第24話
二十分ほど車は走り、ファミレスに入った。昼を回っていることもあって店内は空いている。4人がけのテーブルに座り、俺と浅見、じゃないな、のんこ、その前におじさんが座った。俺は昼を食べてないので軽食を頼むと、同じくミスコンでお昼を食べていないのんこも軽食をオーダーした。おじさんはコーヒーだ。
「そういや、ミスコンって興味なかったんじゃないの?」
過去ののんこの言葉を思い出し、俺はそう質問をした。するとしかめっ面をしつつ、のんこが俺を睨んでくる。
「全がそう言ったからだよ・・・・ミスコンだとか飲み会とか・・・決められた歴史はなぞらないとおかしくなるんだよ」
「はぁ?」
なんか知らんが怒られたし。イマイチよくわからない俺におじさんが説明をしてくれた。ようするに決められた歴史はその通りに進める必要がある。俺が過去ののんこやおじさんに話した未来は忠実に実行しないと意味がない。それもまた時間の崩壊を起こしてしまうんだそうだ。最後に紙に書かれた内容を確認させたのはそのためだそうで。ミスコンに今年に出たことや食事会で無視されたことなどがまさにそれ。俺が言わなけりゃ、あるいは実行しないで済んだかもしれないらしい。未来は改変されるが、大きな歴史には問題ないからだ。だってさ、それを知っているのは俺だけ。俺が誰かに話すことで共通の認識となって未来が確定するそうだ。こじつけじゃないかって思えるね。だからこそのんこは俺を全だと認識しながらもそれを忠実に守ってきた。それにおじさんとの約束があったからだ。
「お前が帰ったあと、彼女に言ったんだ。お前とは一切関わるな、とね。大学でもお前とは接触がないと聞いていたし、何より同じ時間上のお前は彼女を知らない」
本当は会いたかったそうだ。自分の知らない俺であっても会いたいと思ってくれた。けれどそうすれば歴史は狂い、二度と俺と遊べなくなる。だからのんこは我慢した。やがて両親が離婚し、母親に引き取られる厳しい状況の中でも、俺への再会を胸に頑張ってきた。好きだという感情も大きく膨らむ中、同じ大学に進む。けれどようやく会えた俺は彼女を知らず、彼女も自分を名乗れない。まだ俺はのんこを知らないのだから。彼女はただひたすらにその日を待った。普段は俺を空気のように扱い、家では泣いていたらしい。待って待って待ち焦がれ、そしてようやく今、俺の隣にいる。浅見紀子ではなく、のんことして。でも、よくもまぁ十年間も俺を想ってくれたと感謝をする。たった一週間だけ遊んだ未来から来た男を、そこまで想えるものかと感心してしまう。そしてそのことに関してもおじさんが説明をしてくれた。
「本来の歴史では、十年前のあの夏、十歳のお前と十歳ののんこちゃんが出会うはずだった」
「・・・・俺、行かなかったんだけど」
「そう。宇宙の法則とも言える記録があってね、そこには全宇宙すべての生物の運命が書かれているという。お前とのんこちゃんはあの日、出会うはずだった。そして年月を重ねて逢瀬を重ね、高校生で交際し、同じ大学へ進む。そして結婚する運命だったんだ」
「しかし、見てきたように言うね」
「あぁ、見た。あの日、お前が帰る時に・・・メモを渡しに過去へ飛んだ時に」
「メモ渡しに行ったとき?」
「そうだ。そこで本来あるべきお前たちの未来を見た。そこで確信した。歴史がそれを修正しようとしたのだとね・・・つまり、お前たちを結びつけるために、お前は過去へ飛ばされた。そして必ず帰る必要があった。彼女をのんこちゃんと認識して結ばれるために」
時間の流れの中で、極々まれにその運命をすり抜ける現象が起こるらしい。当時の俺がそうだったみたい。本来おじさんとあそこに行くはずが、俺は歴史に逆らって行かなかった。どうやっても俺は動かず、そのまま時間は流れた。普通ならそれはそれで時間も無視するみたいなんだが、どうやら俺の子孫が偉人か何かになるらしく、結ばれなくちゃまずい。それこそ宇宙の歴史が大きく変わってしまう。そこで俺とのんこは大学で顔を合わすんだが、俺と浅見は全く接触せず、恋愛感情も生まれない。痺れを切らした時間の神様は俺を強引に十年前のあの日に飛ばしたそうだ。そして出会わせて帰らせる。帰ることが重要なのは俺たちが結ばれなきゃ歴史が正常に動かないからだったんだ。全部おじさんの憶測だけど、説得力は抜群だ。
「でもさぁ・・・十年前の俺が会いに行くようにすればいいじゃん」
「だから言ったろ?あの時代のお前はいかなる干渉もすり抜ける特殊な存在だったんだって」
「・・・あぁ、そういうことね」
「けど君たちが互いに好きだと思わなければならない。のんこちゃんもお前も、十年前にそれを口にした。だから彼女はずっとお前を慕い続けることが出来た。どんなに辛くとも、どんなに悲しくとも、ただもう一度お前と遊ぶため、お前に会いたい一心で・・・本来の歴史がそうだったように」
俺はのんこを見た。よく見れば、確かにのんこの面影がある。気づかなかったとはいえ、気づいても今なんだけどな。
「そうだよ!だから十年の遅刻。もう大遅刻だよ」
「・・・・・すみません」
その言葉にのんこは懐かしそうにした。俺にとってはついこの間でも、のんこにとっちゃ十年も前のことなんだから。結局ずっと遅刻しっぱなしでしたな、俺。
「今日は思いっきり思い出話に花を咲かせるといい。時間はたっぷりとある」
「まぁ、な・・・・でものんこってどこに住んでるんだ?」
顔は浅見なのに、変に意識しない。のんこが変わっていないからか、それとも運命の人だからか。
「全の家から2駅向こうのワンルームマンション。一人暮らししてる」
なんで最後、ニヤって笑ったの?期待してもいいですか?
「今、変な期待したでしょ?」
見抜かれました。
「・・・・・・・少し、ね」
「ダメ」
「ですよね」
「約束、守ってくれるまでは何も許しません」
「約束って・・・・・海?」
「そ!」
覚えてたのか。満面の笑みでそう言われ、俺は十歳ののんこの笑顔をそこに重ねた。変わったけど変わらない笑顔がそこにあった。
「まず免許取らないとなぁ・・・・」
「それまでは手を繋ぐのだけ許します」
「・・・・がんばります」
「こっちは十年も待ったんだし、そりゃ全にもそういうのを味わってもらわないと気がすまない」
「・・・・すみません」
でも付き合ってるのかな、俺たち。それだけははっきりさせたいと思うけど、今は何も言えない。今はただ再会を喜ぶことだけに集中したかった。そうしていると注文した品がやってきた。俺たちは、まぁ主にのんこが話すのを俺が聞きながら会話を続けていると、おじさんが俺の携帯を取り出した。
「さて、チャージできたかな?」
そう言いながら携帯を開く。相変わらず画面は消えたまま、LEDの輝きもない。さっきくっつけた変な機械の一部が青く明滅しているだけだ。おじさんはそれを確認してから通話ボタンを押すと携帯を耳に当てた。
「懐かしい、あの携帯」
「一応最新モデルなんですけどね・・・」
「おっかしいなぁ・・・十年前に見たんだけど」
「あぁ・・・・・君はのんこだ、間違いなく」
その言葉にのんこはクスクスと笑った。それがおかしくて俺も笑う。そんな俺たちを見ながらおじさんも小さく笑っていた。そしてそのまま口に人差し指を当てる。俺とのんこは顔を見合わせ、声を出さずに笑った。
「全、俺だ、弘だ」
おじさんがそう口にする。俺ものんこも懐かしい顔をした。あの時の自分たちを思い出して。
「十年前に飛んだ気分はどうだい?」
そう言いながら、おじさんは俺たちにウィンクをする。俺ものんこも、もう一度顔を見合わせて微笑みあった。十年前に飛んだ俺はこれから十歳ののんこと思い出を作る。そして今の俺は今ののんことあの思い出を語り合い、新しい思い出を作っていくことになる。だから俺たちは見つめあい、微笑みあった。




