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前篇

「樵の娘は公爵令嬢」の樵の妻カーネリアの話です。



 気付いたら木造の部屋で赤子は目を覚ました。

 赤子の精神である女性は混乱していた。自分は家で寝ていただけではなかったか、それがいつの間に知らない部屋にいるのか、と。

 すわ、誘拐か! と思ったところで自身の身体が動かし辛い事に気がついた。

 何とか動かし辛い手を目の届く位置にまで持って来た赤子は息を飲んだ。今見ている手がどう見ても赤ん坊の手だったからだ。

 可愛らしい紅葉の手を動かし赤子の精神である女性は考えた。これはどういう事か! と。

 やっと一つの事に考え至った赤子は、フーと一息ついて手を下した。


(私、転生しちゃったの!?)


 赤子の精神がそう結論付けた頃、小さな部屋の扉が開き一人の美少女が入って来た。


「カーネリアおっきしたのね。ご飯にしましょうね」


 そう赤子に言った美少女は十代後半程で、綺麗な黒髪を首元で結い、はしばみ色の瞳が綺麗だった。

 美少女が差し出したのは赤ん坊の食べる離乳食と思われるドロドロの液体だった。


(ははは、母乳からの生活でなくて良かった)


 心の中で乾いた笑いを上げ、赤子カーネリアは差し出されたスプーンを口に含んだ。


「良く食べれたね。お母さんは片付けして来るから良い子にしていてね」


 そう言って出ていった母親を見てカーネリアは随分若いお母さんだなと思い、やって来た睡魔に身を任せた。


 来る日も来る日もカーネリアをせわする母親に、カーネリアは疑問に思った。父親はどうしたのか? と。

 その答えは意外に早く訪れた。


「カーネリア、貴女のお父さんはこの国の公爵様になるのよ。でもね、お母さん奥様になる王女様に嫌われてしまったみたい」


 その話を聞きカーネリアは自分がどういう状況なのかを悟った。

 母親の少女からしてみればちょっとした弱音で、赤子には解らないだろうと洩らしたものだった。それをカーネリアはしっかり理解していた。


 それからカーネリアはすくすく成長して、自分の足で家の外に出られる程になった。

 カーネリアの母はあれ以来弱音を吐く事なく、下町の工房で働いている。何とか見つかった働き口にカーネリアの母は必至だ。

 この働き口はカーネリアが子供とは思えぬほどしっかりしているので、家を空けても平気だと母親にアピールしたからだ。

 今日も今日とてカーネリアの母は工房に朝から働きに行っている。

そんな母親を見送りカーネリアは小さく溜息を洩らした。


(公爵家を追いだされたのはだいたい見当がつくけど、お母さんって結構図太い?)


 カーネリアがそう思ったのは母親の魔法道具を見つけたからだ。

 カーネリアは転生してから剣と魔法の世界と知って、少なからず興奮した。

 そしてある日発見したのが摩訶不思議な道具達だった。

 科学の詰まった道具とは一味違う魔法の詰まった道具。それらを纏めて魔法道具という。

 魔法道具の一つに空間拡張という物があり、空間拡張のかかった道具は実際の物より多くの物が入る。

 そんな空間拡張のかかった鞄を母親は所持していて、その中には高価な物が詰め込まれていた。

 つまり母親は公爵邸の私物を持ちだした、という事だ。

 追手がかかるのではないかと焦ったが、母親は焦ってはおらず、のほほんと生活している。

 カーネリアはそんな母親を見て悩むのを放棄した。


 母親を見送ったカーネリアは普通の鞄に昼ご飯を詰め込むと、冒険者ギルドへと向かった。

 冒険者ギルドとは世界各地に存在する冒険者を纏める場所で、冒険者とは冒険者ギルドに登録した者の事だ。様々な分野で使われる素材やモンスターと呼ばれる凶暴な動物を狩り、商隊を護衛する事もある。

 そんな冒険者登録に年齢制限はなく、カーネリアも登録が可能だったので、一も二も無く登録をした。

 カーネリアが登録後にまずやったのは最下級の冒険者がやる街のお手伝いだ。

 冒険者には最下級の10級から上級の1級と上級になるに従って数字が減っていく。そして1級の上のトップ冒険者を特1級と位置付けている。

 そんな1級、特1級の冒険者には王侯貴族すら頭を下げると云われているので、村人の三男四男やスラム街に住む住民に冒険者は大変人気だ。

 最下級の10級の冒険者に対する依頼は街や村内の依頼だけで、ここ王都の冒険者ギルドも他と同じだ。


 幼いカーネリアにできる依頼は少ないが、ちょっとした依頼をこなして小金を稼いだ後に冒険者ギルドに設置してある図書室で勉強するのが最近のカーネリアのルーティンワークだ。

 また、王都の冒険者ギルドでは新人に向けての無料の講習もやっており、カーネリアは全ての講習を受講した。


 10級冒険者から9級冒険者になるには試験が必要で、簡単な武術や魔法などの戦闘試験を受ける。

 10級冒険者には子供も多く街の外に出る依頼のある9級冒険者には少なくとも獣と戦えるだけの力が必要だ。

 そんな試験のために武術指南というものも格安で受けられる。

 カーネリアは買い食いなどを殆ど控え、依頼の報酬で紙やペンを買ったり、武術指南を受けたりしていた。

 そんなカーネリアを同じスラム出身者や子供の冒険者はバカにしたように見ていた。

 しかし、冒険者ギルドの職員や一定以上の年齢の冒険者は寧ろカーネリアのやり方を感心して見ていた。

 しっかり基礎を身に付けようとするカーネリアに保護者の気分になって見守る者も多かった。

 冒険者になる者は低所得者が多く無頼漢が多く、また戦闘を生業とするため筋肉が発達している者も多い。身体や顔に傷がある者もいて怖がられる者も多い。

 そんな冒険者相手にもカーネリアは怯まずに話したり、武術指南をした者を先生と慕ったりしていた。

 こうして冒険者としての先輩に可愛がられるカーネリアを面白く思わない者も当然いて、スラム出身の冒険者にお金を巻き上げられそうになった事もあったが、カーネリアがさっさとお金を使っていたり、カーネリアを可愛がる冒険者に睨まれたりして結局成果は上がらなかった。


 カーネリアが9級冒険者になったのは10歳になってからで、冒険者ギルドに登録してから5年が経過していた。

 9級に上がったカーネリアは8級7級と一気に級位を伸ばしていった。

 6級からは街から離れないといけない依頼も多く、現状のカーネリアにはこれ以上級位を上げる事はできなかった。

 そんな時、カーネリアの母親が病に倒れたのだ。


 カーネリアは冒険者ギルドでの依頼を休み母親の看病をした。

 しかし、カーネリアの看病も虚しく母親はやせ細っていった。

 そんなある日、カーネリアの母親は気分が良いからとカーネリアをベッドのわきに呼び出し昔話をした。

 まず始めに話したのは自分自身の話だった。

 母親の名前をルーレシア・バートンといい、バートン男爵家の次女だったそうだ。

 ブルランドル公爵家に行儀見習いとして泊まり込みで仕事を始め、公爵家の嫡子であるカーネリアの父親ローランド・ブルランドルと恋に落ちた事を告げた。

 ローランドには王の娘である王女という婚約者が居たが、愛妾という形でルーレシアがブルランドル公爵家に入る事になっていた。

 一夫多妻というのは王侯貴族や裕福な商人、成功した冒険者のステータスで、それ程珍しい事ではなかったからだ。


 しかし、降嫁して来た元王女の悋気は激しく、ローランドの子を妊娠したとわかったルーレシアを公爵邸から追い出したのだ。

 いつから手を回していたのか元王女の手にはルーレシアの生家であるバートン男爵家をはじめ、ルーレシアの親戚からの縁切り状が握られていた。

 こうして帰る宛てのなくなったカーネリアの母ルーレシアは、スラムの長屋へと身を隠したのだ。


 ルーレシアはここで悪戯っ子な笑みを浮かべると、魔法道具の鞄を手にした。

 元王女が何らかの形で自分に害を与えると思ったルーレシアは、ブルランドル公爵家の荷物持ちようの魔法道具である鞄をくすね、そこに今まで働いていた給料など私物を入れ〝もしも〟の時を待った。

 そうしてまんまとスラム街で生活できる資金を持ってブルランドル公爵家を出ていったのだ。

 ルーレシアはクスリと笑い元王女がルーレシアを殺すという結論に至らなくて良かった、と言った。


 ルーレシアは指輪とブローチを取り出して説明した。指輪にはバートン男爵家の家紋が彫ってあり、ブローチはローランドから贈られた物でブルランドル公爵家の家紋が彫られていると話した。

 これらは生活の資金に売る事もできず、思い出の品として取っておいたそうだ。

 これらを使う事はしない様にと念を押した上で魔法道具の鞄と共にカーネリアに与えた。


 翌日、微笑みながら眠る様に亡くなったルーレシアの遺体があった。



 ルーレシアが亡くなって以降、カーネリアは王都を出て冒険者ギルドの依頼をこなすようになった。

 本来複数人でパーティーというチームを組み依頼を受ける所、カーネリアは級位に対して年齢が幼く中々パーティーを組む事ができなかった。

 対等に扱う者が少なかったのだ。


 そんなカーネリアが15歳になった頃独り(ソロ)で3級に上がっていた。

 カーネリアが久しぶりに祖国の王都に辿り着くと、別の地域から1級の冒険者である二人組が居た。

 一人はカーネリアと同じ人族の男ロイド・ローデンハイム。もう一人は森の住人と呼ばれるエルフ族の男のマクノサイエの二人だ。


 そんな二人とカーネリアが出会ったのは、冒険者ギルドで下位の冒険者と間違われ、絡まれている所を偶々通りがかったロイドがカーネリアに興味を持ち助けたのが始まりだった。

 その後、ロイドにお礼として食事をおごる事にしたカーネリアは、ロイドのパーティーであるマクノサイエも一緒に招いたのだ。

 その食事の時に気が合った三人は食後のお酒のテンションもありパーティーを組むことにしたのだ。

 こうしてリーダーは人族の男で大きな戦斧使いの魔法戦士ロイド・ローデンハイム、パティメンバーは召喚師でエルフのマクノサイエ、人族で魔法剣士のカーネリアという三人のパーティーが出来上がった。


 三人の相性は性格だけでなく戦闘も良く、戦力はうなぎ上りに上がった。

 そして気付けば冒険者最高位である特1級になっていたのだ。

 三人の変化はそれだけではなく、ロイドとカーネリアの間に恋が生まれ、いつのまにか愛するようになっていた。

 その変化に気付いたマクノサイエは久しぶりに故郷に帰って魔法の研究をすると、パーティーを抜けた。

 ロイドとカーネリアの二人は話しあって冒険者の足を洗い、何処かの田舎で暮らす事にした。

 その暮らす田舎がカーネリアの故国になったのは偶々だったが、定住の地に決めた村は数年前にモンスターの群れから救った村だった。

 ロイドとカーネリアが定住したいというと村人たちは喜んで迎え、村の中に家を建てた。

 田舎の村でロイドのカーネリアの戦力は頭を下げても欲しい物であったし、ロイドとカーネリアにしてみればゆっくり暮らせるその村は魅力的だった。


 こうして村に定住を始めた二人の職業は、ロイドが樵でカーネリアは村の主婦となった。

 樵の仕事だけで慎ましくなら暮らしていけるし、冒険者時代の貯金は大量にあり、ロイドとカーネリアはのんびり暮らしていた。







本来この話は長編として考えていたのですが、短編の「樵の娘は公爵令嬢」に圧縮しました。

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