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売られてた奴隷少女にガチ惚れして衝動買いしてしまった  作者: しょー
1章『青年商人と奴隷の少女とメイドさん』
10/46

1-7『羞じらう乙女は誰が為に』

※2018/2/1

たぐまにすたじお様よりレビューを頂きました。

感謝ヽ(・∀・)ノ

 


 フリッツの街から帰路に着くこと数日。 俺はようやくと言った具合に自らの屋敷へと帰りついた。



「今回は長く感じたぜ、いつもはもっと遠い街でも行く必要があれば行くし、滞在時間も長くても我慢していたが今回は帰りたくて帰りたくて仕方がなかった」



 だがそれも、もう少しで終わりだ。

 屋敷への小道を老いぼれ(ディモティ)に乗って進みながら、小躍りしたくなるような気分で進む。


 林の中をうねるように曲がりくねった道、木々の合間から見え隠れする我が家。 そしてそこで待つのは“自分だけのお姫様(いとしきひと)”。


 嗚呼、素晴らしきかな我が人生。

 やっぱり生活に華があればちょっとぐらいの嫌な事など吹き飛ぶものなのさ、うははひひょ。



「あっ」


「あ、ご主人さま!」



 ニヤニヤしながら屋敷へと到達し、馬から降りて、馬屋へ歩いていると、使用人服姿(・・・・・)のソフィちゃんが、庭の掃除をしている所に遭遇した。



 かわいい。 いや違う、ヤバい。



「お帰りなさいませご主人さま、ちゃんとお手紙通り、今日お帰りになったんですね」


「ああぁぁぁああうんててててて手紙出したのはししししごと全部おおおわってかりゃりゃし」


「……???」



 一応説明するが、手紙とはフリッツを出立する前に、リオナとソフィちゃん宛に、帰路に問題無ければ本日中に戻れるよ、と一筆書いて速達で送っていたのだ。


 いや、いきなり帰ってくると、飯の準備してないとかそういう問題が出てくるから、うん。

 嫌じゃん、帰って来たのにお前のメシねーからとか。 された事は無いが。


 いやそんな事はどうでも良い、今は緊急事態だ。


 何がって? ソフィちゃんがメイド服着ている事がだよ!!



「そ、そそそそそそソフィちゃん? そ、そそそそそその格好はあわあわあわわわ」


「あ、あの……瞳が小刻みに震えてますけど、それと膝がちょっと尋常じゃないほど震えてますけど、ご主人さま、どうしたんですか……?」


「ぁぁぁうん俺は平気よ? ちょっと長年の経験則から未来予測が絶望的なだけだから、そそそそそそれよりその格好……」


「あっ、そうでした。 ご主人さま、仕立てていただいてありがとうございました」



 そう礼を言って、ペコリと頭を下げたソフィちゃん。 うむ、つむじまでかわいい。



「あ、いやそれは良いんだが……ぇぇと」


「えへっ、似合いますか?」



 今度はそう言いながら、スカートをちょっと摘まんでから小首を傾げてはにかむソフィちゃん。 うん、今すぐ抱き締めたいぐらいかわいい。



「……ウン、似合ウヨ、妖精サンミタイデ素敵ダヨ」


「えと、あはは……ありがとうございます」



 実際、しばらく見ない間に固かった表情がほぐれて、自然な笑顔が垣間見れるようになって来ているので、とても愛らしくて魅力的である。 抱っこしてはぐはぐしたい。


 いや、今はそんな事を考えて現実逃避している場合ではない。 ソフィちゃんがメイド服を着用している。


 つまり、既に仕立てが完了して、俺が居ない間に届けられているという事になる。


 つまり、はっちゃけてノリノリで注文しまくった数々のアレでアレなちょっと人様にお見せするのは憚れる衣装達を、リオナが確認してしまったという事だ。



「………………………」


「……ご主人さま?」



 どうしよう、殺される。 あいつ、ああいう卑猥で下劣な男の願望は大嫌いなのだ。

 きっと縄張りを踏み荒らされた某森の賢者ゴリラの如く怒り狂い暴れるだろう。



「……えと、とりあえずディモティはわたしが馬屋へ連れて行きますね? ご主人さまは、えと、リオナがお屋敷の中で待っていると思うので行ってあげて下さい」


「あ、ああ……」


「それじゃ、いきましょディモティ」


「……ヒィン」


「…………」



 ソフィちゃんがディモティを連れて馬屋へ向かい、俺は庭に独り佇む。



 どうしよう、怖い。 ボコボコのギッタギタにされてから三日三晩縄で縛られて吊るされるかもしれない。


 かつて……確か五年ぐらい前だったか、男女の営みを非常に細かく描写した絵を用いて、赤ん坊は何処からやって来るのかを比喩的表現一切無しに見せつけて教えたおべんきょう。


 その時も酷かった。 吊るされて血塗れのブドウみたいになった。


 ああうん、勘違いするなよ諸君、必要だからやったまでだ。 間違っても下卑た愉悦を感じたいが為の行動ではない。



「……まあ、それは良いとして、顔見せない訳にもいかんし、諦めて怒られるか……」



 まあ、殺されはしないだろう。

 勢いで殺されるとか一瞬思ったがこの程度の事ならば過去に何度もやってるし。

 とはいえ対象がソフィちゃんだと言う事で、どうなるのかは不明なので不安だが。


 屋敷の玄関の前まで歩き、一旦立ち止まる。 そして胸の前に片手を当てて、聖母教の略式祈祷のポーズを取る。 はい、気休めでも神頼みしたいのです、やっぱり怖いので。



「…………よし、逝くか」



 ──女神(リオナ)よ、どうか御慈悲を。



 俺は伏していた眼を開き、そして玄関の扉をゆっくりと開いた。



「あ……」



 すると、リオナはすぐそこに居た。




 街にある、私立聖レナータ学院初等学部の制服にそのはち切れんばかりの身を包み、背中に最近導入された真っ赤な女児学生向け鞄を背負ったリオナが。



「お、お帰りなさいませ、わ、若旦那様……そ、その、こ……この格好が一番露出が少ないですし、その、他よりはマシかなって、で、でもやっぱり恥ずかし……」


「すいません、間違えました」



 バタン、と俺はすぐに扉を閉めた。






 なんだ今の。






「…………んん???」



 何か恐ろしい物を垣間見た気がした。


 なんだろう、一番誰にも望まれないパターンの組み合わせというかなんというか。


 いや待て、まさかリオナがあんな格好をするはず無かろう。 きっと幻覚に違いない。


 ただ、幻覚ならもっとエロエロな衣装を着たリオナが見たかったんだぜ。

 現実ではリオナは露出を極端に嫌っていて、それこそ二の腕や太ももすら晒すのを拒むほど恥ずかしがり屋さんなのだが……。


 ……あれ、だから女の子児童の衣装なのか? でもソフィちゃんの分は注文したがリオナのは頼んでねえぞ。



「……うん、やっぱり見間違いだな、そもそもリオナがそんな小っ恥ずかしい姿になる訳がない」



 再び扉を開く。 そして……。



「………………………」


「…………お、おおぅ」



 ……見間違いじゃ無かった。 初等部女児の制服姿のリオナが、顔を真っ赤に染めて俯いてプルプル震えていた。



「…………」


「…………」



 お互いの間を沈黙が支配した。 いや、なんて言えば良いんだよこれ。



「…………」


「……あー、その……」


「…………」


「…………な、なんでそんな格好してんの……?」


「!!!!」



 俺がそう問いを呟いた瞬間、リオナはショックを受けたような顔をして、その瞳を涙が滲み始めてしまった。


 ……い、いや他に何と言えと!? 泣かれても困るんだが!?



「…………っ……!!」


「お、おーいリオナさーん!? 待てって逃げんなよー!!」



 そして逃げた。 方向からして自室に向かったらしい。 状況把握が出来ないまま事が進むの止めて欲しい。 ホントなんなの。



「…………どういう事なの……」


「………………………」


「おおう、ソフィちゃん居たの!?」


「たった今来たばかりですけど……ご主人さま、どうしてあんな事言ったんです? リオナだって恥ずかしいけどご主人さまの為に頑張ったのにひどい」


「……!?」



 ジトっとした眼で蔑むソフィちゃんもかわいい……じゃなくて、ソフィちゃんが怒っている。 どうやらリオナの奇行は俺の為らしい。


 ……いやまあ、確かに方向性は斜め上過ぎて俺の趣味からは外れてしまっているが、リオナが選択した衣装がリオナのスタイルと雰囲気にバッチリ合致した衣装でのお出迎えであったなら、俺はきっと諸手を上げて悦んでいたのは間違い無かろう。


 うん、あれだな、何か俺の知らない事情が重なって、勘違いとすれ違いによる不幸な事故が起きたのだろう。 たぶん。



「……いまいち状況は把握仕切れていないけど、泣かせちゃったのは事実だし、ちゃんと謝るよ」


「……ご主人さまが、リオナに着て貰いたくて仕立てて貰った物じゃないんですか、あの服……」


「いや、知らないけど……」


「…………えっ?」



 俺が頼んだのはソフィちゃんの分だけです。 リオナには使用人服を新調しただけだ。


 だって、頼んでも絶対着てくれないと思っていたんだもの……注文した覚えも無ければ、それを素直に着たのにもびっくりだよ。



「とにかく、そのまま拗らせても長引きそうだし、部屋行って謝ってくるよ、ソフィちゃんも来る?」


「えと……それじゃ、はい、行きます」



 ……で、俺はソフィちゃんを連れてリオナが逃げたであろう、使用人室へと向かい、扉をノックしてみた。 まあ反応は無かったが。



「……入るぞ」



 鍵は掛かっていなかったので、返事は無かったが入室する。 すると、リオナは自分のベッドの上に居た。 布団にくるまってミノムシのようになった状態で。



「………………」


「………………………」


「……おーい?」


「出てって下さい」



 声を掛けたら返事はあった。 ちょっと涙声だったが。


 さて、謝るにしてもなんて謝れば良いのやら。 ぶっちゃけごめんと言っても平謝りにしかならんし。


 何がどう駄目で何に対して謝罪するべきなのか、ぴんとこない。



「…………」


「…………」



 ソフィちゃんが俺とリオナを見て、心配気な表情をしていた。 もしかしたらリオナをけしかけたのはソフィちゃんなのだろうか? うーん、まあ、だからと言って責めるつもりも無いけど。



「………うーん……」



 どうした物か、と部屋の内部を見渡すと、なんか見覚えのない、中に衣装の入った木箱が隅に置かれているのに気付く。 うん、ソフィちゃんだけの衣装でこの量にはならんわ。


 俺は木箱を改め、そしてその最中、木箱の蓋に張り付けられた、仕立て屋からのメッセージを見つけたのだった。



「…………これは……」


「……ご主人さま?」


「ソフィちゃん、これ気付いた?」


「……え? ………あっ」


「気付かなかったのか、だからか」


「……うぅ……そ、そんな……」



 口元を押さえて愕然としているソフィちゃん。

 やっぱりか、きっと俺がリオナの分も注文したと思って色々言ったんだろう。

 端から見たら俺とリオナはそういう関係に見えなくも無い筈だし。 勘違いはこれだな、うん。



「……リオナ」


「…………」



 丸まったイモムシ状態だが、話は聞いていた筈のリオナに再び声を掛ける。

 まあ、あれだ、勘違いで恥を掻いたのだ、気持ちは分かる。


 きっと今、リオナの心中は悶絶するほどの羞恥と後悔で荒れている事だろう。


 分かる、分かるぞリオナ。 辛いよな、それ。



「………………」


「リオナ」


「…………………………」


「お前は別に何も恥ずかしい真似はしていない。 俺も何も見ていない」


「……ぇ」


「……あの、ご主人さま?」



 丸まったイモムシに近付き、側に寄ってから、なるべく優しく言ってやる。


 大丈夫よ、怖がらないで出ておいで?


 布団を少しだけめくってみると、リオナの赤く綺麗な髪が外部に晒される。 が、蹲って、顔をシーツに押し付けているので顔は見えない。


 まあ、泣きべそ掻いてる顔は見られたくあるまい。 仕方がないので顔を上げさせるのは諦めて、とりあえず要件だけ言おう。



「ただいま、お土産買ってきたぞ、後で見てくれな?」


「………………」


「ソフィちゃんにも、はい」


「えと、お土産ですか?」


「うん」



 せっかく遠出したのだ。 二人に土産のひとつぐらいは買って帰るだろうさ。

 本当は誤魔化しだったりご機嫌取りのつもりで用意したものでは無いが、まあ渡せるならば理由はなんでも良い。



「そういう訳だし、少し休憩したら食事の準備よろしく。 これでこの話はおしまい、いいね?」


「えと、はいっ……その、ありがとうございます」


「どういたしまして」



 俺はリオナの側に土産の入った小箱を置いて、部屋を出ようとする。



「…………あ、ありがとう……」


「おう」


 ちょっとだけ顔を覗かせたリオナを確認して、笑っみせてから退室したのだった。




 …………よし、ソフィちゃんの分の衣装注文の件、うやむやに出来た!! 俺は助かったぞ!! ふはははははは!!


 リオナはちょっと可哀想だったが、まああの様子ならそんなに長く拗ねたりはしなかろう。





 ◇◆◇リオナ視点◇◆◇





「…………リオナ? その、ごめんなさい!! わたしが余計な事言い出したから……」


「……ううん、もういいよ、あたしが勘違いしたのが一番の原因だし」



 アイツが部屋を出て、それから少ししてからあたしはソフィに謝られていた。


 どうも勘違いで引っ掻き回したと思っているようで、申し訳なさそうな表情が貼り付いている。



「……でも」


「出来ればアイツの言う通り、無かった事にしたいかな」


「……リオナがそう言うなら」


「ありがと」



 さっさとこの馬鹿な真似をした記憶を忘れたい。

 アイツはたぶん二度とこの事は言い出して来ないだろう。なので、後はあたしとソフィがもう言い出さなければ、その内記憶が風化して思い出す事もなくなる……はず。


 たぶん、きっと。そうじゃなくては困る。 死んじゃいたい。



「…………」


「…………」



 …………しばらくは夢に出てきそうだ。 なんでこんな真似をしてしまったのか……いや忘れろもう考えるなあたし。



「…………うぅ……」


「……えと、そ、そうだご主人さまのお土産ってなんでしょうか? リオナ、開けないんですか?」


「……え? えと……」



 忘れようと頭を抱えて唸っていると、ソフィはアイツが置いていった小箱を手にとってもそう言ってきた。


 アイツは、お土産ならけっこう買ってくるのだが、食べ物じゃないのは初めてじゃないだろうか?


 正直、アイツが買って来てくれる珍しい食べ物は毎回楽しみにしていたので、食べ物以外だったのは少し残念だったりする。


 とは言っても、せっかく買って来てくれたのだ。 文句なんか無いけれど。



「……髪留め?」


「そうみたいね、色違いの同じ物かな?」


「……ルビーとサファイア……かな、こんな宝石あしらった高価なもの……良いのかな」



 髪留めには小ぶりな宝石が付けてあって、片方は赤色の宝石、もう片方は青い宝石がアクセントとなって、彩りを与えている。



「綺麗ね……ソフィ、どっちが良い?」


「えと、リオナが先に選んで良いですよ?」


「あたしは宝石とか詳しくないし、ソフィから選んで?」


「……えと、それなら……たぶんご主人さまはわたし達のイメージで選んできたと思うから……ルビーがリオナ、サファイアがわたし……で良いのかな」



 ソフィが言うには、アイツはあたし達の雰囲気でこの色の宝石を選んで来た筈だと言うので、赤色の宝石があしらわれた物を、あたしが、青色の宝石の物をソフィが貰う事になった。



「うーん、リオナの赤い髪にルビーだと、同じ色だからちょっと目立たないかな?」


「ソフィは似合うよ、だから良いんじゃないかな?」


「そ、そうですか? えへっ」


「うん、銀色の髪に青い色が添えられていい感じ」


「ありがとう、でもリオナはどうしよう?」


「あたしは赤い色、嫌いじゃないから平気」



 髪の色を褒められた事があるから、と言うのは内緒だけど。 別に目立たなくても、同じ色だから選んで来たというなら、それはそれで良いんじゃないかなって思う。



「……さて、いい加減仕事に戻らないとね」


「もう良いんですか?」


「うん、大丈夫」



 うじうじしててもアイツとソフィを困らせるだけだし、沈んだ気分も、現金な気もするけどこの髪留めを貰ったらちょっとマシになったし、アイツが言うようにそろそろ食事の準備をしなくては。



 貰ったばかりの髪留めを付けて、仕事から帰って来たばかりのアイツに、好物でも作ってお礼を示しておこう。






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