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”のんこ”といた夏  作者: 夏みかん
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第6話

のんこと別れ、俺は地主のじいちゃんの屋敷に戻ってきた。時刻は午後四時前だ。のんことは明日の朝九時に家まで迎えにいくことにした。俺は相変わらず暑いあの部屋に入り、すでに充電器作りに入っているおじさんを尻目に窓の外の景色を見た。U字を描く屋敷の構造の内側に窓が面しているせいで景色もクソもない。見えるのは日本庭園な中庭ぐらいだ。速攻見飽きて腰を下ろし、ため息をついた。


「明日、町へ行く用事があるから着替えを買ってきてやる」


おじさんは手を休めることなくそう言った。そうだよ、俺、着替えも何もないんだ。てことは何か?俺はこの汗でどろどろのシャツとパンツをまた明日も着るのか?しかもこの真夏に長袖だぞ。そんなことを考えているのを悟ったのか、おじさんはこう言った。


「下着は俺が持ってきたのを使え。新品だし、Tシャツも貸してやる。ま、夜のうちに洗濯すりゃ乾くだろうけどな」


ありがたい話だよ。本人の意思を無視して過去に飛ばされた挙句にこの待遇。涙が出るね、情けなくて。だいたい十年前の世情なんて全く知らないしな。どういうものが流行しててどういうものが新たに出るとか覚えてないもん。この当時十歳だもんなぁ。テレビゲームしてたかチャリンコで駆け回ってた頃だ。そういう感じでしか覚えてない。俺は畳の上に寝転がった。扇風機の風を受けなくなったけどどうでもいい。なんかもう疲れが一気にやってきた感じだ。


「しかし、あの生意気盛りの全が大学生になってるのか。成績もそういいようには思えないのに、わからんもんだなぁ」


しみじみ言うか。確かに勉強より遊びの方の才能が上だと自分でも思う。けど文才はあるぞ。それだけはおじさんも認めてくれてたしな。そんな俺がそこそこの大学に入れたのは確かにまぐれに近いよ。しかしおじさんにそんな風に思われていたとはなぁ。今の俺に会って忠告したい気分だよ。でもそれをしたら、過去の俺と未来の俺が対面してお互いを認識し合うか触れたりしたら俺は消滅、へたしたら宇宙が崩壊するらしい。SFの映画なんかでよく聞く設定らしいが、その道のプロのおじさんが言うには本当みたいだ。もっとも、それは仮説でしかない。当たり前だが試したやつなんかいないからな。実際試せる立場にいるが実践しようとは思わない。消滅したくないしな。そんなこんなを考えているとおじさんが俺の足を叩いて呼んだ。とりあえず起き上がるとテーブルの上に置かれた携帯と改造充電器を合体させているところだった。


「ほれ、完璧。十年経とうが基本は同じだ」


削ったような跡があるけど、携帯とガッチリ合っていて充電を示す赤LEDも点灯していた。画面を見れば確かに充電されているようだ。さすが、おじさん。


「一応電池も新しくして緊急用は持っとけ。念には念をだ」


言いながら電池パックから単三電池2個を入替えている。手が早い。


「とりあえず一安心だな」


そう言うとおじさんは立ち上がって部屋を出て行った。俺はすることがなくなったのでまた寝転がった。あと一週間、こんな毎日が続くかと思うとゾッとする。携帯ゲーム機もなく、携帯電話でゲームも出来ない。メールする相手もいなければ人との接触も制限だ。おじさんとのんこ以外とは親しくできないしな。退屈の極みだ。明日の日中は釣り。なんとも原始的な生活だよ。ほとんどゲーセンやパチスロとかデジタルな遊びばっかりしてたからな。のんこも俺と釣りに行って楽しいんだろうか。ふとそう思い、のんこのことを考えた。夏休みの間、田舎のおじいちゃんの家に預けられたと言っていた。それなりの町に住んでいるとも言ってた。名前はてじまのりこ。のりこといえば、俺の時代には高杉典子、浅見紀子がいるが、苗字が違うし住んでる場所も違う。何せここで会うのが初めてだ。未来から来た俺を怖がらず、警戒もせずいろいろと案内してくれた。天真爛漫なのか、バカなのか。とにかく不思議な子だ。十歳とは思えない落ち着きぶり、そして可愛い容姿。ホント、よくわからない。未来に帰ったら会いたいね、真っ先に。超美人になってたら、過去での出会いを利用して付き合いたいと思うよ。そんな馬鹿なことを考えていたら睡魔が襲ってきた。俺はクソ暑い部屋の片隅で居眠りを始めたのだった。そしておじさんに起こされたのは一時間ほど経った頃だった。汗だくになりながら目を覚ました俺はおじさんに促されるまま風呂場へと向かった。台所、しかも昔の風情漂う、まるで昭和初期のようなその台所はとんでもない広さで、そこにいたのは少しばかり背の曲がった小さなおばあちゃんだった。地主さんの奥さんだろう。作業を中断して俺の方に来てくれた。かなり背の低いおばあちゃんだ。


「先生の助手の山田さんですね?」

「は、はい。よろしくお願いします」


あ、俺、山田太郎だった、忘れてた。完全に寝起きだし。おばあちゃんはにこやかに、そして丁寧に挨拶をしてくれた。


「先生にはお世話になってるので、遠慮なくいてください」


おじさんがこの老夫婦にお世話したってのがよくわからんが、とにかく礼を言った。その後、この家の大体の間取り、夕食の時間などを教わり、俺は風呂場へと向かった。そして驚いた。広いっていうか、大浴場じゃん。ヒノキの風呂っていうのか、浴槽も広いが洗い場も広い。老夫婦が利用しているだけあって手すりとかもあるけど、なんせ凄い。おじいちゃんが先に入ったにしてはお湯も綺麗だ。まるで温泉に来たような気分で入浴を楽しめるぞ。夕方の五時を回った時刻だから夕日というよりかは昼のような光が湯船のお湯を反射させている。気持ちも大きくなった俺はいつもの倍の時間を掛けて入浴を楽しんだ。疲れや悩みを吹き飛ばす、文字通りのリフレッシュができたよ。おじさんに借りた服に着替えた俺は湯上りの心地いい風を受けつつ元の部屋に戻った。が、おじさんはいない。俺は扇風機の前に座り込み、風に当たった。テーブルの上の携帯はまだ充電中を示す赤いランプが点っている。セミの声はさすがに夕方だけあってかなり少なくなっていた。ひぐらしが替わってうるさいくらい。少し心にゆとりが出てきたせいか、腹が減る。そういえば昼飯を食べ損なってるんだよな、俺。意識するとますます腹が減ってきた。お菓子でもつまみたいところだが、そうもいかない。途方に暮れていたらおじさんが戻ってきた。


「機材でいっぱいだが、クーラーの部屋が空いたから、今晩はそこで寝られるぞ」


どうやら実験とやらが終わったようだ。とりあえず熱帯夜を窓全開に扇風機でってのは回避だよ、よかった。


「んじゃ風呂行ってくる。上がったら夕食だ」


俺の空腹を知ってか知らずか、おじさんはそう言うとさっさと行ってしまった。ま、あと三十分以内に晩飯にはありつけるだろうから我慢するしかないな。しかし湯上りのさっぱりさは消え、暑くなってきた。俺は扇風機の向きを下側に向けて寝転がる。そのまま再び転寝をした。かなり疲れているようだよ。そしてまたもおじさんに起こされて目を覚ました。ぼーっとした状態ながら半身を起こして座り込む。


「飯だぞ」


おじさんの言葉に眠い目をこすっていた俺の意識がはっきりとする。ようやくだ。ようやくの晩飯だ。おじさんについて部屋を出て階段を下りる。離れから本殿の屋敷に続く細い廊下を歩いていると、本当に武家屋敷に来たような錯覚すらしてしまうよ。とにかくこれまた広い居間にやって来た俺は長テーブルに並べられた夕食の品々に驚いた。サラダに冷しゃぶ、焼き魚に煮物。それにビールまで。俺は唾を飲み込んでおじさんの横に座る。正面に地主夫婦が座る配置になっていた。いただきますの合図ももどかしく、俺は次々に腹へとおさめていく。ビールも進み、ほどよく酔う。そしてこの夕食の場でおじさんと地主さんの関係が少し分かった。ここはおじさんの親友の実家だということ。そして数年前、化学薬品で汚染されたこの周辺の土地をおじさんが特殊なバクテリアを生み出して浄化させたそうだ。その恩もあって、夏休みの間はここで住み込みをしながら土壌調査を行っているらしい。食費などは渡しているのだけど、少ししか受け取ってくれないと言ってた。地主さんの話っぷりから、かなり感謝しているというのが十分伝わってきた。俺はその助手ということになっているから話を合わせながら事情を飲み込むのに苦労したけどね。ま、この程度の接触なら問題ないだろう。今回の短期間だけの助手だからとおじさんもフォローしてたし。そんなこんなで食事も済んで、麦茶を飲む。美味いね。


「山田さんは、明日は調査ですか?」


おばあちゃんがそう言う。どう返事をしたものか笑顔を見せながら考えているとおじさんが助け舟をだしてくれた。


「明日は僕が町に用があるので、彼はお休みです。手島さんのお孫さんと釣りに行くそうで」

「あぁ、のんこちゃんと。そうですか、そりゃええ。あの子も一人でこんな田舎に来て退屈そうでしたし。仲良くしてあげてください」

「はい」


にこやかにそう返事をして麦茶を口に含んだ。さすがおじさん、見事だよ。


「将来、結婚するそうです」


悪い、コントのようなお茶の噴き方するところだったぜ。グッと堪えた結果、その代償としてむせ返ったね。三人は笑ってるけど、笑えないっての。


「冗談ですけどね。まぁ、彼、面倒見がいいですから、一緒になって遊んでくれますよ」


涙で濡れる目でおじさんを睨むのが精一杯だ。笑う老夫婦を横目に、俺は息を整えることに集中した。その後、スイカのデザートまで出てくるもてなしぶり。おじさんによればここではそれが普通らしい。ここで取れたスイカということで、甘みは抜群、美味しい。俺は満腹になって大満足だった。食事を終えた俺とおじさんは離れにあるクーラーの部屋に行った。弱冷ながら部屋は冷えていて、布団も2つ敷かれていた。周囲はわけのわからん機材に埋め尽くされているが、寝るには申し分ない広さだ。何の実験か知りたくもない俺はテレビもないその部屋で布団の上に転がった。ひんやりした感覚が心地いい。


「十年の進歩ってはすごいな」


おじさんは俺の携帯を勝手にいじってそう言った。まぁ確かにそうだろう。もはや携帯電話の枠を超えてるもんな。テレビは見れる、カメラはデジカメ並みで動画も撮れる。ネットもできるし財布にもなる。俺はそう説明しながら大の字になった。


「動画も録画って、メモリーは?」

「SDやマイクロSDに保存する。2ギガ程度あれば十分だしな」

「2ギガ?最近128メガが出たばっかりなのに・・・2ギガか」


まぁ驚くだろうな。こんな大容量が出たのって最近だし。俺はおじさんから携帯を取ると差し込んでいたマイクロSDを抜いておじさんに見せた。おじさんは目を点にしている。


「ちぃっちゃ!こんなのが流通してんのかぁ・・・はぁ!凄いな」

「アダプタと合体させたらSDカードにもなんだぜ?」

「ほぇ・・・凄いね」


超感動してるよ、凄い優越感。その後、携帯の動画を見せたり、写真を撮ったりした。いろいろなこと、十年後のことなんかを話をしてその度におじさんは感動していた。缶ビールを持ち込んでの談義に、時間はもう夜中になりつつあった。ひとしきり話を終えた後、コオロギの声が聞こえるほど静かになる。しんと静まった夏の夜中はどこか不気味だ。


「何があってもいいようにカードにデータを保存しとけよ?」

「ん?」

「そいつは時空の影響を受けて特殊な端末になってるんだ。用心にこしたことはない」


おじさんは3本目の缶ビールを飲み干すと俺に背を向けて機材に向かった。充電器を差し込んだままアドレス帳やら、携帯本体のデータをカードに移し終えた俺は大きなあくびをしてそのまま眠ってしまった。酔いと疲れが深い眠りに落とすまで、あっという間だった。


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