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2-6『おっさんと機械仕掛けの嫁』

 


「…………ったくよぉ、勘弁してくれ」


「だから謝ってんだろ? 悪かったって会長、服貸してやったんだからもう良いだろ?」


「……この服、臭い気がするんだが洗ったのいつだ」


「二ヶ月前」


「ざっけんな着れるかぁ!!」



 ジェイワットの工房で試作蒸気機関の試運転に付き合い、その結果爆発に巻き込まれた俺は見事にズタボロになっていた。


 いや、正確には着ていた服が雑巾にすら出来ないレベルでボロボロになっただけで身体の方はなんとか無事なんだが。 多少焦げたがな。


 で、そんな状態の服なんか着てられないのでジェイワットに服を催促したら汗と加齢臭が凄まじい汚物を手渡されたので叩き返した所である。


 何が悲しくて四十路のおっさんの数ヶ月も着用したままの物を放置して出来上がった汚物を身に纏わねばならんのか。 裸の方がまだマシである。



「ワガママな坊っちゃんだなおい。 仕方がねえ、これで我慢しろよ」


「……ホコリ避けのただの布かよ、まあ良い他に選択肢が無い」



 ジェイワットのおっさんが何かに被せていた布を取り払って、俺に渡して来たので受け取り、それを身体に身に付ける。


 怪人裸マントだよ。 バレたら一発で憲兵さんに連行されるよ。



「……ん? おっさん、この布が被せてあったそれ、なんだ?」


「ああ、これか?」



 布を取り払って姿を現した物に、俺は興味を惹かれて質問する。



「これはな、“自動人形(オートマータ)”だ」


「……オートマータ? なんだそりゃ?」



 自動人形(オートマータ)と呼ばれたそれは、小柄な人間ほどの大きさをしている人形のようだった。

 陶器か何かで造られた顔を持ち、頭にはカツラを被せ、胴体や四肢もパーツごとに別れてはいるものの、人間と同様の場所に関節を持っていて、只の人形にしては仰々しい。



「ずいぶん細かいな、なんだよおっさん良いの作ってんじゃんこれ売れるぜ?」


「売らねえよ、彼女は俺の嫁だぞ」


「は?」



 ここまで精密な造りの人形なんてもちろん見たこと無い。 なので製造基盤さえ確保すれば貴族や商人のご令嬢辺りに売り込めると思ったのだが、当の製作者であろうジェイワットのおっさんは訳のわからない事を言い出した。



「彼女はな、最高に俺好みの、完璧な乙女として造り始めた娘だ。 娘を売りに出すような外道な真似……どうして出来る?」


「いや、人形じゃん」


「今は外装しか組み上げていないが、彼女はやがてその身体に機械仕掛けの魂を宿し動き出す。 蒸気機関の改良もその手段のひとつだ。 血と肉で動き、やがて劣化して醜くなってしまう人間の女とは違う…………鉄と油、蒸気と炎によって駆動する彼女は、老いる事も無い“永遠の少女”として存在し続ける」


「おーい」


「……人間……ああ、人間の女という存在はなんて不完全な存在なのか、経年劣化するわ暴虐で乱暴だわ口を開けば不快な事しか言わないわ他所の男に簡単に股開くわ、挙げ句の果てに俺のコツコツ貯めてた財産かっぱらって娘ごと男と駆け落ちして何処に行ったかわかんねえわ…………そんな劣等な存在なんかもう要らん。 俺はこの自動人形を完成させて、彼女と添い遂げるんだ……なあ、ロゼッタ……速く動けるようにしてやるからな?」


「…………」



 やべえよこのおっさん、目がイっちゃってるよ。 言ってる事も意味不明だし。



「……いや、人形が動く訳ないじゃん……おっさんが可哀想なおっさんなのは分かったけどさ」


「会長は素人だからそう思うんだよ、技術の発展によってどんどん不可能とされていた事が実現可能になっているんだぜ? 只の人形に魂を宿す程度、出来なくてどうする?」


「いや、けっこう厳しい所じゃないかそれ……」


「そうでも無い、前例だってあるんだしな」


「前例? 動く人形があったって事か?」


「ああ、大昔の魔法文化時代の話だがな、魔動人形(ゴーレム)という人形が存在したんだよ」


「………………おとぎ話じゃねーか」



 何を言い出すかと思えば、眉唾物の魔法文化時代の話と来た。 確かに文献や物的証拠とされる、当時の物品は様々な所に遺されてはいるのだが、それが魔法が実在した物とする根拠になるのかと言えば賛否両論である。


 そして俺は否定的な考えを持っている側の人間なのだ。 だいたいかつての魔法道具(マジックアイテム)とか言われても、動かし方すら分からんガラクタにしか見えないのだ。

 お茶会用のポットなのに水が入れられないとか、油の要らないランプと言いつつ只の水晶を加工した棒だったり。



「詳しい原因は不明だが……なんだ、一説にはかつての魔王が、世界に満ちる魔法を扱う為の力を司っていたとかで、その魔王が勇者によって討伐された事によって人々から魔法が失われたと言う説が有力だな」


「その勇者と魔王の話それ自体が眉唾物って言ってんだがね……それで、その魔法が無ければゴーレムとやらも動かせないんだろ?」


「ま、その通りなんだが……今の技術発展は本来、昔は魔法で簡単に出来ていた事を魔法無しでどうにか出来るようにしたいって創意工夫が発端だ。 なら、魔動人形(ゴーレム)の新たな姿である自動人形(オートマータ)もやがては稼働させられる。 そうだろう?」


「…………そんなインチキ錬金術師みたいな事言っても追加予算は蒸気機関の組み上げ分しか出さないからな?」


「…………チッ……!!」



 なんか目が予算くれって訴えてたので釘を刺しておいた。 誰が人形偏愛者(ピグマリオンコンプレックス)の変態へ嫁製作の資金などくれてやるかよ。 売り出して良いなら渡しても良いけどそのつもりも無し。 舐めてんのか。



「……とりあえず人形遊びはほどほどにしておいてくれよ、おっさん。 とっとと蒸気機関完成させてくれ」


「分かってるよ会長……なあロゼッタ、いちいち言わなくて良いのになー?」


「…………」



 人形に話し掛けながら頬擦りしているおっさんを他所に、俺はジェイワットの工房を後にした。


 ……木彫りのクマさんに語りかけるのはもう辞めよう。 おっさんを見て理解したが、あれはちょっと気持ち悪過ぎた。




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