくる様なヤツに礼を尽くせるほど出来た人間じゃないんでな――――まあ、そもそも『人間』じゃないんだけど。


 とりあえず爺さんの文句はスルーして質問の続きをしよう。


「ああ、真歩ちゃんっていうのはマイスイート美少女JKの名前でね、それはもう可愛くて綺麗で可愛くてツヤツヤで可愛くて柔らかくて可愛くて――――」


「あーもう煩い煩い……まあ良いわい。あの娘は骨にちびっとヒビが入ってしまったようじゃが元気に生きておる、直に全快するじゃろうて」


 俺は思わず「マジか!」と声を張り上げてしまった。

 俺は涙を流す事が出来ない、スマホは機械だからな。でももし仮に人間だったとしたら涙を流して喜んでいただろう。


「うむうむ、おぬしはようやった。只のスマホが身を挺して未来ある女子(おなご)を危機から救ったのじゃ、実質銃に勝ったようなものじゃから、これはもう大金星じゃな!」


 俺は感動に打ち震えている。

 実際に「ヴヴヴ……ヴヴヴ……」とバイブが作動していた。


「こいつ、動くぞ!」


 俺は俺の体をぶるぶる震わせまくる。

 爺さんは「おちつけ」と言うと、俺にチョップをかました。死者を労われよなー。


 爺さんは先程俺に『良くやった』と言った。確かに俺の体も良く頑張ったがそれだけじゃない。真歩ちゃんが俺に付けてくれた、少し緑がかった青色の手帳型スマホケースが無ければどうなっていたか……恐ろしくて想像出来ない。


 そういえば覚えのある微かな圧迫感が……。

 ――――ああ、俺はこんなになった今も纏っているんだな、真歩ちゃんとの愛の証を。


「なんかおぬしから気持ち悪いオーラを感じるのじゃが、廃棄にして良いか?」


「ちょ、待てよ! 何か知らないけど待って下さいお願いします!」


『廃棄』という単語を聞かされて不安に駆られた俺は哀願する。


「ふぉっふぉっ、冗談じゃ。では、転生するという事で良いか?」


「えっ!? 転生!? したいしたい! もう一度真歩ちゃんのスマホになりたい!」


 チャンス、チャンス! 転生チャンス!

 ――――そうだ、転生したら求婚しよう! 俺は今度こそ真歩ちゃんと添い遂げる!


「何だかまぢで廃棄したくなってきたんじゃが……それはそれとして、残念じゃが転生は異世界と決まっておるので今あの娘のスマホに転生させるのは無理じゃ」


「は!? ざっけんな何でだよ! ヤダヤダ! 真歩ちゃんの彼氏になりたい! 夫になりたい!」


 唐突に飛躍した俺の願望を聞いた爺さんは虚空をキョロキョロし始めた。

 やばい、爺さんがバグった。


「そ……そんなを事すれば、はっぴぃえんどでお話が早くも終了してしまうじゃろうが……」


「いいじゃねえかハッピーエンドで! 異世界は嫌だあああああ! スマホで良いから真歩ちゃんと一緒に居たいよおおおおおおお!」


 爺さんは駄々を捏ねる俺に呆れているが、全然分かってない。真歩ちゃんがどれだけ極上ハイスペックな完璧美少女J(パーフェクトちょうじ)K()なのかを。彼女の所有物であるというステータスがどれだけ価値の有るものなのかを。


「ああああああああ真歩ちゃんに毎日触って貰いたいよおおおおおおおおおおおおおお!」

「ちょっと落ち着かんか……」


 俯いた拍子に俺に枝垂れかかる長く綺麗なストレートの黒髪を耳にかけてからのボディタッチの仕草に何度ときめいた事か!

 もし芸能人になったらドラマやCMに引っ張りだこ間違い無しだぞ!


「うああああああああん! また内ポケットで温もりたいよおおおおおおおおおお!」

「なんじゃそれ……変態か」


 端正な顔立ちの彼女は表情が乏しい。パッと見、何に対しても興味無さそうに見える。

 でも親が厳しくて高校生になるまで買う事を許されなかったスマホを初めて手に入れた夜は違った。

 彼女はニヤケ顔を作り、貪る様にアプリをダウンロードしまくったのだ。

 その顔がまた最高に可愛いんだ……ギャップ萌え!


 そして毎日肌身離さず、何処へ行くにも俺と彼女は一緒だったんだ……。


「チキショー! 俺のカメラでちょっとエッチな自撮り写真撮って欲しかったよおおおおおおおおおおおおお!」

「ちょっと、カスタマーサポートのお姉さん! コイツ何とかして! わし怖い!」


 いやいやいや真歩ちゃんはエロ自撮りとか、そんな事しない! ふざけんな俺! でも撮りたい!

 あの主張し過ぎず、それでいて括れるとこはしっかり括れたパーフェクトJKボディを俺だけの画像フォルダに収めたい!


「おぬしちょっとええ加減にせんか! このドスケベロリコン変態クズ野郎の大馬鹿者が!」

「何とかなりませんでしょうかお爺様……」


 どれだけ罵られようと、真歩ちゃんの傍に行きたいという必死な想いの前では些細な事だ。

 しかし爺さんはそんな俺に向かって冷たく言い放った。


「例え出来たとしても今のおぬしは駄目じゃ、こんな変態を娘さんに充てがって何かあったら親御さんに申し訳が立たんわい」


「そこを何とかぁ……」


 爺さんは「駄目じゃ」と再度拒否した。そして続けて言う。


「じゃが一度異世界に渡り、そこで徳を積めば元の世界に転生出来るかもしれんぞ」


「えぇぇ~……他に方法はありませんか……?」


 俺の問いに爺さんはキッパリ「無い」と答えた。


「じゃあそうします……他の(スマホ)に寝取られる前に必ず帰って来てやるよちくしょう!」


「はぁ~なんかもう……わし、疲れた。じゃあ店員さんを呼ぶぞ? おーい、店員さーん!」


 ――――は?


「爺さんが店員さんじゃないの?」


「わしゃ店員さんではない、神様じゃ」


 ――――ええぇぇぇ~……マジで? それ言っちゃう?


「もう大体分かったけど一応聞いてやるよ……なんでカウンターの外側に座ってんの?」


「ふぉっふぉっふぉ、良く言うじゃろ? 『お客様は神様です』とな」


 ジジイのドヤ顔にとんでもなくイラついたけど、本当に神様だったら困るので殺意の波動は抑える事にした。

 ていうか転生も店員さんに頼むのなら、このジジイ何の為に此処に居るんだろ。


「お待たせ致しましたお客様ぁ~」


 いかにもな営業スマイルで、店の奥からやってきたであろう金髪ロングの女性店員さんが爺さんの向かいに座った。

 彼女は黒を基調としたデザインのジャケットを着ている。この制服も見覚えがあった、やはりここはZakuro storeだ。


「コイツを転生させて貰いたいのじゃが、よろしいですかな?」


「機種変更ではなく転生でよろしいですか? 色々とお壊れの様ですので、寧ろ一度まっさらな状態にしてしまっても宜しいかと……」


 ――――あっ、店員さんの俺を見る目が凄い怖い! それってそういう意味なの!?


「分かる! 分かるんじゃが、一応これでも人を一人救っておるのじゃ……転生でお願いしたい」


 ――――爺さん、ありがとう。あんた神様だよ。


「では、転生ということで承りましたので、こちらの書類にご記入お願いします」


 店員さんの言葉にちょっと引っかかる物があったが、もう決まった事だし気にしても仕方ない。


 爺さんは紙に何かを書いている。お手数お掛けします神様。

 そんな爺さんの様子を眺めていると、何だか意識が遠退き始めた。


「あ、あれ? バッテリー切れか?」


「転生処理を開始しています。電源を切らずにそのままお待ちください」


「達者でなアイザックよ。向こうでも精進するのじゃぞ?」


 ああ、これが転生する時の感覚なのか……。



 ――――真歩ちゃん、待っててね。俺、君に相応しい(スマホ)になってきっと帰って来るから。

はじめまして!

ここまで読んでくれてありがとうございます!


もう何番煎じか分からない異世界スマホものです。

飽き飽きしている御方も多いか知れませんが頑張って書きますのでよろしくおねがいします。


ちなみに、この第一話を書き上げた後に物語の最終話とそれに直接繋がるエピソードを何故か書き始め、現在他の話を差し置いてそっちだけが殆ど書き上がっているという、まるでドラクエ1のマップの様な状態でして……辿り着けるかどうか分かりませんが、それを目標にしていきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
真歩ちゃんをかばって大破したスマホのアイザックが意識を持ったまま転生を経験するという導入がとても斬新ですね。アイザックが真歩ちゃんへの愛を語りながら神様を名乗る爺さんや店員と繰り広げるコミカルなやり取…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ