『ふれんどりーふぁいやー(後)』
復活しました(´・ω・`)
「とにかく急げ! 屋敷はこの先だ!」
戻って来ない盗っ人木こり捕縛組の安否を心配しつつ、俺はベルガとバルガを伴い林の中を進んでいる。
先程逃げ戻ってきた奴についてはベルバル以外の俺の護衛に回ってたやつに任せて看病してもらっている。
まさか怪我をした奴をそのまま放置も出来ないからな。
「アレク様! 無用心に進んだら危険でさ!!」
「そうですぜ! あの戻ってきたやつぁ『猪潰しのゴンザ』って野郎で、ムゥロ村ってとこの怪力自慢だ! そんな奴が逃げ帰ってくるような奴が居るんじゃ旦那があぶねぇ!!」
「……え、ええいうるさい多分大丈夫だからとっとと行くぞ!」
猪潰しか何か知らないが、あまり考えたくないが予想通りなら下手人は腹ペコくまさんを素手で制圧出来るやつなので捕縛組が大変危険な状況のはず。
いや、ホント違っていて欲しいのだが。
……死人は……まあ出ないと思いたい、怪我は免れんかもだが。
「しかしメイド服のゴリラたぁ、どんな奴なのか……」
「毛むくじゃらの女装野郎か、はたまたごっつい顔の女なのか……どうであれ妙な奴なのは間違いねぇ」
「…………」
いや、どえらい美人のバインバインだよ?
ゴリラなのは腕力と前世なだけでちゃんとかわいい娘だよ?
いやまだ分からんけどな? 確証は一応ないんだけどね?
「……ぬっ! アレク様あれを!」
周辺を警戒しながら付いてきていたらしいバルガが何かに気付いたらしく、進行方向とは違った方角へ指を指す。
見れば、そちらの方角には遠目に、木々に何かが引っ掛かって……いや、あれ人間じゃね?
しかもなんか沢山……丁度捕縛組の人数ぐらいぶら下がっているような、ははは……。
あかん。
「……馬鹿な、あの人数がやられたってぇのか!?」
「旦那ァ!! どうやら相当ヤバイのが居るらしいですぜ!!」
「いや、あの……」
「アレク様はお逃げ下さい……この強烈な気配、まるで縄張りを荒らされた野生の獣のようだ」
「兄者、やるのか」
「当たり前だバルガ、恩義あるアレク様の為、脅威を前に我等が逃げる選択肢は無い!」
「それでこそだ兄者! 旦那は早くお屋敷へ! そんで大事なお人らと一緒に逃げ仰せて下させぇ!!」
「お、おい待て、ちょっとタンマだ!」
「心配は無用ッ!! 我等兄弟は武と義に生きる者、行くぞバルガッッ!!!!」
「応ッッ!!!!」
「おーい話聞いてーー!?」
なんか決死の覚悟を決めたらしいベルガとバルガの濃い兄弟なのだがちょっと待って。
ホント話聞けよ!?
俺がなんとか止めようとするも、鍛え上げられたマッチョ二人は聞く耳持たず、俊敏な動きで捕縛組がぶら下がっている地点を目指して駆けて行く。
俺も付いて行くが移動速度がまるで違う。
一応自分とこの庭だし、そもそも俺は逃げ足だけは自信あるのだが、アイツらタンッタンッタンッって具合に木の幹とか蹴りながら、飛ぶように移動してるから追い付かない。
そういや、アイツら武闘家とか言ってたっけ。なんだっけ、確かシア皇王国に伝わるの武術の門下だったとかなんとか。
「──ぬうっ! 妖艶なッ」
「──惑わされぬぞ! 貴様、化生の類いだな!?」
と、なんとか追い付こうとしている先で、そんなベルバル兄弟の叫び声が響いてきた。
ヤバい、接触しちゃったか。
声を上げて制止を試みるも、どうも三人とも臨戦態勢に入っちゃったらしく聞こえている気配が無い。
「──合わせろバルガッッ!!」
「応ともッッ!!」
「八卦龍陣拳が一派、“双頭龍”、右頭がベルガッッ!!」
「同じく左頭、バルガッッ!!」
げ、アイツら本気だ。
「「──双頭龍奥義、飛天・龍爪双破弾ッッ!!!!」」
……空中で交差するように飛び蹴りを放ったベルバル兄弟を見る。
あの技は以前、演舞と称して見せて貰った事がある。
空中にいる相手を同時に攻撃するという合体奥義らしく、インパクトの瞬間は単体の蹴り技の何倍もの威力があるらしい。
まあ、当たればなんだが。
……技の直後、ドゴバキッって感じの鈍い音が鳴ったと思ったら、まっ逆さまにベルバル兄弟が地面に墜落していった。
どうやら一撃づつでノックアウトされたらしい。
あーあ、言わんこっちゃない。
それから、木々の間をピョンピョン飛び回っていたらしき下手人が、ベルバル兄弟の墜落現場に軽い着地音と共に降り立ち、同じく現場に到着していた俺の目の前に姿を表した。
「……なんなのコイツら、まったくもう」
筋骨隆々な濃い兄弟、それに盗っ人木こり捕縛組の腕っ節自慢の方々を全滅させたコイツは、派手に動いたせいで少し乱れたらしき着ているメイド服を手で払って整えながらため息を付いていた。
「おい、リオナ」
「へ? あれ、えと、若旦那様? なんで……」
うん、まあ、やっぱりお前だよね。
途中から気付いてたけどさ、荒くれ者集団を単独で全滅させるとか、リオナぐらいしか出来ないわな。
「あれ、どうして居るんですか? えと、出張だって……」
「ああ、うん、ちょっとな? それよりリオナ……」
「あっ、そうです不審者ですっ! 不審者がいっぱい居たんです! 全部やっつけましたけど」
「……そうか」
「最初にえっと……その、この辺りをお散歩していたら、なんかたくさん男の人が武器持って歩いてて」
「…………」
うん、万が一があったら不味いし、武装はさせてたよ、事情知らなければ武装集団が屋敷の周辺うろついてて、強盗でもしようとしてるように見えるかもね。
……この辺じゃ見ない顔ばっかり集めて雇ったからなぁ、唯一リオナの顔知ってる奴も猪潰しのゴンザさんの介抱に残して来ちゃったし。
ベルバル兄弟ぐらいは面通ししとくべきだったわ、反省しよ。
「それでですね、とりあえず危ない人達だと思ったんで、殴って気絶させて、木に引っ掛けといたんです」
「なんで木に引っ掛けといたんだ?」
「えと、縄を持って来る迄に逃げづらくなるようにです。一旦お屋敷に戻って、ソフィに隠れるように言うのと縄を取りに行くのでちょっと離れる必要あったので」
なるほど、気絶させて一旦離れてた隙に例の猪潰しさんは即復活して命からがら逃げて来たと。
頑丈だな猪潰しさん、後で正式に雇用結ぶか交渉しよ。
「そう……で、ソフィはなんて?」
「倉庫の隅に隠れさせました。全部やっつけたって言ったのにちょっと恐がってましたけど」
……あー、そこらへんも勘違いしちゃったかー。無闇に怖がらせてしまったらしいので謝らねば。
「で、縄を持って来て、今から縛って憲兵さんに付き出そうっていう所へ、生き残りが居たらしくて、丁度気絶させた所へ若旦那様が」
「そうか……」
うん、これはあれだな、人の知らない所で内緒で色々やろうとすると、ろくな事にならないって教訓だな。
お互いに。
「リオナ」
「はい?」
「とりあえずごめんなさいしようか」
「……へ?」
◇◆◇
それから、気絶した連中を介抱してとりあえず屋敷の庭へ連れて行き、今回の事は認識の違いによる不幸な出来事だったと説明した。
まあ、危険手当て込みでそれなりの金で雇っていた訳だし、追加金も付けるとしたことで不満は出なかったので、こっちは良しとしよう。
「彼女が例のリオナちゃんとやらですかアレク様……弾むように揺れる乳に眼を奪われたとはいえ不覚を取るとは……」
「強いとは聞いていやしたが、これ程とは……はためくスカートから太ももが見えそうだからと油断したとはいえ、我等が兄弟の技がまるで通じねぇとは」
「てめえらどこみてんだこのやろう。解雇すんぞ貴様ら」
ベルバル兄弟もちょっとやそっとでは負けないぐらい強いはずなんだが、相手が悪い。
流石のベルバル兄弟でも腹ペコくまさんを素手で制圧は難しかろう。リオナはそれを十歳頃にやってのけてるし。
「まあ、気にするな。アイツは存在がファンタジーだから」
ま、解雇は半分常談だし、普通にベルバル兄弟は護衛しては優秀だしもうちょい優遇してやらねば。
「さて……リオナ」
「………………はぃ」
「なんでお前、こっそり伐採してたんだ、薪買う費用は出してただろ」
「…………」
今回の騒動の発端、それはリオナが俺に隠れて木を勝手に伐って薪にしてたのが発端らしい。
証拠としては薪を置いてある屋敷の裏の物置小屋に、乾燥中らしい丸太を見つけたので言い逃れは不可能である。
薪買うのに丸太状態のを買う奴は流石に居ないだろう。そもそも乾燥前の丸太売り付ける薪屋が居たらそこは総スカン食らって潰れると思う。
だいたい、うちに生えてたのらしい種類の木ばっかりだしな。
「…………そ、それは……その……」
リオナを問い詰めると、涙目の涙声でプルプル震えながら白状した。
どうも、薪購入の為の代金をへそくりとして貯蓄していたそうな。
「……なんでそんなとこケチるんだよ、いや、自分で伐ればタダとでも思ったんだろうけど」
そこでなー、自分で伐れちゃうのがなー。
「……節約になると思って……」
「アホう、それでお前の仕事量が増えたら世話無いだろ、ただでさえ屋敷の管理任せてんのに……」
自分から仕事量増やしてどうすんだホントに、楽出来る所は楽をすべきだろうよ。
少なくとも俺はそうしてるぞ、自分がやらんで良いことは徹底的に人任せだしな、俺。
「……とにかくだ、変に気遣う事無いから、今後はちゃんと薪ぐらい買うように」
「はぃ…………ごめんなさい……」
「…………」
うーん、かなりしょげてるな。
ぶっちゃけ真相が分かった瞬間に俺の中での盗っ人木こりへの怒りなんぞ霧散しているのだが、雇い人とはいえ他人巻き込んで騒いじまったからな、けじめの意味でも叱っとかんと。
下手人がリオナというなら、あれだし、俺の私有地だけどリオナの庭とも言えるし。
勝手には困るが言ってくれるなら文句は無いのだ本来なら。
「下手人はふんじばってひんむいてケツの毛までむしりとってやるってアレク様は言っていたが……」
「兄者、こりゃあれですかいそういうお楽しみの為の余興だったってぇ事で……」
「…………えぅ……」
「おいベルバルてめえら変な事言ってんじゃねえぞ解雇すんぞ貴様らァ!!」
リオナも真に受けてお尻押さえて俯くんじゃないよ!
そんなもんやるわけ無いだろうが!!
◇◆◇
「ご主人さま、それならあれです、いっその事リオナの好きにさせて上げたらどうですか?」
「ん? ソフィ、どゆこと?」
その後の話である。
一連の騒動の間を倉庫の隅っこでプルプル震えているだけで過ごしていたソフィに、事情説明と怖がらせてごめんなさいと謝罪した後でのお言葉だった。
「いえ、リオナなんですけど、どうも普通のメイドとしてのお仕事だけじゃ動き足りないらしくて」
「はい?」
「丸太を薪にする作業なんですけど、見てるとストレス発散に役立ってるみたいなんです」
「…………」
ソフィが言うには、リオナは通常のメイドとしての仕事だけでは、ハッキリと言うが暴れ足りないのだという。
で、その不足分を補うのに丸太を拳で叩き割る作業が絶妙らしい。本人は意図して行っている訳ではないらしいが。
……まあ、納得出来る話ではあった。幼少期の暴れっぷりを見るに、今のリオナは大人しくなりすぎなのだ。
大人になって落ち着いたのもあるだろうけど、人間、子供の頃に培ったもんは中々変わらんしな。
やんちゃな子供は大人になってもやんちゃな部分は残るものなのだろう。たぶん。
出来れば残らず消えておしとやかになってた方が良いのは間違いないが。腕力的に。
「伐ってしまった樹は、植樹して保存しているんでしたっけ、それならその作業を継続さえすれば林に人の手を入れて管理する事にも繋がりますし、悪くないと思うのですけど……」
「……あー、そうかもね。そうするか」
「はいっ、提案聞いて貰ってありがとうございますご主人さま」
「いいよ、リオナの為でしょ、ソフィがそれ提案したの」
なら、お礼をしたいのはこちらなぐらいだ。二人が仲が良いのは俺としてはとても嬉しいのだし。
そんな訳で、人騒がせな木こり騒動は認知しているという事以外には特に変わらず、そのままリオナが樹を伐り薪を用意するという妙な采配のままに落ち着いたのだった。
「……あれ、今月の生活費、ちょっと少ない……」
「薪代抜いて計算したからなー、そりゃ少ないだろ」
「……えぇっ」
「なにその意外そうな顔、なんで渡すとおもったんだ……」
後日、生活費を渡す時にリオナがすげー不満顔していたが、薪製造役の分給金値上げしたのに薪購入費までそのまま渡すわけないだろ。
いままで貯めてたらしいへそくりは好きにしても良いけど、へそくり代までは流石にちょっと甘いだろうしな。




