1-2『素直じゃない』
※旧第5部~7部を統合致しました。
※2019/5/27
推敲作業済(文章内容改稿)
◇◆◇リオナ視点◇◆◇
「仕立て屋? なんで?」
ソフィが来た日から明けて翌日。 とりあえず昨晩の内に決めていた事を、朝食を取りながら伝える。
「仕事着なのでお古という訳にもいかないんです、なので新調しなくてはと思いまして」
「あー、そりゃそうだ……今着ている服のままじゃ仕事しづらいよな」
「すいません、お手数お掛けして」
「いや、必要な事だし謝らなくて良いけどさ」
実際、今ソフィが着ている服は余所行きの服装なので、ちょっと生地が弱い。 それに生活着としてもいまいちな筈だ。
「現状、一張羅なのもいただけないです」
「そだね、わかった」
「ありがとうございます」
「それでは若旦那様、朝食が済んだら街まで行って来ますね?」
「…………んー、いや、俺が連れていくわ」
…………はい?
「リオナは家の仕事あるじゃん? 俺、今日は空いてるから問題ないし」
「…………えと」
…………。
「心配しなくても大丈夫、俺の方が支払いやらなにやら全部一気に済ませられるし? だからな、任せとけって、な?」
………………。
「おーい、リオナ、聞いてるか?」
「聞いてます」
「そういう事だから、よろしく」
「…………分かりました」
「……えーと……」
あたしは見た。 コイツ一瞬だけど、してやったりって顔をした。
◇◆◇
「じゃ、行こうか? リオナは留守番よろしく」
「は、はい」
「…………行ってらっしゃいませ」
やたらとご機嫌な雰囲気で、ソフィと共に街へと向かって行くアイツを、あたしは玄関の扉の前に立って見送った。
それから、二人の姿が見えなくなった頃にお屋敷の中へと戻って、ゆっくりと息を吸った。
「…………うがああああああああぁぁああああああああああああああぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁああああぁぁああああああ!!!! ムっっカつくぅぅぅぅぅぅうううぅぅぅぅぅぅうううぅぅぅぅぅぅうううぅぅぅぅぅぅうううッッ!!!!
何よデレデレとだらしない顔してんのあのゲスちんは!? 変なことしようとしてんのまるわかりなのよ!! なんなの!? そんなにちっちゃいのが好きか!? ロリコンロリコンロリコンロリコン!!!! ばーかばーかばーかばーか!!!!変態へんたいヘンタイ!!!!」
…………。
「……はあ……はあ……やな奴」
あの子、ソフィは良い子だ。 昨晩話していてそれは分かった。 だから、仲良くしたいとは思っている、それは本心だ。
でも、やっぱり悔しいし、悲しい。
今までずっと二人で暮らしていた所に、いきなり現れて、持って行ってしまった。
「………………」
嫌な奴は自分の方だ。 結局、嫉妬している癖に誰にも言えずに、独りで居る時にこうして叫ぶぐらいしか出来ない。
「馬鹿みたい」
ソフィを連れて来たアイツには非は無い。 結局の所は、あの時に アイツの差し伸べた手を取らなかった自分が悪い。 そこで受け入れていれば、こんな嫌な奴にならなくて済んだ筈なのに。
「…………」
……それならいっそ、もっと馬鹿な真似でもしようかと、そんな考えが浮かんでくる。
「…………ぐすっ……あたしも付いてってやる」
自らが刺繍を入れた袖口で、水っぽくなってしまっていた目元を拭って、あたしはまず自室へと戻った。
◇◆◇変態視点◇◆◇
「……人混みが酷いようだ、はぐれたらいけない、手を繋ごうか」
「……え……えーと」
屋敷を後にして街道を歩き、程無くしてこの街、地方都市レナータの商店街へと到着した。
「あの、はぐれるほど人が多い訳でも無いと……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………えと、それじゃあ、はい」
「!!」
手を繋ぎた過ぎてテキトーな事言って、繋いでくれないかなと見詰めてみたら繋いでくれた。
なんて良い子なんだ。 かわいい。
「…………リオナならバカアホヘンタイ死ね痴漢っ!! って罵倒されてる所やでぇ」
「へっ? リオナがですか?」
「うん? ああそう、リオナなら手なんか繋いでくれないよ」
俺は知っている。 アイツにおてて繋いでなんて言った日には片手の骨が粉砕骨折する覚悟をしなくてはいけない事を。
ちなみに俺が十二歳の頃か、実際にそうなっている。
ていうかさ、ソフィちゃん一日で呼び捨てに出来るほどリオナと仲良くなったのね。
「……繋いでくれると思いますよ? だって、その……」
「そうかなあ? 繋ぐにしても握り潰されて終わりでしょー」
「そんな事ないですよ、絶対ですっ」
ふむ? 何故こうまで食い付くのかね? 諸君らは何か分からないか? ……うん、察せよと? それが出来れば苦労などせぬわ。
「そんな事言われてもな……だってアイツ、俺の事嫌いとまでは言わないけど、基本変態の汚物扱いだよ?」
「で、でも、普通の主人とメイドの間柄よりは随分近しい関係ですよね?」
「そりゃまあ、物心付く頃から一緒にいるからねえ」
「幼なじみなんですね」
「まあね」
道行く人々とすれ違いながら、商店街を目的地へと向かって歩く。 繋いだ手から伝わる温かさを心地よく思いながら語るのは、まあ、リオナとの子供の頃の思い出だった。
何故ソフィちゃんとイチャイチャしたいのにリオナの話になるのかは首を傾げるが、まあ良いだろう。 まだまだ出逢ってから日が浅いのだし、話せる事ならなんでも良い。
「最近はかなり落ち着いて来たけど、子供の頃のアイツは男勝りのお転婆……なんて言葉じゃ収まらん程には暴虐で乱暴で狂暴だったんだよね」
「……えと、そこまで言う程ですか」
「こんな言葉じゃ足りないぐらいだ」
思い出すは幼少の頃の数々の死線……。
嗚呼、大変だったな……よく生きていたものだ。
「…………目が死んでますけど……」
「そう? まあ、ソフィちゃんも狼の群れに囲まれたりワニの泳ぐ川で水泳したり腹ペコクマさんに捕獲されてかじられそうになったりしたら悟りもすると思うよ? あはははは」
「は、はぁ……」
あまり深く思い出すとトラウマが刺激されて失禁してしまうかもしれん。 そろそろやめよう。
「ともかくだ、そんな感じでずっと一緒だったし、近しい間柄なのは間違ってないよ、半分妹みたいなもんだな」
「……妹、ですか」
「半分ね、アイツの出自は俺でも良く分からんし」
「それじゃあ、恋人……という訳では無いんですか?」
「……うん、そうだけども」
何故ソフィちゃんはこんなにリオナが俺と親しい仲なのか気にするのだろう。
「……リオナは、えと、わたしが言う事じゃないですけど、ご主人さまの事好きですよ?」
「…………そうかなあ? んなことないでしょ」
「絶対そうですってば!!」
「お、おう? なんでそんな必死なの……」
「……そ、それは……えと、わたし邪魔者なんですもん」
……なんと言えば良いのかね? ソフィちゃんが納得するような言葉。
仕方がない、恥ずかしいがちょっとだけ教えよう。
「…………うーん……まあ、実を言うと、恋人同士になりたくて、えーと……愛の告白なんてのをした事はあるんだけどね」
「そうなんですか? でも、それじゃあどうして……?」
……ソフィちゃん、なんか昨日の借りてきた猫のような大人しさが消えてグイグイ来るね? あれか、恋バナは乙女の嗜みなのか。
「どうしてもこうしても俺は振られてんのよ? 今でも思い出すぜ、あのお断りの言葉……『あたしはあんたなんか好きじゃないし!! 勘違いしないでよねバカっ!!』……と、まだ純粋な少年だったわたくしめは心を深く抉られて、しばらく枕を夜な夜な濡らしたのさ」
「は、はあ……」
「と、言ってもけっこう前の話だし、リオナも気にした様子も無くケロっとしてるしね。 昨日来たばかりのソフィちゃんには良く分からないだろうけどさ」
まあ、つまり俺は一度リオナ相手に失恋しているのだ。 そしてアイツ相手にその手の機会はもう無かろう、そう思っている。
「…………来たばかりのわたしでもまるわかりでしたけど」
ボソッと呟かれたソフィちゃんの声には俺は気付く事無く歩くのだった。
◇◆◇
テイラー被服店。 ソフィちゃんのメイド服を仕立てる為に訪れた店である。
前々からうちが贔屓にしていた店なのだが、俺自身が訪れたのは今回が初めてだったりする。 リオナはたまに来させてるんだがね。
「では寸法をお取りしますので奥へどうぞ」
「あ、はい」
で、特に問題も無く注文はしたので、後は採寸だけである。 採寸は店の奥の仕切りで隠された場所で行うらしい。
付いていきたい。 胸と腰とお尻をきゅっと紐で括られちゃうソフィちゃんを眺めながらワイン呑みたい。 きっと最高の肴になると思うんだ。
だがそういう訳にもいかないのが現実だ。 ソフィちゃんは現在スリーサイズを計られているのだ、そんな所に俺が乱入したら羞恥のあまり赤面して泣いちゃうかもしれないじゃないか。
イカンよ、女の子を泣かせるような真似は控えるべきだ。 諸君も女の子の泣き顔は嫌いだろう?
そんな訳で俺は、特に何もする事無くぼけーっと突っ立って終わるのを待っているのだ。
今日は既製品の服を買う予定もないものだから『ご主人さま……この服どうですか? 似合ってます?』的な定番のステキイベントも発生しないし、ぶっちゃけつまらん。 早く終わらないもんかね?
そもそもだ、店内に居るのが女性の店員しか居ないとかダメだろう!? これじゃ俺がリオナに睨まれながらもここまで来た意味が半減だよ!!
俺はね、仕立て屋に行くって言うからさ、せっかくだし色々頼んじゃおっかなって思っていたのだ。
生地超節約エロメイド服とかバニースーツとか修道服とかスケスケのネグリジェとか初等学院の制服とかっ!! ついでに内緒で頼みたかったんだよ!!
「……女の店員さんじゃ頼めないじゃん……っ!!」
俺は自らの性癖を、見ず知らずの女の人へ暴露する度胸は持ち合わせていない。
くそう、なんて変態に優しくない店なんだ。 後で理不尽なクレームを匿名で投書して無駄に困らせてやるっ。
「……同士の気配がしますな」
「うん?」
突然のっそりと現れたのはひげ面のおっさんだった。 ただしひげ面と言っても清潔に整えられた口ひげを生やした、小太りのダンディ親父だが。
「失礼、わたくしこの店の主人をしておりますテイラー・クラーフマンと申します、そちらは?」
「……へ? ああ、俺はただの客ですよ」
「いやいや、お客様からは人とは違う、選ばれし者達の気配が致しますぞ……そう、“愛を貫く紳士”の気配が」
「……は?」
このおっちゃんはいきなり出てきて何を言い出すのだ。
「……む? おや、もしや街外れに住むカウフマン様の所の坊っちゃんではないですかな? 大きくなられましたな」
「あれ、知ってるんですか?」
「ええ、先代様の頃よりご贔屓を頂いておりますし、以前はわたくし自らがお屋敷まで足を運んだりもしておりましたので」
「はあ、良く分かりましたね?」
「お得意先のご子息様のお顔を覚えているぐらいは当然ですぞ、ふふふ……」
「そ、そうですか」
「先代様が亡くなられた際の葬儀にも参列はしていましたが、その時は見掛けませなんでどうしたのかとは思っていたのですがね? ただ、そちら様の使用人の女性は稀に訪れるので、坊ちゃまがご壮健なのは分かっていましたが」
「…………あー、まあ、色々ありまして。 父の代ほどでは無いですがぼちぼちと商人はしていますよ」
あれかね、客が暇そうにしてたから話相手をつとめて待ち時間を埋める配慮って奴か。 確かに暇そうにはしてたがそこら辺の話題はあんまりねぇ?
「して、時に坊っちゃん……いや、お客様、ただいまあちらで採寸を行わせて戴いている可憐な美少女ですが……もしや、使用人として新しく招いた者で?」
「そうですけど」
「……ならば、わたくしめに何か伝えなくてはいけない使命があるのでは?」
「ッッ!!」
この仕立て屋の親父……そこまで読んで俺に話し掛けたのか……!?
確かに俺は店番の者が女性しかいない事に絶望していた。 だが、それを察して店主自らが動いたとなれば……俺の望みは達成される。
コイツ、出来る漢だな……!!
「どうですかな?」
「……お見通しか、ならば遠慮すまい……えーと……あれがこうであーしてこーしてこーなってるのをあんな感じで………」
「ほう、ほう……ふむ、ほほう? ……おお、なんとっ!?」
この後めちゃくちゃ注文した。
「おまたせしましたご主人さま……って、えと?」
「仕立て屋の親父、あんたぁ頼れる漢だ……この仕事、キッチリ頼んだぜ……!!」
「ふっ、任されましょう、坊っちゃんのような若者が同士とあらば、腕の振るい甲斐もあるというものですぞ」
「ふっ……ふはははは」
「ふっふっふっふっ……」
「…………???」
それから漢同士、熱い握手を交わしてから採寸を終えたソフィちゃんと仕立て屋を後にしたのだった。
◇◆◇
「……ふぅ、早く仕立て終わるといいねぇ」
「はい、お仕事用の服ですけど、やっぱり新しいお洋服って楽しみですね」
「うん、そりゃ良かった」
仕事のデキる仕立て屋を後にした俺とソフィちゃんは、商店街をぶらぶらと歩きながら話をしていた。
時刻はまだ昼にもなっていないので、どうせならというか、元からそのつもりだったのだが、俺はソフィちゃんとデートしたかったのでそうしているのだ。
「早く使用人服が届いて、わたしもたくさんご奉仕したいです」
「ごめん、もう一度言って?」
「……?…… えと、早く使用人服を着て、ご主人さまにたくさんご奉仕したいです?」
「…………ふぅ……」
「……???」
いやあ、今日は良い日だなぁ。
それから俺は、この街を歩くのは初めてなソフィちゃんを連れて色々と案内を始めた。
「この地方都市レナータは、ファーン王国の西の国境付近に位置する交易都市で、西ファーンではそこそこの規模の都市になるかな。 王都から最も離れた場所にある人口密集地としても有名なんだ」
「へえ、そうなんですか」
「うん、ここから更に西へ行くと海洋国家であるヴァリエ。 南には代々女王が治めていると言われる、シーメリル女王国へと続く街道が伸びてる」
「……へぇ」
「で、この街の話に戻すけど、レナータの人口は約五万人、内約としては貴族と騎士階級の者が一パーセント、平民が七十二パーセントで男女比率が4.9対5.1と若干だけど女性の方が多いんだ、まあ誤差の範囲だけど、それと各世代毎の比率は調査中で、次に各職人の就労分布と平均給与なんだけど……」
「……えと、ご主人さま?」
「え、なに? どっか間違ってた?」
「……その、街の事を教えて貰えるならどちらかと言うと成り立ちとか名前の由来くらいで十分かなって……あはは……」
「え、あ、うん、そお?」
ふむ、街の詳細情報は面白く無かったか。 こういう知識って調べたり聞いたりするの面白いと思ったんだがソフィちゃんはお気に召さなかったらしい。
聞いてはくれていたものの、とても困った顔をしておられる。 苦笑いして遠慮するソフィちゃんもかわいい。
そういえばリオナもまともに聞いてくれんかったな、女の子にはつまらないのか、なんてこった。
まあいい切り替えて行こう、とりあえずご要望の街の由来とかを説明して差し上げよう。
「今ちょうど見えて来た広場があるだろ? あそこの中央に建てられた像が、この街を興したとされる人、名前はそのままレナータ様」
「……へぇ……女の人なんだ」
「聖母教の偉人でもあるらしいよ、えーと、あのおとぎ話の僧侶様らしいって事でも有名だね」
「おとぎ話って、何百年も昔に勇者と三人の英雄が魔王を倒したっていう?」
「そうそれ。 まあ絶対作り話だけどね、だって魔法とかバンバン使ってんだもんあのおとぎ話」
「そうですねぇ、実話だったら今でも魔法とか使えないとおかしいですもんね」
勇者の伝説が実話なのだとしたら、今のこの世の中でも魔法が使えなきゃおかしいだろう。 なのでこの国のベストセラーであるあのおとぎ話は作り話というのが俺の中では通説である。
まあ、史実だと主張する派閥も多いからどっちがどっちとはホントは言えないんだがね。でも現実的に魔法なんぞという非科学的な存在は、現在では使える奴は一切居ない。
……まあ、魔法並みにでたらめでファンタジーな奴をひとり知っているのだが。
「……………………」
「……ん?」
「どうしました、ご主人さま?」
「……いや、気のせいかな?」
「……」
何故か背後から見られているような視線を感じたので、振り返ってみたのだが特に俺やソフィちゃんに意識を集中させている奴は見当たらない。 やはり気のせいか。
「まあいいや、そんな事よりそろそろお昼だし、何か食べようか」
「え、でも……リオナがお屋敷で作って待っているんじゃ?」
「……あー、確かに」
「…………ぅ……」
「……ん?」
「……また何か? ご主人さま」
「うん、なにやら慌てたような気配を感じた」
「……は、はぁ」
「……」
気配は感じたが姿は見えず、はて、どういう事なのか。
「まあいいや、行こうか」
「えと、帰るんですか?」
「いや? せっかくだし食べて行こう、リオナなら平気だろ、三人分作ってたってアイツなら全部食える、ははははは」
「……そ、それはちょっと……」
「いやいやホントだって、アイツの食欲は本物だよ? 三度の食事の合間に何度も間食してr……!?」
────殺気。
「…………………………………」
「ご主人さま?」
「ちょっと待って…………そこだッッ!!」
「ひぅ!?」
俺は殺気が漏れていた場所、路地の脇に置いてあった樽の山、その陰に近付き確認する。
……するとやはり、サボり中のアホが隠れているのを見つけたのだった。
「あ、リオナ?」
「……なんか妙な視線を感じると思ったらやっぱりお前か、留守番はどうしたおい」
「…………ど、どうしてわかったのですか」
「長年に渡って圧倒的強者にボコボコにされ続けた俺の危機感知能力を舐めるなよ? 他の気配はともかく殺気が僅かにでも混ざれば容易く察知出来るわ、逃げる為に!!」
特にコイツの気配は幼少時から浴びせられつづけた一番判別しやすい気配である。
幼少時、コイツ相手にスカートめくりしてからの逃亡成功率三割は伊達では無い。
まあそのおかげで初等学院通っている時のあだ名がネズミかゴキブリのどちらかだったのだが。 弱いくせに逃げ足早くてやたらとしぶとい的な。
「…………くっ……」
「……えと」
……隠れて覗き見してた理由はよくわからないが、まあ、屋敷でひとり待ってるのが嫌だったのだけはなんとなく分かる。
俺だって置いてきぼりは嫌だしな、そこら辺の配慮が足りなかったらしい。
「……あーもう、付いて来たかったなら初めから言えよ、こそこそ隠れて覗き見なんぞしやがって」
「……二人で出歩きたかったのかと思って」
それについては間違ってないが、別にいつでも出来るし。
「…………はあ、ほらいつまでもしゃがみ込んでないで、飯食い行くぞ」
「……よろしいのですか?」
「よろしいから言ってるのよ? ほれ、ちゃんと立て」
中々立ち上がろうとしないので、手を取って立ち上がらせる。 立たないからって置いてきぼりにするといじけてめんどくさいので。
「…………」
「ん? どったの」
「いえ、やっぱり仲良しなんですね、二人共」
「……ぅ……」
「まあ、悪くはないけど」
俺とリオナのやり取りを見ながら微笑んでるソフィちゃん。 なんか勘違いされてそうだが、ただの腐れ縁よ? 甘い空間とかは作ってないからね?