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『ふれんどりーふぁいやー(前)』

 


「…………まーたやられた!! 何度目だチクショウ!?」



 季節は真冬。

 この地方としては珍しく、粉のような雪がちらついていたとある日。 俺は散歩がてらに屋敷の周囲を囲う、雑木林の中で声を荒げた。



「本数自体は大した事は無いがこのままじゃいずれ林がハゲちまう、流石にもう看過できん!!」



 無残にも切り倒された名残り、切り株のすぐ近くに同じ種類の木の苗を植えながら俺はいい加減犯人を捕まえる事を決意した。



「待っていやがれ愚か者め、見回りに気付いて自粛するなら放置したがそれでも勝手に木を切り倒していくなら全力で相手になってやろうじゃねえか。 取っ捕まえて真冬の空の下で全裸にひんむいてケツの毛全てむしり獲って軽く火で炙って永久に下の毛の生えない恥ずかしい身体にしてくれる!!」



 そうして私有地を荒らされた怒りの叫びを上げながら、俺は犯人、通称盗人木こり(ランバーシーフ)を発見・捕獲に乗り出す決意を固めたのだった。





 ◇◆◇





「……林から音が? 本当か」


「はい、間違い無く木を切り倒す音です」


「よし、ようやく尻尾を掴んだぞ盗人木こりめ……!!」



 見回りを任せていた用心棒のひとりから、俺は犯人らしき者が犯行に及び始めたという報告を聞き、屋敷から離れた場所に急造した掘っ立て小屋から飛び出した。


 犯人を捕まえると決断してから、およそ二ヶ月もの時間が過ぎ、既に季節は春に差し掛かっている。



「こそこそと気付かれずに犯行に及べたのは今日までだったようだな盗人木こりめ!! 毎度毎度俺が居ない時ばかり出没しやがって、だが極秘で潜伏した甲斐があったな、見事に引っ掛かったぞ!!」



 実際、盗人木こりは実に慎重な輩のようで、リオナや他の見回りの目をことごとく掻い潜り、誰ひとりその姿を見ていない。


 周囲に俺と同様詳しいリオナに「ここ数年で敷地内で不審者を見なかったか?」と聞いても見ていないと答えるし、交代制で見回りをさせても屋敷に住む俺とリオナ、それとソフィ以外の者の姿は確認出来ず仕舞い。

 しかし、俺が長期間屋敷を離れる際は大抵犯行に及ばれる始末。


 なんか監視までされているようで気持ち悪いし、下手をするとリオナやソフィに危害が加えられる可能性もあるので、俺が居ないと出没するという習性を逆手に取り、極秘で前線基地を作り潜伏して出没を待ったのだ。


 極秘というのはそれはもう戦力となる用心棒と、モニカにも内密に雇った他所の街の力自慢の方々のみがここに俺が居るのを知っている。

 リオナやソフィにすら教えていない。 一応、最近物騒だから俺が不在の時は屋敷の庭以上外に出るなと言いつけてあるが。



「まず状況確認だ、犯人の数は?」


「不明です。 何分遠くから木を穿つ音が響いてきたのを聞いただけですからね」


「そうか、単独って事は無いと思うが……」


「アレク様はあまり近付かずに安全な場所で待機を。 少なくともやっこさん、得物は所持してますからな」


「斧か、抵抗されたら危険だな……」


「斧……そういやぁ旦那」


「ん、なんだ?」



 護衛達と話をしている中で、ひとりの男が手を上げて発言する。 なにやら斧という単語が引っ掛かったらしい。



「旦那と住んでる……あのべっぴんなメイドの嬢ちゃん居るじゃねぇですか、その娘が前の見回りん時に斧持ってうろついてたんですが……」


「ん? リオナが? 林の中で?」


「へい、そうでさ」


「……なんでリオナが、まあ、不審者出るって話はしてたから護身用………………いやアイツに斧とか必要ないか、んん……?」



 はて、理由が分からないがリオナが林の中で斧を持ってうろついていたらしい。 まあ、アイツの場合得物持っている事で不用意な戦闘を避ける意味合いでも持たせたのかも知れないし。

 ほら、素手だと制圧は出来るけど襲いかかってくるのには違いないじゃん? その点武器を何かしら持っていればそれだけで相手が諦めるかもしれないし。



「ま、リオナの事は置いとくとしよう。 まさかアイツが犯人だとかふざけた展開ではないだろ。 ははは」


「旦那がそう言うならそうなんでしょうけどねぇ、はあ」



 なんか疑わしい視線を送ってくるが、リオナは犯行動機なんかないぞ。 なんでアイツが木をこっそり切るのだ。 薪の購入費用ぐらいしっかり渡している。



「さあ、あんまり話し合いばかりしてても仕方ない、とりあえず俺と、ベルバル兄弟の他に何人か残ってそれ以外は全員犯人が居るであろう場所に急行だ!! いいか、抵抗されたら無理はするなよ、怪我されるぐらいなら逃がした方がマシだ!! 十分警戒して追い込め!!」


「「「へいっ!!」」」



 現在、動員している人数は全部で三十人。 その中で元々の護衛は四人で、その内二人はベルガとバルガという戦場帰りの頼もしい筋肉兄弟を動員している。



「ベルガとバルガは暴れたいかもしれないが、我慢してくれな? 流石に俺の護衛が居なくなるのはちょっとな」


「分かっていやすぜアレク様」

「しっかりお守り致しますので安心してくだせぇ」


「おう、頼りにしてる」



 絵面が汗臭いがコイツら兄弟はちょっとやそっとの相手には負けないぐらいには強い。

 それにベルバル兄弟以外の犯人確保に向かった連中だって力自慢の腕っぷしの強い奴ばかりだ。

 なので俺はいかにして犯人を泣かすか、この時点ではそれしか考えていなかった。




 ◇◆◇




「……ところでアレク様、その件のリオナちゃんとやらはそんなに美人なんですかい? 気になるよなぁバルガ?」

「兄者の言うとおりですな、わしら兄弟は拝ませて貰っとらんので気になって仕方がねぇ、どうなんですかい?」


「……お前ら相変わらず見た目に反してと下世話だな……うん、まあ、美人なんじゃねえの?」


「ついでに最近はソフィちゃんとかいう幼子に夢中になっているってもっぱらの噂ですがどうなんで?」

「モニカ様が珍しく愚痴ってましたぜ、ロリコン野郎って」


「……モニカ、言ってはいけない事を言ったな? おのれ……」


「アレク様はもうちょいモニカ様にも優しくして上げて欲しい所なんですがねぇ、二人も三人も変わらんでしょう。 なぁバルガよ」

「兄者の言うとおりだ、商会ではモニカ様だけ辛そうにしているから可哀想で可哀想で……」


「モニカと同じぐらい仕事が出来る奴が居ないんだから仕方ないだろ……それと俺をハーレム思考の女ったらしみたいに認識するのヤメロ」


「「……え?」」


「なにその意外そうな濃い顔付きは。 解雇すんぞ貴様ら」



 犯人捕獲班が林の中へと進入していってしばらく。 俺は周りに残した護衛達と駄弁りつつ続報を待っていた。


 しかし……。



「…………遅いな、いくらなんでも時間掛かり過ぎじゃないか?」



 既に捕獲班が向かってから二時間は経過している。 おおよその場所が特定出来ていた状況で、ここまで掛かるのは流石におかしかった。



「……思ってたよりヤバいのか? くそ、誰か戻って来てくれれば状況もわかるんだが……」


「アレク様、落ち着いてくだせぇ、とにかく今治待ちましょう」

「そうですぜ、焦って動いたらこっちまであぶない可能性がある」


「……分かっているが……」



 今になって連絡役を用意しなかったのが悔やまれる。 まさかあの人数で安否が不明な事態になるとは予測もしていなかった。



「…………」



 最悪、危険な輩だった場合……下手に刺激したせいでリオナやソフィに危害が及ぶ可能性だってある。



「…………くそ!! ベルガバルガ、すまんが付き合え、屋敷に戻る!!」


「アレク様、ですが!?」

「何も分からねぇで動くにゃ危険ですぜ!?」


「んなことは分かってる。 それでも行くんだよ……っん?!」



 背筋に嫌な悪寒を感じ、屋敷へ戻ろうとした矢先、林の奥から疲れはてた表情で転がるように戻ってきた雇いの男が飛び出して来た。



「……ひぃ……ひぃ……た、助け……!?」



 良い歳の、腕っぷしに自信がありそうな厳ついおっさんが、泣きそうになりながらすがり付いてくる。 なんだ、一体何が起きたのか。



「お、おいどうしたんだ!? 何があった!!」



 俺は異様な雰囲気を感じ、必死で事情を聞いた。 もし、大の男が束になっても蹴散らされてしまうような何かが屋敷の近くの潜んでいたとしたら……。



「教えてくれ、何があったのか、何にそんなに怯えてるんだ!?」



「…………ご………」



「……ご?」


「……ごりら……め、メイド服のゴリラが木を……」


「は?」


「──────」


「お、おい!? おいしっかりしろぉぉ!?」



 男は、そう伝えて意識を途絶えさせた。 見れば頭部にデカイたんこぶが……。



「…………」


 メイド服のゴリラ。 男が残したその言葉に俺は、嫌な予感が更に強めるのを感じていた。



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