第22話
その瞬間、弘もまた飛んでいた。エネルギーの奔流がうねりをあげて螺旋状に進んでいる。これが時間の流れかと思いつつも体が自由にならない。ふわふわと体が浮いている感覚しかしない。白黒の波が物凄い勢いで流れいくのを見ることしかできないでいることに嫌気がさし、そっとそっちに手を伸ばした瞬間、うねりが手に触れた。そのとき、弘の頭の中に鮮明な映像が流れ入ってきた。のんこと、あれは十歳の全だ。自分がよく知る全がのんことあの外灯の下で出会っている。場面が変わり、岩の上で昼寝をする自分がいる。その近くではのんこと全が楽しそうに釣りをしていた。また場面が飛び、虫取り網を振り回す全の後ろをのんこが駆けていく。3人で滝を見ている映像も流れていった。
「これって本来の歴史、なのか?」
全が自分と一緒に来ていた場合の歴史を見ていると理解した弘は興味深く映像に集中した。次々見える映像は全とのんこのそれぞれの未来だった。小学生、中学生、高校生の二人。そして大学生の二人に社会人の二人の未来が見えていた。
「そうか・・・そういうことだったのか・・・・・・・うおっ!」
映像が途切れた瞬間、体が引き裂かれそうな感覚と同時に視界をまぶしい白い光で奪われた。ようやく感覚が戻り、ゆっくりと目を開けると、見慣れた田舎道に座り込んでいた。周りを見渡せばここは下宿先の門の前だ。そして前を歩いている背中は間違いなく全のものだ。それも十年後の、今未来へ帰ったはずの全の背中だった。メモを渡された時の全の言葉を思い出し、あわててその後を追う。そして肩を叩こうとした矢先、急に全が振り返った。正直驚いたが、平静を装う。目の前の全はかなり驚いた顔をしていた。
「これ、読んどけ」
唐突に紙切れを差し出す。それはアドバイスを書いたあのメモだった。
「何、これ・・・」
怪訝な顔をする全に対して含みを持たせた笑顔を見せる。あまり時間もない。
「これをよく読んで、確実に実行しろ」
全が折り畳んであった紙を開けると、その瞬間目の前が真っ白になった。戻る、そう意識した時には機械の前に座り込んでいた。機械のスイッチに手をかけた涙で赤い目ののんこと目が合う。
「ただいま・・・・ありがとう」
「おかえりなさい」
きょとんとしながらもそう言うのんこに苦笑し、弘は立ち上がった。ぐるっと見渡すが、もう全の姿はない。
「帰ったか・・・」
「・・・うん、おじさんと一緒に消えた」
「そうか」
のんこは顔を伏せている。そんなのんこを見て小さく笑った弘はさっき時間の渦の中で見た映像を思い出しながらのんこと同じ目線になった。
「いいかい?今から言うことを絶対に守るんだ。そうすれば、必ずまた全と遊べるから」
「ホント!?」
「あぁ、ただし、十年先だけどね」
「うん」
少し表情が曇るが、のんこはしっかりと弘を見ていた。
「君にとっては辛いことになるけど、耐えられるかい?」
のんこは力強く頷いた。それを見た弘はにんまりと笑うと、のんこをトラックの助手席に乗せるのだった。




