2-2『ソフィア陥落』
◇◆◇ソフィ視点◇◆◇
昨晩はやらかしました。
はい、バカな事を言い出したと思っています。 ものすごく後悔中です。
一応、言い訳をすると昨晩言った事は全部本音です。 いやな子だなとは思ったんですけど止まりませんでした。
………えーと、まずは、わたしがどうしてあんな事を言い出したのか、その経緯を話さなくちゃダメですよね。
はっきり言いますけど、フォレスタへの行き道までは、ちょっと良い人だけど変な人ぐらいにしか思っていませんでした。
そもそもあの人……じゃない、ご主人さまと呼んでおきましょう。 ご主人さまのあの奇っ怪な行動、あれは笑わせようとわざとしてるんじゃ? と疑ってもいました。
わたしの事情を察していたから無理にでも楽しく過ごしているように見せていたのだと、そんな風に捉えていました。 ぜんぜん笑えなかったですけどね。
そんな訳ですから、そんな変な人に好意を向けられても困るというか、不気味というか。 まあ、わたし自身に恋愛感情が芽生えるなんてあり得ないと断じていました。
……でも、はい、間違ってました、ごめんなさい。
…………その、好きになっちゃいました。
きっかけとしては、不謹慎かもしれないんですけど、お父さんとお母さんのお墓の前のやり取りの時です。
あの時は悲しむ事だけで、もう胸がいっぱいだったんですけど……その、この人は本当にわたしの事を守ろうとしているんだなって感じて、あの王子さまに向かって行ってる姿を見て、頼りたくて仕方がなくなってしまったんだと、帰り道で気付きました。
他に頼れる人が居なかったとか、辛くて悲しくてどうしようもないから、守ってくれるって言った人にすがろうとしたと言うのも、間違ってません。
共依存、もしくは共嗜癖と呼ばれるものの準備状態ってやつですね。
わたしはご主人さまに心身共に依存しようとして、ご主人さまが“わたしを守る”と言った言葉を盾に、そしてわたしの事情を盾に、わたしへと依存させようとしたわけです。
最初は、きっと帰りの道中に迫ってくると思って、ただ側に居ただけでした。 でも、何もされませんでした。
……いえ、何もじゃないですね。 わたしを常に気遣ってくれていたのは分かっていました。
例えば、道中の食事なんかは、わたし、最初は口にしようとしなかったんですけど。 食べない事に腹を立てるでもなく、絶対に食べないつもりなのだと理解する時間まで待ってから、わたしへ『食べろ、命令だ』と、辛そうな顔で言ってくるんです。
たぶん、強制するような事を言うのは嫌だったんだと思います。 でも、わたしがぐずっているのを見かねて、仕方なしに命令と言う形を取って、わたしの事を案じてくれたのでしょう。
他にも、宿に泊まる時は、ご主人さまは御者をしていて疲れている筈なのに、わたしが眠りにつくまで傍らで椅子に座っていたり。 それで朝までそのまま、椅子の上で仮眠を取るだけで過ごしていたり。
他にも数えればきりがない程、わたしは丁寧に扱われていました。 どっちが奴隷なのか、分からなくなるぐらいです。
……だからでしょうかね? ちょっと納得も行ってませんでした。 その、そんなに好きなら、その、どうして自分から来てくれないのかって……。
あれなのかな、あの王子さまが去り際に余計な事を言ってたから、それで意固地になってるのかなとも、考えてたんですけど。
……はい、結局はご主人さまの方が上手だったんですよね。 察していたかどうかまではわからないけれど、拒まれちゃった訳だし。
その拒んだ理由も、やっぱりわたしの為で。
あのまま抱かれていたら、たぶん、依存はしても好きにはなっていなかったと思います。
ご主人さまが守りたいのは、わたしの命ではなくて、生きる道とか、幸せとかそういう物を指しているのだと気付かされました。
……で、やられました。
完敗? いや勝負してた訳じゃないけど落とされました。
気付いたら抱き付いてました。 あれ、無意識です。 別の意味で抱き締められたくてしょうがなくなって、気付いたらシャツに涙とか鼻水付けてました。
「………………う、うぅぅ……!!」
思い出しただけで顔が熱くて死にそうです。 たぶん今、わたしの顔は真っ赤なりんごみたいになってます。 熱過ぎて頭がのぼせるぐらいです。
抱き付いて、愚痴っぽく色々言っちゃって、それに疲れていつの間にか眠っちゃっていたわたしは、あの後ご主人さまのお部屋へ連れられて行ったみたいです。 朝起きたらそこで眠っていたので。
ご主人さまはフォレスタへの道中のように椅子に座って眠っていました。 お仕事しなくちゃいけない筈だったのに、傍らに付いていてくれてたようです。
リオナの所へ連れて行かなかったのは、リオナが眠っているからそれに配慮したのかな?
そんな訳で、わたしはご主人さまと朝までずっと一緒にいた訳です。 はっきりと自分の気持ちを理解した上で、ずっといました。
……恥ずかしくなって、ご主人さまが起きる前に逃げました。 それからリオナの部屋へ戻って、まだ起床時間では無かったからそっとしておいて、わたしは使用人服に着替えてから調理場へ来ました。
「……う、あぅぅ……」
そこでずっと、頭を抱えて唸ってます。 現在進行形で。
無理。 こんな気持ちで普通に接して行くとか無理です。
……よくリオナ、あそこまで普通っぽく接してられるよね、変な子とか思ってごめんなさい。 至って普通の……いや、かなり精神力高いかも。
この歳まで人に恋愛感情を抱いた事、無かったけど、まともに動ける気がしないです。
「…………初恋……うぅ……」
そうです初恋なんですわたし、遅いですよね。 でも今までいいなって思った人が居なかったから。
……でも、初めて好きになった人が変な人なんだよね。 意外過ぎる。 失礼だけどあり得ないと思っていた訳ですし……。
「…………でも、どうしよう……」
変な人だという以外にも問題はある。
「……わたし、邪魔者なのにな」
ご主人さまには既にリオナが居る。 本人達がどう思ってあんな微妙な関係でいるのかは知らないけれど、誰がどう見ても相思相愛なのに、そこにわたしが入り込む?
「……………………ない、なぁ……はぁ……」
あり得ない。 そんな泥棒のような真似する訳には行かない。
…………その気持ちは、わたしが昂らせていた感情を急激に冷めさせるには十分な物で。
昨晩はそこまで考えが至らず、蛮行に走っちゃったけれど、冷静な判断が下せる状態でならはっきりと言える。 あり得ない。
「…………はぁ……」
昨晩までの沈んだ気分は、現金なもので消し飛んでしまっている。 それくらいの衝撃がその……恋というのにはあった。
勿論、お父さん達がもう居ない事は今も悲しくて、辛いけれど。 ずっと泣きっ面をしているのはお父さん達も望まないだろう。
そのくらいには考えられるように気持ちを浮かび上がらせられた。
……上がり過ぎて変になりそうだったけれど。
「……それはもういいよ、とにかく、ダメダメ絶対ダメ、あり得ない」
「なにが?」
「ひぅ!?」
突然、背後から声を掛けられびくりと身体が跳ねる。 驚いたまま振り返るとそこには、リオナが少し赤い顔をして立っていた。
「おはよう、寝坊しちゃってゴメン」
「え、寝坊?」
リオナの寝坊という言葉に疑問を感じて、調理場に備え付けられた時計を見てみる。 すると、既に朝食なんかとっくに終わっているはずの時間となっていた。
…………かなりの時間、身悶えていたらしい。 まさか時間が分からなくなる程だとは……。
「も、もうこんな時間……!? り、リオナごめんなさいぼーっとしててまだ何も……」
「いいよ、あたしも寝坊だもん。 それより」
「……はい?」
赤いままの頬で顔をそっぽ向かせるリオナは、詰まりそうになった息をゆっくりと吐いてから、言って来ました。
「あたしの事、気にしなくて良いからね、アイツとそういう仲になったとしても、あたしは応援するから」
「……………はい?」
……ああもう、なんでそんな表情とは真逆の事言うのかなこの子?
わたしも、人の事言えないけど。
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まだ本編には未登場のキャラが主役ですが、興味あればご覧下さい。 ブックマークと評価、感想等付けて貰えると嬉しいです。




