転生先は鳥居強右衛門3
天「救援を要請する使者を引き受ける人物が長篠城の中に。誰一人として居なかったことである……。」
私「それだけ武田軍の包囲が厳重であったのか?」
天「既に先端が開かれ、敵が至近に居るのは事実であるが、地理に明るいのは勿論守っている奥平のほう。独りだけであれば脱出すること自体は不可能ではない。」
私「なら忍びに長けているものを派遣すれば済むだけの話。」
天「救援を要請するにも家康が知らぬ人物と言うわけにはいかぬから、通常であればそうなることになる。その要員も用意されている。」
私「その人物が……?」
天「いやそなたではない。」
私「では一体何故私が城を出ることになったのだ?」
天「それはな……先年の高天神城での出来事が影を落としているのである。」
私「……たかてんじんじょう……?」
天「高天神城は遠江と駿河の国境に位置し、長年に渡り武田との係争地となるも。あの信玄を持ってしても陥落させることが出来なかった徳川家随一の要衝。この地を信玄亡き跡を継いだ勝頼が攻めて来た際、今回の長篠同様高天神城も危機的状況に陥った。と……。」
私「そこで幾度となく使者を家康のもとに派遣するも……。」
天「『援軍を出す』と言いながら家康は一向にその腰を上げようとしない。」
私「岡崎から浜松に至るまでどこからでも武田が山を下りて侵攻してくるかわからない状況に加え、三方ヶ原での大敗が堪えているからでありましょうね。」
天「左様。単独で武田にあたるのは難しいと判断した家康は、盟友である織田信長に救援を依頼。信長の到着を待つ日々を過ごすことになるのであった。」
私「城は疲弊するばかり……。」
天「そこで高天神城から家康のもとに派遣されたのが勾坂牛之助。牛之助に対し家康は相も変わらず言葉だけの煮え切らない態度に立腹した牛之助は『いつになったら動くのだ!具体的な日付を示せ!!』と凄み、家康から『五月早々に。合図として狼煙を3発打ち上げる。』との返答を得、帰城。事の顛末を城主である小笠原氏助に伝え(このことからもわかるように、もともとの家臣であれば何処か某かの脱出口を持っているものである)、実際に3発狼煙が打ち上げられるも……。」
私「援軍がやって来ることはなかった。と……。」
天「その後、高天神城は降伏。徳川家に戻った勾坂牛之助に対し家康が下した命令は……。」
私「……命令は……?」
天「……切腹であった。と……。」
私「……家康自らの言を隠すための口封じでありますか……。」
天「いつの世も使われている側は辛いものであるな……。」
私「で。その口封じが家中に漏れてしまっていた。と……。」
天「左様。それ故、本来務めるべき連絡将校の誰一人として名乗り出ることは無かった。と……。しかも悪いことに長篠は高天神城と違って……。」




