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”のんこ”といた夏  作者: 夏みかん
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第21話

十年前の最後の朝は五時に起きた。昨日したバーベキューのコンロを洗い、軽く庭を掃除をした。生まれてからこの方したことがないことをする。おじいさんが六時前に姿を見せたため、改めてお礼を言う。おじいさんは笑顔でまたおいでと言ってくれた。そうしてすぐにおじさんがでかい機材を運んでくる。俺が帰るために必要なものらしく、軽トラックに積んでいった。それを手伝い、朝ご飯を食べた。おばあさんにもお礼を言うとこれまたまた来てくださいと言われた。少し泣いた。午前中はすることもないが緊張感だけが増してくる。本当に無事帰れるのかが心配だ。そしてのんこのこと。本当に会いに来てくれるのか。俺がこっちへ来たときの服は薄手ながら長袖なので暑い。けれど半袖で帰ると向こうは五月三十日、真夏に比べれば少し肌寒いので半袖で帰るのは無理だ。何より事故前後で服が変わるのも変だしな。そして十二時になり、おじいさんとおばあさんに別れを告げてトラックは出発した。少し走ればのんこの祖父宅に到着。さすがに今日は姿が見えない。おじさんは俺に隠れるように言い、のんこを迎えに行った。ここでのんこの祖父母に会うことはまずいのだろうが、顔ぐらいは見たいぞ。しばらくして声が遠くから聞こえてきた。おじさんとお祖父さんの声だ。


「ではお孫さんをお借りします」

「いえいえ。毎日遊んでくれた助手さんにもよろしくお伝え下さい」

「わかりました」


その後、伏せている助手席の俺を見て半笑いののんこが無理矢理乗り込む。狭い車内に何とか乗り込むのんこが俺を見て笑っていた。おじさんは会釈をすると車を走らせ、ようやくまともに座れた俺は大きくため息をついた。


「こんにちは」

「おう、こんちわ」


あえてそれしか言わず、車内は沈黙が支配している。そうしているとすぐにあの場所、何もない田舎の十字路にさびれた外灯があるこの場所、俺が飛んできた場所に到着した。


「よし、んじゃ準備するぞ」


そう言うとおじさんが機材を外灯の下に運んで配線を始めた。勝手に外灯の線を切り、機器に繋いでいく。今日も暑い。汗がずっと出っ放しだ。のんこは今日も赤いポロシャツにジーンズ姿だ。帽子はかぶっていない。この時点で十二時半。あと一時間はあるだろうか。おじさんはてきぱきと機材を繋ぎ、何度か動作チェックを行った後、俺たちを日陰に誘導した。


「じゃぁ概要を説明する」


そう前置きし、おじさんは外灯の下を指差した。


「まずあの機械が未来の電磁波と七日前のここの残留電磁波とを融合させ、来たときと同じ波動をここに再現させる。その際、周囲には強力な磁場が発生し、機械を操作する俺も一瞬過去へ飛んで全にメモを渡す」


電磁波に関してはさっぱりわからんが、そんなことができるのが驚きだ。とりあえず頷いておいた。


「電磁波は携帯を作動させ、未来と繋がっているためにそこへ誘導し、過去へ飛んだ時間へお前は戻る」

「携帯は?壊れるの?」

「俺が電話を受けていることからして壊れはしないだろうが・・・」

「そっか」


そりゃそうだ。過去へ電話できる携帯なんかこれしかない。そう思って携帯を見やる。今やこれだけが未来と繋がっているのだから。


「のんこちゃんは少し離れた場所で待機、こいつが戻るのを見届けてくれ。んでちょっとお願いがある」


その言葉にのんこは心配そうな顔を向けた。そりゃそうだ、ただの傍観者だと思ってたんだから。


「俺たちが消えたきっかり1分後、ベルが鳴る。そしたら電源を切ってくれ」


そう言うとおじさんは機械に近づいてその箇所を指差した。俺ものんこも覗き込むようにしてそこを見た。

「ここ。ベルが鳴ったらすぐに切る。そしたら俺は戻ってくるし、過去と未来の干渉もなくなる。繋がってるのは携帯だけで、この場所に出入り口はもう発生しないから」

「わかりました」

「頼むよ」


おじさんはニッと笑うとのんこの肩に手を置いて2、3度ポンポンと叩いてみせた。のんこは少し安心した顔をしておじさんを見たあと、俺を見た。俺はのんこに微笑み返しつつ再度おじさんを見た。


「ところでさ、こっちで一週間待ったのはなんで?」


単純な質問だが、一番の疑問ではある。なんで一週間も待つ必要があったのかがずっと引っかかっていた。


「この機械の準備にそれだけの時間がかかった。今この場所は目に見えない時空の歪みがあるんだ。それを拾いつつ、未来の転送時間に起こった電磁波をここで受け止める。毎日ここではお前が来た時間に時空の歪みが発生していた。ここを通った人がいたらどこかの時間に飛ばされてしまうほどのエネルギーだ」


おじさんは俺たちを遊ばせつつもここを封鎖し、その時間に誰も来ないようにしていたそうだ。結局誰も来なかったこともあって無駄足だったそうだが。しかしそんな強烈なエネルギーがずっと残ってるってすごいな。


「お前が帰るとここのエネルギーもゼロになるから、もう大丈夫なんだが」


そう言うと、おじさんは機械の手前二メートルの場所に小さく円を書いた。そしてそこからさらに三メートルほど離れた場所に円を書く。最初に書いた円は俺の、2個目はのんこがいるべき場所だそうだ。


「あと二十三分か・・・」


おじさんが時計を見る。少し緊張感が増しているが、まだ余裕があった。おじさんは機械の横に置いていたバッグから紙を取り出し、俺に差し出す。


「なに?」

「そこにはお前から聞いた未来の情報が書かれている。間違いないかチェックしろ」


よくわからないが、言うとおりにした。内容的にはおじさんやのんこに話した内容が書かれてあった。もちろんのんこだけに話したゲームや歌手のことは書かれていない。ただ大学のことや携帯のことなどはこと細かく書かれていた。


「変えちゃならないことなんでな・・・確認したか?」

「うん、OKだよ」

「よし」


おじさんは紙をしまうと機械のスイッチを入れた。よく分からないが低くて鈍い音が断続的に続いている。


「機械はOK・・・・あとは時間を待つだけ」


こういうときって、直前にトラブルが起こってギリギリで成功するんだよな、映画とかは。けど、帰れなくても明日またチャレンジできそうだ。電磁波はずっと残ってるんだから。そう考えると気分は楽だった。でも、これならきっかり一週間で帰る必要があったのかは疑問だが、早く帰らないといけないのは分かる。本来いてはいけない人間なんだから。


「全?」

「ん?」


不意にのんこに話しかけられてそっちを向いた。どこか不安そうな顔をしているのは当然と言える。


「どした?」

「・・・・・・なんでもない」

「なんじゃそりゃ」


俺はずっこけ、おじさんは苦笑した。のんこは顔を伏せている。そんなのんこの頭をそっと撫でてやる。


「ありがとうな・・・本当に感謝してる。のんこに会えてよかった」

「・・・・うん」


それっきり、時間までのんこは何も言わなかった。別れの寂しさが痛いほど伝わってくる。だから俺も何も言えずにいた。


「さぁ、そろそろだ、準備しろ」


そう言われ、俺は所定の位置に付いた。おじさんが目の前に立つ。


「お前に会えてよかった。ノーベル賞も夢じゃなくなったよ」


そう言って右手を差し出してきた。今までおじさんにそんなことを言われたことがないせいか、どこかくすぐったい。けれど俺も右手を差し出し、がっちりと握手をする。


「俺も。おじさんがいてくれてよかった」

「あとは未来の俺の指示に従え」


そう言うとおじさんは俺をハグしてきた。俺もおじさんを抱きしめる。自然と目が潤んできたが、ぐっと我慢をした。


「ありがとう、おじさん」

「ああ」


背中をポンポンと叩かれて、おじさんは離れた。そのまま小さく笑うと機械の元に歩いていく。そんな俺の前にのんこが立つ。俺は地面に片膝をついてのんこの目線に自分の目線を合わせた。


「ありがとうな、のんこ。楽しかった」

「・・・・うん、ありがと」

「忘れないから。この一週間のこと、絶対に忘れないから」

「私も・・・・忘れない」


呟くようにそう言うのんこの目から涙がこぼれる。俺はそんなのんこの涙を指でそっと拭ってやった。


「未来で会おうな?」


そう言った瞬間のんこが抱きついてきた。勢い良すぎて思わず尻餅をついてしまったよ。俺はそんなのんこを受け止めながら、涙を堪えるのに必死だった。


「いい女になれよ」


小学生に言う台詞ではないが、そう言いたかった。のんこは俺の服をぎゅっと掴んで離さない。


「十年後・・・長いけど、十年後、また会おう」

「・・・・うん」

「もし俺のこと忘れてたら、こっちから会いに行くから・・・彼氏がいても邪険に扱うなよ?」

「うん」


のんこは胸に顔を埋めたままそう言った。俺も少しきつめにのんこを抱きしめる。


「ありがとう、全」

「礼を言うのはこっち」

「ありがとう・・・・・・」


その言葉に、俺は泣いた。のんこに何もしてやれなかった。ただ一緒に遊んだだけだ。それなのにこんなに感謝をされたことが嬉しかった。のんこに会えたことが、本当に嬉しい。だからこそ、このままここに残っていたかった。一緒にいたいと思った。けれど、それは出来ない。


「全、そろそろ」


おじさんの言葉に、俺はそっとのんこを引き剥がすようにしてみせた。そしてその頭に右手を乗せて優しく撫でてやる。


「またな」


俺は涙でぐしゃぐしゃの顔で精一杯の笑顔を作った。のんこはまだ泣いている。もう一度のんこが俺を抱きしめ、それから自分が立つべき円の中に入った。俺に背を向けた状態で。


「あと二分」


おじさんの言葉に頷く。俺は携帯を取り出して右手に握った。それからすぐに携帯を開いてカメラモードに切り替える。


「のんこ!」


俺の声に応えるように、のんこがゆっくりと振り返った。


「笑え!」


カメラをのんこに向けてそう叫んだ。けれどのんこは泣いている。時折しゃくりあげるようにしながら。仕方なく泣き顔ののんこをシャッターに収めようとした瞬間、のんこは笑った。小さいながらもしっかりとした笑顔だった。


「俺もお前のこと、好きだぜ」


その言葉にのんこはびっくりした顔をしたが、恥ずかしそうな笑顔を見せたあと、また泣いた。俺は大急ぎでさっきの画像をメモリーカードに保管する。


「あと三十秒だ!」


その言葉を聞きながら、俺はのんこを見ていた。のんこもまた泣きながら俺を見ている。するとのんこがゆっくりと右手を上げて、それを小さく振ってくれた。俺も同じように手を振る。涙で目の前がかすむが、それでものんこを見続けた。


「5、4、3、2・・・・・」


1という言葉は聞こえなかった。その瞬間、轟音とともに目の前が爆発したような閃光に包まれたからだ。でも、確かに聞こえた。その瞬間、俺の名前を呼ぶのんこの声を。


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