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2-8『かしましい娘達』

 


 ◇◆◇リオナ視点◇◆◇



「珍しいねリオナちゃん、こっちに顔見せるなんて」


「お久しぶりですモニカさん……えと、若旦那様がこちらへ来ていないかと思いまして」



 商会のロビー、その受付カウンターに座っていたモニカさん。 彼女はこちらに気付くと立ち上がり、落ち着いた雰囲気で話し掛けて来た。


 主人であるアイツ曰く、幼少時の学校で学友だったとも聞いている。


 けっこう仲は良いらしく、お互いズバズバ言い合っている姿を何度か見ている。


 初めてモニカさんと話しているアイツを見た時、その姿がなんというか、すごく信頼し合っている二人に見えたので、こっそり「恋人なんですか?」と聞いた事があるのだけれど、なんとも言えない複雑な表情をしながら徹底的に否定された事がある。


 その時は普段のモニカさんとはまるで違う、蔑むような視線を浴びせられながら淡々と、こちらの意見をしらみ潰しにするように暴力めいた言葉を投げつけられて泣きそうになった。 それ以来、モニカさんの事はちょっと苦手だったりする。


 まあ、それはともかく目的を告げて、心当たりが無いか聞いてみなくてはいけない。



「若旦那様は……居ないみたいですね」


「……えーと、さっきまでは居たんだけど入れ違いになっちゃったみたいね?」


「こちらに来てはいたんですね……少し遅かったみたい、ソフィどうします?」


「え、あ、はい、ご主人さまは何処へ行ったのかは聞いていませんか?」



 ロビー内を見渡していたソフィに意見を求めてみる。 ソフィはモニカさんの方へ向き直り、居場所に見当が無いか聞いてみていた。


「何処へ行くかまでは聞いて無いのよね……えと、それよりソフィアちゃん……よね? さっきも聞いたけど合ってるかしら?」


「はい、合っていますけど……」


「…………かわいいわね……」


「……はい?」


「抱っこしていい?」


「……え、えと……」


「モニカさん、ソフィが怖がってます」


「え、あ、うん、ごめんなさい……」



 ソフィを見てジリジリと近付いていくモニカさんと、その気配を察して後退(あとずさ)るソフィ。 正直、気持ちは分かる。 今のソフィの姿は抱き締めたくなる、というか、あたしは抱き締めた。


 嫌がられたのですぐに止めたけれど。



「……ごほんっ……ええと、真っ直ぐお屋敷へ帰った可能性は?」


「それなら歩いている途中で行き合うんじゃないかと、何処にも寄らずに真っ直ぐここへ来ましたから、ねえソフィ?」


「はい、ご主人さまは見当たらなかったですね」


「そう、だったら本当に何処へ行ったのかわからないわね……それなら、屋敷へ戻って帰りを待つか、もう一度来る事に期待して、ここで待っているかね、どうする?」


「ええと、ソフィどう思う?」


「そうですね……えと、モニカさん、ご主人さまはこちらへまた来る筈だって分かるんですか?」


「確証はないけれどね、さっきの様子だと屋敷の方に素直に戻るとはちょっと思えなくて」


「…………えーと、それは……ご主人さまは何か?」


「貴女達、アレクに何言ったの? 相当やさぐれていたけど」


「………………」


「………………」



 やっぱり、あたしとソフィの言い争いを聞いていたらしい。 直接何か言った訳ではないけれど、けっこう色々言っていたので聞いていたとしたら機嫌悪くもなるかもしれない。



「酒瓶片手に飲んだくれて始末におえなかったんだからね? アレクはあれでけっこう神経細い所あるから、ダメよなるべく優しくして上げなきゃ、じゃなきゃこっちに迷惑が掛かるもの」


「……うっ」


「す、すみません……」



 あたしとソフィは気まずげに視線を合わせて、揃って口ごもる。

 事実、アイツは悪口とかに弱い。 あたしから言われるのには慣れていると思っていたけれど、ソフィと二人がかりでの陰口紛いの暴言を聞いてしまったのなら確かに傷付くかもしれない。



「……見つけたらちゃんと謝ろっか?」


「……そうですね」



 とりあえず、どちらが悪いとかの問題でも無いし、見つけ次第揃って頭を下げよう。



「で、結局どうするの? 帰る? ここで待ってる?」


「うーん……わたしはちょっと判断付かないですね、リオナはどう思う?」


「えと、こういう場合は……どうだったかな?」



 アイツの場合、拗ねるとどうだっただろうか、最近そんな姿を見ていないのでちょっと思い出すのに時間が掛かる。



「…………えーと……拗ねた時……拗ねた時? うーん……近いのはアレかな、遊びに行こうって誘ったのに逃げて、中々捕まらなかった時?」


「子供の頃の話? どんな事なのリオナちゃん」


「あ、わたしもちょっと興味あります」


「そんな大した話じゃ無いですけど、えと……子供の頃、この街の近くに狼の群れが他所から流れて来た事があるんですけど」


「へ、狼の群れ?」


「……あったわね、八年ぐらい前だから本当に子供の頃だけど」


「あ、そのぐらい前ですね、それでその狼の群れを、私がどうしても見物したくて、若旦那様を誘ったのですけど、頑なに拒絶されて若旦那様が逃げてお屋敷の周辺の林へ三日三晩隠れていた事が……」


「違う、リオナそれ絶対違う」


「近くない、それ危険を察知しての逃亡だから今と違うよリオナちゃん」


「えっ、そ、そうですか?」



 あの時も泣きながら隠れていたし、近いかなと思ったけれど否定されてしまった。 いや、確かにちょっと違うかなーとは思ったけど。


「……リオナ、その話は結局どうなったんです?」


「えっとね、その見に行こうとしてた狼の群れが、実は向こうからお屋敷の近くにまで移動してきてて、アイ……ごほんっ、若旦那様に襲いかかってる最中に発見したから全部仕留めましたけれど」


「…………えと、何匹?」


「うろ覚えですけど、二十匹ぐらい?」



 だいぶ噛み付かれた状態でアイツを見つけたので頭に来て全力でぶっ飛ばした記憶がある。


 確かけっこう苦戦したと思った。 数が多かったし、なによりまだ子供だったので非力だったし……いや、あの頃でも他の人よりは力があったかも?


 なんで自分だけこんなに力持ちなのか疑問に思った事はけっこうあるけれど、結局分からずじまいのまま現在に至っている。


 まあ、力がある方がなにかと便利なので嫌では無いのだけれど。



「……っと、話が剃れましたね、少なくとも数日はお屋敷に帰らない可能性もありますし、少しだけ待たせて貰ってよろしいでしょうか、モニカさん?」


「…………え、ああうん……好きにしていいわよ」


「……ご主人さま、けっこう苦労してたんですね」


「……そうね」


「い、今は反省してます!! 子供の頃の話ですからね!?」



 流石にあんなお転婆な姿を今でもやっていたら人間として終わっている。 現在はなるべく大人しくしている……はず。 ちゃんと出来てる筈。 たぶん。


 それから、色々と話をしながらあたしとソフィは、モニカさんと共に三人で待つことにしたのだった。




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