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2-7『子供だから恥ずかしくない?』

 


 ◇◆◇リオナ視点◇◆◇




「…………やっぱりジロジロ見られる……」


「うーん……仕方がないと思うけど」



 あたしとソフィはレナータの街を歩いている。 あたしは徒歩で、ソフィはディモティに乗って。


 ソフィは街へ入ると顔を伏せて、恥ずかしそうにしながら馬の背で揺られている。 実際道行く人達からはけっこうな頻度で見られているけれど、正直仕方がないと思う。



「…………わたしは子供わたしは十二歳だから別に変じゃない」


「変には思われてないってば……たぶん」



 ぶつぶつと頬を赤らめながら呟いているソフィだけれど、自分に言い聞かせているようで、それを徹し切れていないらしい。


 今、ソフィは例の初等学院の制服の姿だった。


 ソフィ曰く、こういう場合はホントの子供の方がまだ恥ずかしくない。 との事で、念には念を入れて、普段はなるべく大人っぽく見える髪型にしようと必死なのに、今回は左右に分けて結んだツインテール姿だった。


 ご丁寧にあの鞄も背負っている。 ディモティに吊るしておけば良いのに何故か自分で背負っている。


 確かにいつもの使用人服姿よりは幼く見えるけれど、正直誤差の範囲だった。 普段の背伸びした子供みたいな格好が、年相応の元の姿に戻ったぐらいの印象だった。


 ソフィは絶対に怒るから口にはしないけれど。



「……ホントに変じゃないですか? 笑われてたりしません?」


「変じゃないし笑われてはないわよ……微笑まれてはいるけど」



 こちらへ顔を向けてくる人達の表情は、総じて微笑ましいものを見詰めるような優しい視線だった。 少なくとも嘲笑っているような人は見当たらない。


 それも当然と言えば当然だと思う。 ソフィ本人は、なんとなく小さい事に劣等感を抱いてそうだけれど、パッと見で年齢なんて当てられる人なんてそうそう居ない。


 なので、ソフィは誰がどう見てもまだまだ幼い少女にしか見えない。 しかも女のあたしから見ても可愛い子なので、不快になんかまず思われないだろう。



「もう少し堂々としてて良いと思うけど?」


「……うぅ……で、でも格好が格好ですし」


「……えー……自分で着たくせに……」



 ならなんでそんな格好をしてきたのだろうか。 子供の振りをすれば恥ずかしくないと言ったのはソフィなのだ。



「あてが外れたんです……り、リオナだってこの格好したんだし恥ずかしいのは分かるでしょう……!?」


「なんのことだかわかんない」


「リオナ?」


「あたしはそんなかっこうしたことないよがっこうかよってないもん」


「そ、そう……」



 あたしの背丈で初等学院の制服なんか着る訳が無い。 無いったら無い。 掘り返さないで欲しい。


 だいたいその事で理解を示して貰おうなんてソフィは甘い。


 ソフィは似合ってる。


 あたしは無理があった。



 この違いは大きい。 本当に大きい。



「ソフィは似合ってるから全然変じゃない。 だから恥ずかしがる事ないの、分かった?」


「うっ……いきなり刺々しくなってる……似合ってるからと言っても喜べるかは別なのに……リオナだって、わたしが似合いそうって言った奴は全部頑なに拒絶したでしょう?」


「……ああ、あれね? だってやらしい服しか選ばないんだもんソフィは、あんなの人が着るものじゃないからね?」



 なんで服を着ているのに肩やら胸元やら太ももやらを露出していなきゃいけないのか。


 服の意味が無さすぎて正気を疑う。 馬鹿じゃないだろうか?


 この場合馬鹿なのはソフィではなくて製作者と依頼者だけど。 ソフィが現在着ている物が唯一露出が存在しない服だという事実を鑑みれば、常軌を逸しているのは明白だろう。



「……ご主人さまは着れば喜ぶと思いますよ」


「ぜったいやだ」



 なんであたしがアイツを喜ばせなくちゃならないのだ。 そういうのは他で済ませて貰いたいのだ、あたしは。



「……そんな意地にならなくても良いのに」


「…………」



 別に意地になっている訳ではない。 只のけじめだ。 前回は上手く乗せられてしまったけれど、二度目は無い。 無いったら無い。



 …………と、そんな風に会話をしながら歩いてしばらく。



「……ん、ソフィあそこ、あのお店にたぶん居ると思う」


「あそこが……アレックス商会……」


「うん、アイツのやってる商会」


「……思った以上に立派だ。あの、リオナ、ご主人さまってホントにリオナの言うようにカツカツなんですか?」


「へ、なんで?」


「こんな大きな建物、儲かってないと所有出来ないですし、それに……」


「そうなの? あたしはその辺りよく分からないんだけど」


 アレックス商会の建物の大きさは、あたし達が住んでるお屋敷とだいたい同じくらいで周りに並ぶ他の建物より一回りくらい大きい。

 確かに立派に見えるけど、ちょっと古ぼけてるんだよね。

 当時、アイツは『相場より安い値段のを更に買い叩いてやったぜ! ふははは!』とか言いながら内装を自ら修繕していた。

 あたしも掃除に参加して、あと、何故かモニカさんに漆喰混ぜさせていたっけ。


 お金あるなら、業者さんに頼むよね、そういうの。


「見栄っ張りだし、安くて立派に見える建物ってだけだと思うよ?」


「……そうなの? 確かに古い建物だけど、外から見てもきちんと修繕されてるの分かるし、立地も悪くなさそうなんだけれど……」


 そうは言っても、二年かそこらで貧乏だった所が大金持ちにはならないと思う。お金のやりくりって、大変なのだ。

 書斎でうんうん唸りながらあーでもないこーでもないって書類とにらめっこしてるくらいだし、お金が足りなくて多分大変なのだ。


 そういうのを見ていれば、あたしだって出来る事はしなくちゃと思う。へそくりとか。


「……うぅん……?」


 ソフィはまだ何か考えているけれど、目的地はもうすぐそこなので後から聞いてみる事にする。


 商会の脇に備え付けられた馬用の留場へディモティの手綱を縛り、ソフィを下ろしてあげる。


 その際、またソフィは沈んだ表情をしていたのだけど、自力で降りようとするソフィは鐙に足が届いていなかったので転落しそうだったし仕方がない。



 ぽつりと「身長が欲しいです」と言われてもどうしようも無いのだ。 渡せるのならあたしだって渡したい、頭ひとつ分ぐらい渡せれば、たぶんふたり共丁度良い高さになれる。


 それから、商会の中へとお邪魔して、あたしとソフィは雇い主の姿を探すのだったが……。



「……あら? リオナちゃんと……えーと、ソフィアちゃん?」



 店内に居たのは、モニカさんだけで、アイツの姿は見当たらなかった。



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