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2-4『傷心の酔っぱらい』

 


 ◇◆◇モニカ視点◇◆◇




「…………」


「…………うィ……あァクソ、やってらんねぇぇぇぇぇぇぇ……!!」



 今朝、私が商会へと到着した時、何故かアレクが私の定位置となっている席でお酒を呑んでくだを巻いていた。


 濁りきって荒んだ眼を何処に向けるでも無くさ迷わせて、度数のキツイお酒を煽っている姿は完全にダメ人間だった。


 何があったのだろうか、一体。



「……アレク?」


「あ"ァ?」


「……い、いや、そこ私の席……」


「……チッ……!! あンだよ邪魔ってェの? そーかよそら悪ゥございやしたねェ……うィ……」


「……なんで朝からお酒呑んでんのよ……やること終わってるの?」


「ぜんぜん終わってませェン」


「はあ!? 急ぎだって言ったのに!!」


「……チッ!! あーウルセエ、なンで女ってェのはこォぴーすかウルセエんかねェ…………ハッ、おっぱいぐらいしか取り柄ねークセによー!!」


「なっ……」


「女なんかクソだね!! みんなして酷い事言いやがって………………うぇぇ……」


「……今度は泣き出したし」



 どうもアレクは情緒不安定になっているらしい。 察するに女の子……まあリオナちゃんとソフィアちゃんだろうけど、悪口でも言われたんじゃなかろうか。



「……というか、お酒呑むなら酒場か自分の屋敷で呑みなさいよ」


「…………チッ」



 アレクはよろけながら立ち上がり席を空ける。 そもそもなんで私の席で呑んだくれているのか。


 とりあえず慰めるにしても、私がやると酔っ払いに絡まれて仕事にならなくなると思うので放置する事にした。



「まったく……」



 使い物ならない代表の仕事を肩代わりすべく、書類に目を通していく。 アレク自らが確認すべき事案だからアレクへ受け渡したのに結局これである。


 今日からはアレクが戻ってきたので、必要最低限の仕事だけやっていれば平気な久しく訪れていない暇な事を楽しめる一日になると思ったのに。


 定期的に行っている奴隷の買い付けと、解放、送還もしくは雇用に掛かる必要経費の予算確認とか、前回解放したソフィちゃんと同郷の、他所へ雇って貰った人達のその後の動向とかその辺りは何故かチェックが入っている。

 私が保管していた方の書類なのでアレクが持って来た物ではない。



「…………やさぐれててもその辺り“だけ”はこなすのね」



 サインが歪んでいるので酒瓶片手に仕事していたのがありありと分かる。

 出来ればこれらより通常業務の報告書の確認と、取り扱い品の市場価格の変動状況に目を通して貰いたかった。 この辺りは私が勝手をするといざというとき責任が持てないし。



「…………やっぱり私じゃ手を付けらんない……ねえアレク、なんとか頑張ってこれ処理して……」



「──ねえクマさん聞いて? 酷いよな、リオナの奴さ、ソフィの前だとお澄まし口調しないんだぜ? 俺の前じゃ未だにあのちっとも似合わねえ棒口調なクセにソフィとはふっつうぅに喋ってンだぜ? ズルくない? ズルくない? ねえクマさんもそう思わない?」



「………………」



 アレクは、商会のロビーの片隅に置いてある熊の彫刻像にすがりつきながら、べろんべろんになりつつ愚痴っていた。


 詳しくは知らないが、何処かの国の民芸品らしい。 丸太から削り出した木製の熊で、小麦袋ひとつ分ぐらいの、力が無いと抱えるのも苦労しそうな大きさがある彫像だ。 口に魚をくわえているのが妙に味わい深い。


 なんでもアレクがひとりで成り上がろうと精進していた時に、一目惚れして購入した物らしい。


 理由を聞いてみた事があるが『怒った時の目付きにそっくりだったから』とか言っていたのを覚えている。 はっきり言って本人に言ったら絶対怒ると思うし失礼だと思う。



「さみしぃよぉつらいよぉ……うィ……嫌われたらしんじゃうよぉ……あ、もう嫌われてるのか、そうかそうか……」


「…………」


「え、なんだって? 何かの間違いに決まってるって言うのかいクマさん? でもクマさん俺死ねとか論外とか言われたんだよ? だからヤケ酒してるんだよ? うぃ……クマさんだってその口にくわえたシャケに逃げられたら泣いちゃうでしょ?」


「…………」


「え? 俺は木彫りだからこのシャケとはずっと一緒だって? ………なんだよぉ!! 相思相愛かよふざけんなよバカァ!! 俺がこんなにも傷付いてるって言うのに絶対に離れたりしないぜとか見せつけるっていうのかよ元丸太のクセにさぁ!! うっぷ……おろろろろろろ……」


「……ちょっと吐くな!? あなた掃除しないんだからいやああああああ!?」



 ……ホントに無いわ、なんでこう定期的に目の前でリバースされなければならないのか。


 コイツわざと嫌がらせしてるんじゃ無かろうか。




 ◇◆◇リオナ視点◇◆◇




「…………言い合ってる内にアイツ、どっか行っちゃったわね……」


「…………ですね」



 お昼前になってようやくにらみ合いを中断したあたしとソフィは、お互いすっかり忘れてしまっていた食事の用意とか諸々が滞ってしまったのを謝る為にアイツを探して屋敷の中を歩いていたのだが、結局何処にも見当たらず途方に暮れていた。



 ……なにやってんだあたし。 怠慢にも程がある。



「…………ど、何処へ行っちゃったんですかね?」


「……んー……たぶん商会だと思うけど」


「お仕事……ですか」



 ソフィは先程までのムキになった態度とは全然違う、不安そうな表情をしている。 たぶん、何も言わずに外出されたのに対してちょっとした怖さを感じているのかもしれない。 あたしにも少しだけ気持ちは分かる。


 とはいえ、無断での外出をするときは遠出は絶対しないのはこちらは分かっているし、ソフィのようにおろおろはしないけれど。



「心配しなくてもすぐに帰ってくると思うわよ?」


「……で、でも、その、何も言わずに出掛けた理由とかを考えると……」


「理由?」


「わたしたちが口喧嘩しているの見て……かなぁと……」


「……あー」



 確かにソフィの言う通り、きっかけが無ければいきなり居なくなったりはしない。


 端からあの言い争いをみたら、アイツの悪口言いまくって貶しながら、お互い押し付けようとしている風に見えるだろう。


 あたしはともかくソフィにけちょんけちょんに言われたのはショックだったかも。 あたしの場合は今更だろう。


 アイツに対しては昔から事ある毎に暴言吐いてたし。



「気になるなら迎えに行けば? たぶん喜ぶと思うわよ」


「……むっ、それはリオナがするべき事だと思うけど」


「嫌よ、なんであたしが」


「わたしだって嫌です」


「…………」


「…………」



 ソフィはホントに頑固な子だった。 故郷へ一度戻る前まではこんな口喧嘩なんか絶対しなさそうな子だったのに。


 このままではまた口喧嘩になって、せっかく中断したのにまたすぐに再開したら仕事が手に付かなくて何も出来なくなってしまう。

 それはいただけない、使用人としてのお仕事だけはちゃんとやってきたのに、それまで出来なくなって不要とされたら行く宛などないのだ。 それは困る。



「…………いい加減止めましょうか。 平行線だし不毛な気がするし」



 ただ、ソフィも似たような気持ちだったらしく、言い争いについては終わりにしたいと言って来た。



「……分かってるわよ」



 釈然としないが、仕方がない。 なんで遠慮するなと言ってケンカになるのかちっともわからない。 でもこのままじゃ徹底的に争う事になりそうだし。



「でも、ご主人さまはどうしましょう?」


「放っておいても大丈夫だとは思うけど、迎えに行きたいなら……じゃなくて、これだとまたケンカになるか……えと、行ったと思う場所は分かるから一緒に様子見てくる?」


「えと……それは……」


「朝食取ってないだろうし、お昼になっちゃうけどお弁当でも作ってね?」


「わかりました、一緒に行くなら」



 表情をコロコロ変えながらソフィは頷いた。 何を考えているかまではわからないし、気にしだすとまたにらみ合いが始まりそうだしその辺りを気にするのは止めておこう。


 あたしとソフィはとりあえず、簡単にだけれどお弁当となる料理を二人で作って、それから外出する事にした。



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