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売られてた奴隷少女にガチ惚れして衝動買いしてしまった  作者: しょー
1章『青年商人と奴隷の少女とメイドさん』
12/46

1-9『心情的に無理な事と生理的に無理な事と事情的に無理な事』

 


「………ふぅ、しかし王子様か、なんとかツテ作って王宮に仕事ねじ込むのも悪くなかったなぁ、いやダメか……話をする間もなく走り去っていったしそもそもすげえバカだったし」



 先程、仕立て屋にて出会ったこの国の王子、リュカ殿下の強烈な印象に思考を奪われつつ、俺は自らの商会へと足を運んでいた。

 別段急ぐ仕事など無い筈だが、せっかく街の中へ来たのだし、顔を見せておいても良いだろう。



「うーす」


「あ、ああ……アレク、来たのね」


「おう、仕事は順調かモニカ……って、どうした?」


「……えっ、ええと、別になんでもないけど……」


「…………んん?」



 従業員であり、あんまり華はないが受付嬢としてカウンターに座っている事も多いモニカなのだが、なんか普段とは雰囲気が違う。

 眼鏡越しに見える瞳が潤んでいるし、やたらアンニュイな溜め息を付いている。 なにその顔、恋する乙女かねキミは。


 あんまり華が無いとか失礼だって? いやだって、実際地味だしコイツ。

 あとね、俺は気になる女の子以外には優しくしない主義なのよ、ほら、勘違いされたら困るではないか。


 された事は無いがね、むしろ気持ち悪がられる事ばかりだがね。


 まあそれは良いのだ、俺は自分が愛した人にだけ優しさを向けて、優しくして貰えれば満足なの。 で、モニカは対象外というだけ。

  コイツもモテないらしいし、その辺りに親近感は感じるけど、友人以上にはちょっと。


 まあ、その内誰か紹介してやろうかね、店主より先に結婚とかされるとムカつくから俺の恋が成就してからだがな!!


 つまりコイツは早く結婚したいなら俺の恋を応援するべきなのだ。 正確には女性目線でカッコいい男の在り方を教えて欲しい。 マジで。



「まあ良いか、モニカ、何か変わった事はあったか?」


「………………はぁ……」


「おいきいてんのか」


「……え、ああうん、ごめん、なに?」


「……マジでどうした? 呆けるなんざ珍しいな」



 どうにも上の空なモニカなのだが、コイツがこんな状況なのが珍しい。 普段は見た目の印象に通りに真面目で集中力高そうで人の話を聞き逃すような奴ではないのだが。



「……アレク、私、王子様を見つけたの」


「はい?」


「面と向かってね、『美しいお嬢さん』って、初めて言われたの」


「ふーん、良かったな」


「…………それだけ?」


「他になんて言うんだよ? なんだ、恋する乙女みたいな顔してやがると思ったらそのものズバリかよ、分かりやすい奴だなお前」


「……こ、コイツは……」



 成就すると良いね、応援するよ俺は。


 だからそんな苛ついてますってそのものズバリな顔をこっち向けるな。 平手が飛んで来そうで怖いわ。 まあ、リオナのに比べたら大して脅威でもないけどな。



「で、その王子さまは何処のどちら様なのよ? まさかそのものズバリで白馬に乗った王子様って訳でもないだろ」


「……見てたの?」


「はっ!? そのものズバリなのかよ、つーか、それマジのバカ王子だろ!?」


「……は? バカ? 誰が?」


「いや、だから、白馬に乗ったバカ王子」


「……え、王子? 王子様みたいな(・・・・)じゃなくて、そのものズバリ?」


「うん、本物のリュカマイラス王子殿下、来たの?」


「………………う、うん」



 恋する乙女な表情が一変し、だんだん微妙な顔付きになっていくモニカ。

 うん、コイツも噂ぐらいは知ってただろうからな、この国の王子がすげえバカなのは。



「で、そのバカ王子はなんて?」


「…………『日陰に咲く淑やかな花のように美しいお嬢さん、その瞳に私が映るのを赦して欲しい』……って」


「…………」



 なんつー気障な台詞だ。 というか日陰に淑やかなって地味で目立たないって事じゃんか、そんな台詞でコイツは赤面してモジモジしてんのか。


 まあ、あの王子顔は超一級だし、ちょっと話し掛けられただけなら女なら堕ちるのかもしれん。


 だだ、今聞きたいのはそんなモニカがどんな言葉で墜ちたとかじゃねえから。



「ちげーよ、お前の胸にキュンと来た台詞とかどうでも良いわ、王子はなんの用件でここに来たのか聞いてんの!!」


「……へ? ……あっ!!」



 コイツ本気で失念してたな? まあ、あの王子にかかれば、どんな女だろうがお持ち帰りされてしまうだろうが。


 ソフィちゃんとリオナには絶対に遭遇させてはならんな。



「ごほんっ、えと、リュカマイラス王子殿下……なのよね本当に? あの方はアレク、貴方に用事だったらしくて不在だって伝えたわ」


「ああうん、まあここの代表は俺だしな……それで? 後日また来るって?」



 後日訪れるというのなら歓迎せねばなるまい。 立場的にも同志的にもキチンと礼節を持ってな。 それとソフィちゃんとリオナは接触されないようにその日は外出厳禁だな。



「急ぎの用事だって言うから、貴方のお屋敷の場所教えたわよ」


「…………は?」



 …………いまなんて?



「だからね、今日中に話がしたいから、自宅を教えてって……その、て、手を両手で握られながら迫られたから、つい……」


「…………………………………」


「え、えと、ごめんなさい褒められた行為ではなかったのは分かってるんだけど…………き、気が動転しちゃって」



 …………………………。



「……アレク?」



 ──この時、俺の脳裏には非常に哀しい連想が巻き起こっていた。



『同じ変態さんならカッコいい王子さまの方が良いですっ、そういう訳でさようなら元ご主人さま!』


『ゴメンね、あたし、この方に添い遂げるわっ、いままでありがとうさよならっ!!』


『すまぬな我が友よ!!はーっはっはっはっ!!』


 …………



「ちょっとアレクってば」


「……あっ、胃がキュゥ~って…………うっぷ……」


「えっ」


「おろろろろろろろろろ……」


「ぎゃあああああああぁぁぁあああぁぁぁあああひ、ひっかかったいやああああああああああああああ!?!?」



 ……ものすごく嫌な想像して気分悪くなって吐いた。


 だが吐いてる場合じゃねえ、二人がピンチだ!!


 俺は鬼気迫る勢いで即座に屋敷へと踵を返した。



「ちょっと待ちなさいよアレク!? 後始末してけ馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!」



 すまないモニカ、今はお前に構っている暇は無いのだ。


 ……あとひっかけちゃってごめん。




 ◇◆◇







「……あっ、お帰りなさいご主人さま」


「ソフィちゃん!! 無事か!?」


「へっ?」



 急いで屋敷へ戻ってすぐ、庭でソフィちゃんを発見したので駆け付ける。 見た目問題なし、ちゃんとかわいい。


 いや、もしかしたらバカ王子の爽やかかついやらしい魔の手が既に伸びた後かもしれない。 くっ、間に合っていてくれ!!



「……あ、あのソフィちゃん、屋敷にバカっぽいイケメンがこ、こ、ここここなかった? も、ももももしかして……」


「えと、白い馬に乗った方ですか?」


「来てたの!? そ、そ、それで!?」


「えと、その方ならあそこに」


「ん?」



 ソフィちゃんが示す方向を見てみると、そこにはバカ王子の愛馬が居た。



「……ヒヒーン」


「……こ、こいつはグレートファイナリティシンドロームエクスプロージョン号!?」


「なんですそれ、変な名前……」



 だよね、ひでえ名前だと俺も思う。 なんとなくこの白馬、呆れたような眼をしてるし。


「……馬は居るけどバカ王子は何処に? それにリオナは?」


「ご主人さま、足元です足元、馬の下のほう」


「ん?」



 言われた通り白馬の足元を見てみると、何か理不尽な暴力に曝されたようにボコボコの状態のバカ王子が、地面に転がっていた。


「えと、この人がリオナ見るなり変な事を言い出しまして」


「…………殺っちゃったの?」



 あの、この国の王位継承権第一位の御方がピクリともしてないんですが。



「……えと、し、死んではいないです。 それで、リオナがわたしに縄を取ってくるから見張っていてと……簀巻きにして吊るすからって」


「リオナああああああああああ!!?! なにしてんのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」



 明らかにやり過ぎだった。 王族相手に過剰防衛とか洒落にならん。


 ……いったい何を言われたらこうなるんだ。




 ◇◆◇




「はっはっはっ!! いやぁすまない、あまりにも美しい女性だったもので思わず求婚してしまったのだ、私としたことが先走った真似をした、非礼を侘びよう我が友、それにメイド娘よ」



 リオナが戻って来て、それからわりとすぐに王子は気が付いた。 リオナの拳を叩き込まれて、たった数分で復帰するとはタフな王子様である。



「…………求婚? あれが?」


「リオナやめろ、この人王子だから!? これ以上はやばい!!」


「……むっ……さ、先程は失礼致しました」



 流石のリオナも王族相手にこれ以上の暴力が不味いというのは理解出来たらしく、素直に頭を下げて謝罪していた。



「いや、構わぬよ、女性に暴行されるなど刺激的な経験だった」


「………うっ……」



 頬を赤らめてうっとりとした声で呟く変態王子と、それを見て顔を青ざめさせながら俺の背後に回って王子から遠ざかるリオナ。


 リオナをここまでドン引きさせるとは、流石だなバカ王子。


「………ソフィちゃん、王子様はリオナにどんな求婚を?」


「…えっ、その……」



 ちょっと気になったのでソフィちゃんに聞いてみる。 おそらくリオナの口からは言いづらかろう。



「その……リオナの手を握ってから『母さま』と……」


「…………」


 ちらり、とリオナを横目で見ると、泣きそうになりながら顔を左右に振ってイヤイヤしていた。



「それで、次に『いや違う、だがそうだな、美しいお嬢さん、どうか私の母となってくれぬだろうか?』……と」


「……うわぁ」



 リオナはソフィちゃんの説明を聞きながら鳥肌立たせてぷるぷるしていた。 そうか、本気で嫌だったのか、その顔は本気で嫌いな物に触ったりした時の顔だもんね。


 リオナは変態、大嫌いだもんね、はっはっはっ。



「……まあ、懸念は杞憂だったから良しとするか」



 良く考えたらいくら顔が良くても変態じゃあねえ? 盗られるかと思って不安だったのが馬鹿馬鹿しいわ。


 ……しかしこの王子、バカで変態な上にマザコンなのか。



「ふむ? 出来れば先程の折檻を継続してもらえると嬉しいのだがそうも言っておれぬな、先程はつい本題を忘れたが用件を済ませねば」


「……うっ…なんなんですかこの人は」



 バカで変態な上にマゾでマザコンの王子さまか。 半端ねぇ御方だな。



「……顔はすげえイケメンなのにな」


「……顔はカッコいいのに」


「……ちょっと近寄り難いです」


「ふっ、誉めても今は何も出せぬぞ?」


「誉めてないほめてない」



 何故こうも、この方は自信満々なのか。



「………それで、俺に用があるんですか?」



 さて、そろそろ王子さまが俺を訪ねて来た理由を教えて貰わねば。 このまま聞かないでおくと話が脱線したまま戻って来なさそうだし。

 


「うむ、仕立て屋で出会った同志が目的の人物だとは思わなかったがな」


「私のような者になんのご用が?」



 商談をしに来るような人には見えないのだが、なんだろうね?



「詳細はこの書簡に記されている」


「書簡ですか……さて、なんなのやら」



 俺はリュカ王子から王家の印を押された書簡を受け取る。


 宛名はファーンファレス家。 つまりこの国の王家からの物で間違い無さそうだった。



「そこの娘、そなたは何処の生まれだ?」


「…………」


「えと、この国から北西にあるフォレスタですけど……」


「そうか」



 書簡を眺めていると、リュカ王子はソフィちゃんの出身を聞き出し始めていた。 何事かを考えているような雰囲気を出しているのだが、何を考えているのやら、だ。



「えと、それがなにか?」


「只の確認だ、気にせんで良いぞ」


「………………」


「………外で話す内容では無さそうだ、客室へ案内します王子」



 もしかしたら、ソフィちゃんの故郷に関係する話なのかも知れない。 そうなると、ソフィちゃんには聞かせられない。


 なので俺は立ち話もこれ以上は失礼になるし、客室へと王子を案内する事にした。


「………あ、あの……!!」


「ソフィちゃん、これは仕事の話になるだろうから客室へは話が終わるまで近付かないで、リオナもそうしてくれ」


「え、ああはい……お茶の用意は」


「俺が自分でやるから大丈夫、とにかく大事な話だから、ごめんよろしく」


「……ふむ、では失礼する」



 俺は、王子を連れて屋敷の内部へ。 その背後から、ソフィちゃんの失望したような、残念がっているような声が耳に届いてきて、少し心が痛かった。



「……どうして教えてくれないの?」



 …………ゴメンね、ソフィちゃん。





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