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2-14『その胸の内に秘めるのは』

 


 時刻はそろそろ太陽も傾いてきて、夕刻に差し迫ろうとしている、世界が赤く染まるほんの少し前。

 焼き芋を三人で食べて、それから焚き火の後始末をしていたリオナとソフィから離れて俺は、書斎へと引きこもっていた。


 ソフィとは話の続きをしたい所ではあったけれど、まあ急ぐ事もないし少し考え事もしたかったので諦めた。 そもそも二人は家事がいそがしくなってくる時間帯だしね。




『ちゃんとリオナの事、見てあげて欲しいからです』



 ソフィの言葉を反芻する。 どういうつもりでの言葉だったのかは今一理解しきれていないが、言葉通りの意味ならば、俺はちゃんと見ていると言える。



 魔性の肉体(ワガママボディ)に育っただとかまだ胸が肥大化を止めていないだとか、そういう意味で見てるとかいうおふざけは無しにして、俺は俺自身の役目としてリオナに安寧とした生活を、来るべき日まで保証しなくてはいけない。


 ソフィとの約束とはまた違う、責任とも言うべき理由に基づいて。



「……まあ、本人が今、どう思っているかは俺には分からないんだけどな」



 革張の椅子に身体を深く沈めながら眼を閉じて、俺は物思いに耽る。

 俺は基本的に楽しい思い出以外はなるべく思い出したくないので、突発的に記憶から引き出される以外ではあまり昔の事を考えるような事はあまりしないように努めている。 出来ているかは、まあ微妙な所だけれども。


 リオナとは幼なじみであり、そして兄妹のように幼少時代を過ごした。 いつから一緒居るかは分からない。


 気がついたら居たのだ、当たり前のように。


 そして、自然と……と呼んで良いのだろう、その関係に恋愛感情が入り込んでいったのも、俺は当たり前の事だろうと思っている。 そちらは頓挫してしまったのだがね。


 このように、楽しい思い出ばかりを引き出せるのなら、俺はもっと頻発に子供の頃を懐かしんでノスタルジックな感傷に浸るだろうが、人間楽しい事だけでその人格を構築されているかと言えば、それは否だ。


 少なくとも、俺個人としては昔の話は御免被りたい。 俺と、リオナにとって過去の出来事は忌まわしい、消し去りたい出来事の筈だった。


 もし、ソフィが知りたいと言ってきたとしても、俺はきっと語らない。


 昔は昔、今は今と示して決して教える事は無い。 知る必要が無いからというのと、語った所で何かが変わる訳じゃないからというのが理由だ。


 なんの力も持たない子供が、奴隷の少女を愛して、上手く立ち回ろうとして最後の最後で上手く行かなかった話。


 惨めで、後悔と自責ばかりに塗りたくられた俺の思い出は、自分の口から誰かに漏らす事は、これから先の未来において、きっと何があっても来る事は無い。




 ◇◆◇ソフィア視点◇◆◇




「どうしたのよソフィ、落ち込んでない?」


「いえ、そんな事は……」



 リオナと一緒に焚き火の後片付けをして、それから夕食の準備をする為に厨房へと向かいながら、リオナはわたしに気遣うように話し掛けてきました。


 あ、おやつのすぐ後に夕食の準備は普通ですからね? 火を起こしたり水の準備をしたり、きちんとしたお料理は時間が掛かるんですから。



「でも、アイツも言ってたけどソフィ、このところずっとアイツの事避けてたし」


「……うっ……そ、それは……」


「なんで?」


 わたしがなるべく近付かないようにすればリオナの方へ自然と傾くと思ったからです。

 実際に暇をもて余している時のご主人さまはだいたいリオナと話していました。 こっそり覗いてたので間違いないです。 覗いてたのはバレてたらしいですけれど。


 ただ、一定の距離を保ってそれを崩さないように徹底しているのは、ご主人さまの方で、わたしの予想とは違ったいました。


 てっきり、リオナの方が壁を作っているから変な関係なのかと思っていたんですけれど……いや、正確には両方が一定以上近付かないようにしているけれど、その壁はご主人さまの方が高くて分厚いというか。


 で、リオナはともかくご主人さまはリオナの作る壁に辟易して、迂回したらわたしが目に入って寄り道というか休憩? というか……まあ、つまり浮気ですか、そんな気分に陥ってしまったと。

 そう思ったのでわたしの方もそうはいかないと、頑張って壁を作ってみようかなって。


 ……だって、そうでもしないとわたしは簡単に踏み込まれてしまいますし。


 ただ、それをリオナに言っても納得してもらえないのは、ここに来てから過ごした時間で分かっていますので、どう説明すれば良いのか判断に迷っちゃうんですけどね。



「…………よくわかんないけど言いづらいなら別にしつこくしないけど、あんまり露骨に避けると落ち込むからやめてあげてね?」


「……そうですね、はい」



 リオナに言われるまでもなく、これ以上はあまり意味がなさそうなので止めるつもりです。 また飛び出していって何故か裸のなって目の前に戻って来られても、ええと、困りますし。


 結局、何も知らないでわたしが何かしても、無意味な処か酷い仕打ちにしかならなかったみたいですし。 反省しなくちゃ。



「リオナ」


「なに?」



 厨房の中で色々と手を動かしながら、聞いてみる。



「リオナとご主人さまは、昔もこんな関係だったの?」


「ふえ?」



 リオナは火を起こす為に、薪を窯へくべていた手を止めてわたしを見てきます。



「昔?」


「うん」


「……うーん」



 リオナは指を顎に当てて考えているような仕草をします。 話とは関係無いですけど、あの綺麗な手を指でどうやったらあんな力出せるんでしょうね。

 リオナ、伐ってきた木を適当な大きさまで短くするまでは片手用の斧を使ってましたけど(ノコギリは面倒だから要らないらしいです)、最後の薪にする工程は拳で殴るでした。 斧で切るより断面がギザギザで火が着きやすいそうです。



「昔って、子供の頃?」


「うーん、そうなるかな」


「……毎日ボッコボコに殴ってた……かな?」


「……ええ?」


「ちゃ、ちゃんと加減してたからね?」



 言い訳をするリオナの目は泳いでました。 日常的にリオナの、カボチャとか薪とか、粉々に砕いちゃうような力でぼこぼこにされていたらしいご主人さま。


 殴られるのに嫌気がさして一緒になって居ないのかとも一瞬考えて、それは関係無かったのを思い出す。 確か、ご主人さまは一度フラれたと言っていました。 殴られるののが嫌なら告白なんかしないでしょうし。



「…………他には何かある?」


「他?」



 余計なお節介なのかも知れないと思いつつ、もう少し詳しく聞いておきたかった。

 見ていてもどかしいと言うのもありますけど、何よりもわたしを助けてくれた二人ですから、何かしたかったから。


 それと、諦めるべき恋だから、なるべく早く諦めさせて欲しいっていう、利己的な気持ちもちょっと。



「はっきり言うと、リオナと、ご主人さまが恋仲に成らなかった理由がわたし、知りたいから」


「……こ、恋仲って……」



 あまりいい趣味ではないですけど、原因があるなら聞きたかった。

 どうして幼なじみで、お互いに好きで、今でも意識し合っている二人が、ずっと微妙な距離のままでいるのか、その理由を。


 リオナは私の質問に、顔を背けてポツリと、いつもよりずっと小さな声で呟きました。



「ゴメン、それは言えない」



 それだけ言って、リオナはその後は黙って作業を続けていました。


 多分、人に言いたく無いほどに嫌な記憶だったのかもしれないです。 なんとなく、一瞬だけ故郷の事を考えてしまったわたしと、同じような雰囲気を感じたから。



 わたしはこれ以上の詮索を諦めました。 人の傷を抉るような真似は、例えその人の為だろうとあまりやりたくないですし。



次回から過去話に移行します。


過去話部分はストレス展開高く、けっこう胸糞です。 鬱展開苦手な方は三章移行までスルーを推奨します。

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