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”のんこ”といた夏  作者: 夏みかん
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第23話

のんこの声を聞いた。そう思った瞬間、目の前が真っ白になった。遠くであぶないと叫ぶ声が聞こえる。体を揺さぶる激しい動きと同時に、手にしていた携帯が熱を帯びたかのように熱くなって思わずそれを手放した。


「あっちー!」


携帯がアスファルトの地面に落ちた。アスファルト?そう思って前を見ればボンネットが変形してしまった車がすぐ目の前にあった。


「おわ!」


横を見れば正面の車に斜めから突き刺さるような感じでもう一台の車が同じようにつぶれたフロントをこっちに向けていた。その瞬間、理解した。戻ったのだと。


「全、急いでこっちにこい」


聞きなれたその声に即座に反応し、落とした携帯を拾う。まだ少し熱いが、持てないレベルではない。ぶつかり合った車をかいくぐり、すぐに道路に出た。すると道路の角に白いシャツにグレーのパンツ姿のおじさんがいた。俺はおじさんに駆け寄り、もう一度事故現場を振り返った。つぶれた車の運転席にはエアバッグに突っ伏した運転手が見える。気を失っているのか動きもしない。場所的に言えば、俺は二台の車に押しつぶされて死んでるところだ。やはり俺は一度死んだんだと理解できた。


「おかえり・・・・いやぁ、分かっていても思わず危ないって叫んだよ」


苦笑混じりのその声におじさんを見る。さっきまで見ていたおじさんと違い、白髪もあってしわも増えた。老けたね。いや、こっちが俺の知ってる本来のおじさんだけど。


「あぁ、ただいま」


そう言いながらのんこの姿を探すが、誰もいない。事故の音を聞きつけた近所の住人が何人か姿を現したぐらいだ。


「のんこちゃんは来る・・・・が、遅れてる。正確に言うと、すぐには来れない状況にある」

「帰ってくる時間も知ってるのに?」

「そう。その時間に用事があるんだ、仕方ないだろ?」

「・・・・あっそ」


なんか釈然としないが、会えるのならそれでいい。なら、違う質問をするか。


「で、俺の死を嘆き悲しんで過去へと飛ばしたのって誰?やっぱりのんこか?」


その言葉に、おじさんは首を傾げた。言っている意味がわからないようだ。まぁ十年も前のことだと言いたいが、その十年前のおじさんにそう話したのはこのおじさんだ、知らないはずはないだろう。


「とぼけんなよ・・・」

「あー、そういやそんなでたらめ言ったなぁ」


でたらめって何?どういうこと?俺の顔がそう言ってたんだろう。おじさんは頭を掻くととりあえず待てと言い、携帯で警察に電話をかけた。もう既に結構な数の野次馬がいる。おじさんは電話で警察と救急車を手配すると俺の肩に手を置いた。


「お前が事故に巻き込まれたことは俺と運転手以外は知らない。とりあえず、当事者になると事情聴取や何やらでややこしいからお前はいなかったことにする、いいな?」


そう前置きし、俺は頷いた。めんどくさいのはゴメンだしな。運転手には悪いけど。


「でな、あの話、嘘だ。ああでも言わないと、お前、あの時代に残る気だったろ?」


また頷く。そうでした。あれを聞いて、俺の死を嘆いた人物に会いたかった。それがのんこかもしれないとも思ったからだ。まんまとハメられたわけね。もう怒る気もないけどさ。


「つまりはそういうことだ」


ようするにあの時代から俺を帰すための口実か。そう思いながら右手の携帯を見つめた。もう熱くもなんともない。携帯を開いてみるが、電源は落ちていた。これではもう使えないのではないかと電源ボタンに手をかけた瞬間、おじさんがあわてて俺から携帯を取り上げた。


「おいおい・・・切れてるようで切れてないんだ・・・・貸せ」


そう言うとおじさんは充電部のカバーを開けるとそこに変な機械を差し込んだ。次にマイクロSDを取り出して俺に手渡す。


「大事な記念品だ、とっとけ」

「・・・おう」


とりあえずそれを財布の小銭入れにしまう。


「携帯は預かるぞ。もう使いものにはならんし・・・明日にでも新しいのを買ってやる」


そりゃありがたいと黙って頷く。それにこの先、おじさんがそれを使って過去のおじさんと話すのを知っているからな。従うしかない。そうしないと今飛んだ俺は帰れないんだから。俺は事故現場をもう一度見た。そしてのんこのことを思い出す。もう二度と会えないと思うとまた涙が溢れそうだ。夢のような一週間、それはもう思い出でしかない。そんな俺が顔を上げると、野次馬の中に高杉の姿を見つけた。普段は通らないその場所に、何故彼女がいるのか。俺を見て驚いているような顔に見える。もしかしたらという感情が溢れる中、高杉に一歩歩み寄った瞬間、背後から声が聞こえてきた。


「全っ!」


俺を呼ぶ女の声がした。胸が高鳴る中、急いで振り返った瞬間、俺の胸に誰かが飛び込んできた。やや茶色の混ざった黒髪は肩まで伸びている。赤いポロシャツにジーンズ。それはさっき別れたのんこが着ていた服と同じようだった。違うのは、さっきまでののんこは子供で、今俺の胸の中にいるのは大人の女性だ。柔らかい感触を受け止めるが、俺の胸に顔を埋めているから顔が見えない。でもこの感触は、のんこだ。本能的にそう悟った。その瞬間から心臓の音は激しさを増した。ありえない速度で動き、胸を突き破りそうだ。たぶん、この人にもそれが聞こえているだろう。抱きしめてもいいかわからずにいたが、そっとその背中に手を置いた。困った顔でおじさんを見ると、おじさんはニヤッと笑って事故車両の方へ顔を向ける。その反応からやはりこの子がのんこなんだと思う俺がどうしていいかわからずにいると、不快そうな顔をした高杉が立ち去るのを見えた。


「十年の遅刻・・・・」

「・・・のんこ?」

「会いに来た・・・全に・・・・・やっと、会えた」


のんこは泣いていた。さっき別れた時と同じに。遅刻という言葉がひどく懐かしい。のんこは約束を守ったのだ。会いに来てくれた、それだけで嬉しくなった。相変わらず顔は見えないが、いい香りがするのんこの体を抱きしめた。俺の目も潤みだす。しばらくの間抱きしめあったあと、顔を伏せたままゆっくりとのんこが俺から離れた。そして顔を上げる。ようやく見れたその顔に、俺は絶句した。


「え?浅見?・・・・・浅見紀子?」


呆然とする俺に泣き顔の笑みを見せる。目の前にいるのは確かに浅見だ。激しく動揺する俺の肩におじさんが手を乗せた。


「中学の時にご両親が離婚されてね。旧姓手島、今は浅見紀子さんだ」

「・・・・のんこが浅見?じゃ、じゃぁ・・・なんで俺にあんな態度を?タイムスリップする前だから?」


その言葉に浅見は困った顔をしつつ頷いた。


「そう・・・・・・・全との接触はこの時までしちゃいけないっておじさんが・・・」


浅見は、いや、のんこはそう言うと零れる涙を指で拭った。


「詳しい話は後だ。とりあえず移動しよう」


おじさんはそう言うと交差点の角に向かった。俺もおじさんの後に付いていこうとすると、のんこが俺の左腕に自分の手を絡めてきた。これじゃ傍から見たらカップルじゃねーか。動揺する俺を見たのんこが十年前と変わらない悪戯な笑みを浮かべて見せた。


「好きなんでしょ?私のこと・・・だからいいじゃん」


その言葉に赤面した。ついさっき俺が言った言葉だが、のんこにとっては十年前のことのはずだ。


「・・・いや、ま、そう、だけどさ」

「十年前にも言ったけど、私も好きだから」


よくもまぁ臆面もなしに言えるな。ますます顔が赤くなるのを感じる。


「十年愛だよ、私は・・・・誰かさんは数日愛でも」

「う・・・・変わらないな、お前は・・・・やっぱのんこだ」

「うん。全のおかげ」

「そうなの?」

「そ!」


浅見ってこんなキャラだったっけ?よく知らないけど違うはずだ。タイムパラドックスってやつじゃねーの?そんな風に困る俺を引っ張るようにしておじさんの車まで連れて行く。のんこが浅見だったのに、俺はその現実を受け止められている。のんこは変わらなかった、だから俺も自然でいられると分かっていた。俺たちはおじさんの4WDの後部座席に乗り込み、すぐに車が発進する。すれ違いざまにパトカー2台が事故現場へと走っていった。

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