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売られてた奴隷少女にガチ惚れして衝動買いしてしまった  作者: しょー
1章『青年商人と奴隷の少女とメイドさん』
13/46

1-10『うそつき』

 



「さて、話をするにも実は私もよく分かっておらんのだ、ただ我が妹に小間使いにされたようなものなのでな、はっはっはっ!!」



 応接間にて、リュカ王子と対面しながら話を始める。 本来ならば給仕を置いてお茶をもてなしながら対応するべき御方なのだが、その辺りはまるで気にしない方らしい。



「妹? ルクレティナ王女殿下ですか」


「うむ、我が妹が言うには『にいさまは普段から国中をふらふらして、バカな事をしているから逆に誰にも怪しまれず堂々と交渉してこれる、バカだから』と二度もバカ呼ばわりされたが、我が妹が言う通り堂々とそなたに会いにこれた、流石我が妹だな」



 この王子さまの実妹であるルクレティナ王女は、滅多に民衆には姿を見せない。

 どんな方なのかもあまり知られていないので、俺でも詳しくは知らないが、察するにけっこう頭の切れる方なのかも知れない。 あと、確か歳は十五か十六だったはず。



「………じゃあ、ちょっと失礼して」



 渡された書簡の封を切り、中身を改める。


 王族が扱うから当然と言うべきなのか、紙は真っ白な書面のあちらこちらに金糸があつらわれた高級感溢れる一品で、これ一枚で確か、金貨三枚分ぐらいの価値があったはず。

 俺のような庶民なら、正式な書類でもこんな高級品は使わないけど、高貴な身分だとそうもいかんのだろう。



「なんと書いてあるのだ?」


「……内容、これっぽっちも把握してないんすか王子……」


「いかにも」



 それで良いのか王子殿下。 ホントにパシリじゃないかそれじゃ。



「…………まあいいか、えーと?」



 俺は開封した書面に眼を走らせる。


 王女殿下の直筆と思われる文字は妙にまるまっちい女の子してる字面だったのだが、内容的には余計な世辞なんかは一切排除した、簡潔で分かりやすい文章だった。


 高貴な身分の方の書面の書き方ではないね、これ。



「………………」


「読み終えたら返事を貰ってこいと言われているのだが、どうなのだ我が友よ?」


「……少し質問します。 王子殿下達は何をなさるつもりで?」


「それは了承を得てから話せと言われている質問だな、すまぬ」


「そうですか」



 王女殿下の手紙の内容は、簡単に説明すると出資者(パトロン)になってくれという嘆願書だ。


 物質の手配。 資金の供給に信頼の置ける人員の起用……王位継承権高位者がまさかとは思うが、キナ臭い案件である。



「…………」


「して、返事は?」


「…………お断りします、リスクが大きすぎて身を滅ぼしかねないので」



 ……多分、俺ひとりならば乗っていただろう。 でも、俺には守らなくてはいけない人が居る。


 率先して危険に身を晒すなど言語道断だ。 心情的には……いや、まだ出会ったばかりの人間を、この王子殿下を信用する訳にも行かない。


 変人で善人な気もするが、判断するには出会ってからの時間が僅か過ぎるしな。



「そうか、我が妹が予測を外すとは珍しいが、仕方がない事ではある」


「ひとつ聞きます、どうして俺の事を?」



 拍子抜けするほどあっさり引いた王子に聞いてみる。 正直、出資者なら他に有力な商人なんぞ幾らでもいるだろうに。



「……む? そなた、割りと有名なのを自覚しておらぬのか? ここ数年商人達の注目の的だと聞いたのだが」


「…………そうですか」



 俺が聞きたいのは、自身の知名度ではなくて、何故わざわざ若輩である俺を訪ねて来たのかなのだけどな。


 キナ臭い案件に喜んで手を貸しそうな連中なんざ、非貴族中層階級者達(ブルジョワジー)の中には大量に居るだろう。


 この国は未だに絶対君主制の上で成り立っている国だが、世界的に見れば資本経済を盾に、民主制統治へ移行しつつあるのが今の世界情勢だ。


 どんな理由かは推測しか出来ないが、この兄妹殿下達はこの国でもそれをしようとしているのかも知れない。




 つまり、革命だ。




 首を突っ込むには命懸けになるはずで、そんなもんは俺としては許容出来ない。



「──でだ、我が妹に聞いた事だが、見事な才覚で物流、金銀の為替など、あらゆる事で確実に利益を出し、若輩ながらにして大商人として頭角を表した秀才……そして」


「……利益の大半を奴隷の解放なんて事に使っている変わり者、って事まで?」


「うむ、そう聞いている、違わぬな?」


「…………はい、俺の事です」



 だいぶ入念に俺の事は調べたらしい。 まあ、稼いだ金を妙な道楽に使っている馬鹿だと揶揄される事は多々あるから、巡り巡って王子達の耳にも届いたのだろう。



「ふむ、何故そのような事を?」


「理由までは、すいません」


「明かせぬ理由があるのか」


「……何かを企んでいるという訳ではありませんけれどね」


「そうか、ならば聞くまい……下手に聞こうとしてせっかく出来た友と不和を起こす事は、私も本意では無い」



 優しげに笑う王子。 物腰の柔らかさと良い、何から何までこの人は信用に値すると俺の勘は言っているが、それとこれとは話は別だ。



「申し訳ありません、直々にいらっしゃって下さったにも関わらず」


「構わぬと言っておるだろうに? 元々無理強いは出来ぬ事だ」



 あまり屈託の無いイケメンスマイルを向けるのはやめて欲しい。 劣等感から発せられる卑屈な感情が…………あれ、出てこない。


 くそぅ、真のイケメンを目の当たりにすると嫉妬なんかの暗い感情すら吹き飛んでしまうというのか。 悔し……くない、なんなのもうっ。


 それはともかく、話は俺がお断りを入れたのでそれで終わりなのだが、まだ聞きたい事があるのだ。



「………ちょっと聞きたいことが」


「うむ?」


「王子は先程、ソフィちゃんに国の事を聞いていましたよね?」


「聞いたな」


「その訳をお聞きしたいのですが」


「単なる確認に過ぎんよ、かの国から連れて来られた者達をまとめて破格で購入していった者が、そなたかどうかのな」


「……そうですか」


「…………ふむ、どうやらあの娘の国がどうなったのか、聞きたいようだが違うか?」


「それは……はい、その通りです」


「ならば語るとしよう、少々長くなるがな」



 リュカ王子はソフィちゃんの祖国、フォレスタの結末を知っている。 俺がついに今まで避けていた事を。


 俺は、確信はしていても確認はしていない。 するのが怖かったのもあるが、知れば、ソフィちゃんに伝えなくてはいけない義務が発生する。

 いや、本当はすぐに確認して、万が一かもしれないが、望みがある可能性を信じて動かなくてはいけなかった事なのだ。


 ただ、知れば隠し通す自信が無かった。 それだけで俺は、逃げの一手を選択してしまった。


 ソフィちゃんに惚れた云々言っている割には、それは不誠実に過ぎるだろう。 機会が訪れたのなら、逃げ回らずに聞いておくべきだ。


 これからもソフィちゃんを守る。 幸せにしてやりたいと願うなら、全てを知って、その上で嘘を付いてでも、哀しい事から遠ざけ続けなくてはいけない。



「まず初めに確認するが……我が父、現在の国王についてどう思っている?」


「国王、ですか……政治に優れた名君だと思っていますが」


「間違ってはおらんな、我が父は優れた為政者であり、事実民の暮らしは安定し、我が国の国力はこの大陸随一と言える……だが」


「………」


「我が父は名君ではあるが、同時に暴君でもある」



 王子は続ける。



「我が国がこうも安定し、力がある理由は、他国へ常に攻め入り、人々を奴隷として狩りたてているからだ。 労働力はもとより、戦奴としての捨て駒として」


「……知っています」



 この国、ファーン王国は非常に安定した暮らしが出来ている。


 税は安く、食料は安定して生産され、軍事は強大。 治安だって、他所の国と比べれば天と地の差がある。


 他のどの国よりも整備された街の数々。

 発展し続ける技術。

 貴族は暴虐な行いを国民(・・)には行わず、各領地には名主と唄われる者達。

 平民も最低限以上の暮らしが保証され、路頭に迷う者などほとんど居ない。


 働かなくとも生きていける、と言うほど甘くも無いが民衆の暮らしは平穏で平和だと言えるだろう。





 それらは全て、奴隷達の酷使の上に築かれている。




 自分も、この国の民である以上、それを享受している者のひとりだ。


 何故、奴隷嫌いの俺が、そんな国にまだ居るのかって?


 理由は簡単だ、どんなに嫌でも攻め滅ぼされる(・・・・・・・)側に俺は行きたくなかったからだ。 つまり、安全の為と言える。


 ……最低か? 何とでも言えばいい。



 …………王子の話は続く。



「あの娘の故郷、森と湖に囲まれた美しい土地だったそうだが、今はもう存在せぬ」


「………」


「半月ほど前に、我が父が派兵した軍と同行した奴隷商どもに蹂躙され、若く労働力になりうる男女はこの国へ奴隷として連れて来られた、あの娘はその一人だ」


「……………」







 ◇◆◇ソフィ視点◇◆◇





 わたしが奴隷となってから、半月ほどの時間が経ちました。


 最初はどうなるのかなって、すごく怖くて、連れてこられたお屋敷でも怒られないように、痛い思いをしないように、殺されてしまわないようにと、泣きそうになってしまうのを堪えて、我慢して過ごしました。


 私を捕まえた奴隷狩りの人達は恐ろしい人達でした。 人を人とも思わないような、ただ、道具を拾うように、玩具をもてあそぶように人を捕まえて集めていくんです。


 その最中に壊された人を見ました。 わたしより年下の男の子でした。


 檻付きの馬車に閉じ込められた後、一度閉じ込めたのに、外へ連れていかれた年上の女の人がいました。その次の日の朝、遠くの草むらで動かなくなっていました。


 隙を見て、逃げ出そうとした男の人と、その恋人らしい女の人がいました。 女の人の前で、男の人の胸に剣や槍が突き入れられました。 女の人の方は言いたくありません。


 どうしてこんなひどい事ができるの? わたしはそう考えながら、自分の腕をあの人達が取らないように、両手を掴んでなるべく目立たないように、小さくうずくまって過ごしました。



 それから何日か馬車に揺られて、大きな街の中へと進んで行きました。


 わたしが暮らしていた国を、フォレスタという国を壊した人達の街です。


 賑やかで、綺麗な街でした。 そこに住む人達も、なんだか幸せそうです。


 わたし達が住んでいた国は平気で壊したのに、幸せそうでした。


 石畳が敷き詰められた道を、わたしが乗せられた檻が進んで行きます。 その途中でひとりの男の人と目が合いました。


 嫌な物を見たような、悲しそうな瞳をした、女の子っぽい顔付きの人です。


 それからすぐに馬車が止まりました。 そして、乗っていた人達を降ろして、行ってしまいました。


 さっき目が合った男の人が、自分達を買ったと言いました。




 その人が、わたしのご主人さまになりました。



 ご主人さまは変な人でした。 変な動きをよくするし、変な事を言い出すし、とにかく変でした。


 名前はアレクシスと言うそうです。 名前は素敵な人だと思います。 何処かの国の意味で人々の庇護者? とか言う意味だったと思います。 正直、名前負けしてるという印象しかありませんでしたけど、そこは内緒で。


 ご主人さまのお屋敷には、メイドさんのリオナという同い年の女の子が働いていました。


 第一印象はすっごい美人のお姉さん。 でも、素直じゃない子だってすぐに気付きました。

 一緒に住んでいて、ずっと一緒に居るのに、絶対ご主人さまの事好きなのに、絶対それを認めないんです。 あと、すごい力持ちでかぼちゃを素手で粉々にしていました。 やっぱり変な子です。


 リオナという名前の意味は、確か、雌ライオンって意味だったような……イメージぴったり過ぎてちょっと可笑しかったのは内緒です。

 ご主人さまは、子供の頃リオナをゴリラって言っていじめてたらしいです。ちょっとひどい。



 二人とも変な人でしたけれど、それ以上に優しい人達でした。


 ご主人さまの方は、詳しく教えて貰った訳ではないですけど、奴隷を奴隷として扱うのが大嫌いで、ひどい真似をする人が許せない人のようでした。

 たぶん合っていると思います。 そうじゃなければ、わたしは既に弄ばれているはずだからそのぐらいは分かります。


 リオナ曰く、ご主人さまは変態さんらしいですし、わたしを見る目付きが、かなり危ない人の時もあるので間違ってないと思います。


 ちなみにご主人さまは、リオナにも同じ目付きをいつも向けていますけど、リオナ本人は気付いてないっぽいです。 お互いに鈍感で素直じゃないらしいので、めんどくさくて変な人達です。


 でも、居心地はそんなに悪くはないです。 優しくして貰えていますし。 たぶん、ここに居れば、とりあえず怖い思いをする事だけはなさそうですし。


 それに、ご主人さまはわたしを買った時に言いました。 お父さんとお母さんを探すにも、まずはお金が必要だろうって。

 間違っていないと思います。 だって、どれほど探すのに時間が掛かるのか、分からないのですから、準備する期間は必要です。


 わたしは何も持たずに連れて来られたから、ちょっと大変でしょうけど、いつか、また何処かでお父さん達と暮らせるように、今は頑張らなくちゃいけないから。



「…………」


「………やっぱり気になる?」



 ご主人さまが、突然現れた白馬に乗った変態さ……王子さまを連れて応接室で話し合いをしている最中、リオナはわたしに気遣うように声を掛けてきました。



「いえ、大丈夫です」



 嘘です。 気にならない訳がない。


 自分の故郷の話なのに、除け者にされているという思いがどんどん広がって、どうにかなってしまいそうなほどです。


「……そうなの?」


「はい、それよりお仕事戻らないと」


「え、ああうん、そうね……」



 ご主人さまは応接室に近付くなと言いました。 でも、わたしは隠し事をされているのは嫌でした。


 ご主人さまは変な人だけれど、優しい人です。 だから、わたしの両親を探してくれている。 そう思っています。


 あの時、わたしははっきりと言いました。 両親は生きていると。 ご主人さまはそれに納得して頷いたんです。


 だから、きっと探して貰えている。 そう考えていました。


 見た目的に幼い子供に見えたから、と言うのもあるでしょうけど、他の連れて来られた人達とは別に、わたしだけをお屋敷に連れて来たのは、たぶん、そういう事だからと信じる事にしたからわたしは逃げたりもしないで、ここに居るのだから。



「……………………」


「えーと、それじゃソフィ、あたしは食事の準備しておくから、あなたはこのまま庭のお掃除続けてね?」


「はいっ、なるべく早く終わらせて、そっちのお手伝いに向かいますね?」


「うん、お願い……えと、ソフィ?」


「なんですか?」


「機嫌良さそうだけど、何かあったっけ?」


「……?……そうですか? 特に何もないですけど」


「いや、なんか笑ってるから」


「……ああ、そういう事ですか、別に何もないです。 ただ、沈んだ顔しているよりは良いので」


「……えと、そう? まあそっか、そうかもね」


「はい、リオナもご主人さまの前で笑ってた方が良いですよ?」


「そ、それは今関係ないじゃん!!」



 ここに居る間に、作り笑いだけ(・・)は上手くなってしまいました。 嫌な子ですよね。


 でも、自然には笑えないんだから仕方がないんです。 楽しいと感じる事はちゃんとあるんですけど、頑張って表情を作らないと、人形みたいに無表情のままなんです。


 他の、悲しいとか怒りだとか、そういった感情の時は自然に動くんですけどね。 このお屋敷に連れて来られてすぐに気付いて、隠していたから二人とも気がついていないですけど。


 楽しくもないのに笑顔を作ってしまう癖も付きはじめているかも? 気をつけなきゃ。



「……も、もう……それじゃお願いねソフィ!」


「はい、変な事言ってごめんなさい、リオナ」


「…………べ、別に良いけど……」


 リオナのような、表情を隠そうとしてぜんぜん隠しきれていない子の方が可愛らしいですよね。

 本人はこれでお澄まししてるつもりみたいだけれど、ゴメンねリオナ、ぜんぜん出来てないよ?



「………………」



 リオナが調理場の方へ向かって、わたしがひとりだけ庭に残されました。 ひとりの時間は淋しいはずなんですけど、最近はちょっと楽です。 表情を作る必要がないので。



「…………」



 それと、わたしはまたリオナに嘘を付きました。 庭のお掃除は後からやることにして、わたしはこっそり応接室へ向かいました。

 どうしてもご主人さまと、あの王子さまのお話が気になったから。 教えて貰えないなら、盗み聞きをしてしまおうと、そう考えて。


 こっそり、足音を立てないように、息も静かにしながら、わたしは応接室の扉の前までやってきました。 中から二人の声は聞こえて来ます。 あの王子さま、声が大きいのでけっこう駄々漏れでした。


 ……内緒話なんですよね?


 ご主人さまの声は聞き取りづらかったので、扉に耳を触れるほどに近付けて、やっと聞こえて来ましたけど。





「…………彼女はその内の一人だ」



 …………。



「…………」


「……あの娘、あの様子では伝えてはおらんようだな」


「………もう少し、時間が必要だと思います、まだ半月程度しか経っていない」


「………ふむ……」



 ……………………。



「王子、確認します……あの国の人達はどうなりましたか?」


「………………………」


「……王子」



 ………………………………。



「そなたの予測通りだ」


「…………………そう、そうですか」



 ………………?……予測通り?




「では、逃げ延びた人は……」


「居らぬだろうな、主だった行路を完全に封鎖し、諸国連合には見捨てられた状態に追い詰めての狩りだ、民が亡命しようにも逃げ場が無い」



 ……この人、何を言っているんだろう?



「……降伏した人は?」


「全員奴隷だ。 奴隷としての価値が無い者は……」


「…………………………」



 価値が無い人はなに? 逃げられた人が居ない? 何を言っているんだろう?



「なにそれ」



「っ!!」


「……何者だ!」




 わたしが呟いてしまった言葉に気付いて、ご主人さまと王子さまは、わたしが盗み聞きの為に寄り添っていた応接室の扉を開きました。



「ソフィちゃん……」



 ご主人さまは盗み聞きしていたわたしを見て、悲しそうな瞳をしました。 あの時、わたしを連れて来たのは日に見せたのと同じ瞳をしていました。



「…………近付くなって、言っておいた筈だけど」


「すいません」



 頭を下げて謝ります。言い付けを破った訳ですから、謝らなくちゃいけないですから。


 でも、いくら奴隷だからって、いつも言い付け通りに従う訳じゃないと思います。


 それとも、これまでわたしが、従順だったから一言だけで命令に従うと思ったのかな? ご主人さまが恐ろしい人なら、そうだったかもしれないですね。


 でも、ご主人さまはいい人だから、このぐらいなら許してくれる。 そう思ってしまったんです。 ごめんなさい。



「……あの、ソフィ……」


「邪魔をして申し訳ありませんでした。 失礼します」



 何かを言い掛けたご主人さまを無視するように、わたしはその場を離れました。 しなくてはいけない事があるから、離れました。




「うそつき」




 漏れてしまった言葉は、この人に聞かれたかどうかは、振り向かなかったからわかりませんでした。




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