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”のんこ”といた夏  作者: 夏みかん
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第20話

夕日が傾き始めた頃に戻ると、中庭ではバーベキューの準備が出来ていた。おじさんの計らいでこうなったそうで、のんこの祖父母も呼ぼうとしたみたいだが丁重に断られたそうだ。この数日はのんこがすごく明るくなったことを喜んでいたそうで、邪魔をしたくないとか。自分たちがいることでのんこが自分を出せなくなることを危惧したのだろうとおじさんは語った。その後、先にのんこを風呂に。やはりと言うか、こっちの風呂のでかさに驚いていた。次に俺が入り、川での汚れを落とす。そしてバーベキューが始まった。のんこには俺の偽名を通すように言い、のんこも納得した。ちなみに夕食の間は一度も『全』と呼ばなかったのんこは本当に頭の切れる子だとしみじみ思ったよ。肉に海老、野菜、どれも美味しい。おじさんはデジカメを用意していて写真を撮りまくる。が、さすがというべきか、おじいさんやおばあさんと俺を一緒に撮ることはしなかった。俺も携帯で写真を撮るが、夕闇には弱くてあまり撮れず。終始笑顔が溢れる夕食に俺も自然と笑顔になった。途中でおじいさんとおばあさんにお世話になったお礼を言うとまたおいでと言われて泣きそうになったのは秘密だ。もう来れないんだけどね。十年後に来ても、俺の姿は今と何も変わっていないんだし。言い訳もできないしな。そうしてバーベキューも終わり、片づけをする。コンロは明日早起きして洗おうと誓った。そして花火。どこで買ってきたのかしらんがもう大量にある。田舎だからちょっとした打ち上げ花火も可能だ。おじさんは軽トラックの荷台に俺たちを乗せ、昼間行った川原へと向かう。確かにここでなら迷惑は掛からないだろう。のんこも俺もかなりはしゃいだ。年甲斐もなくおじさんもはしゃいで川に足をつっこんでいたが。派手な花火はあっという間になくなり、あとは地味なものだけが残る。おじさんは川の近くに腰掛けて満点の星空を見上げていた。今更ながらに気づいたけど、ここの星は都会のものとは違う。周囲が暗いせいか多くの星が強い光を持っていた。同じ星空の下にはいられないが、星空の下にはいられる。そう思いながらしゃがみこんで花火をしているのんこの横に座って別の花火に火をつけた。


「前はああ言ったけどさ、別に俺に会いに来なくてもいいぞ」


そう言った瞬間、すごい速さでのんこの顔がこっちを向いた。怒ったような困ったような顔をしている。


「別に変な意味はないよ。ただ、十年ってのは長いよ。その間に俺のことも忘れちゃうかもしんないし」

「忘れない」

「でもさ、俺は十歳の頃の記憶なんてあんまり残ってないんだ・・・だから・・・やっぱ・・・」

「覚えてる!絶対に会いに行く!」

「でも・・・」

「行く!」

「・・・・わかった、んじゃ、未来で会おう」


少し微笑んでそう言うと少しのんこの表情も和らいだ。


「・・・・約束」

「ん?」

「全も約束、忘れないで」


約束ってなんだ?そう思いながらも顔には出さない。約束って未来で会うやつ?彼女になってくれってのは違うし、なんだっけ?


「・・・・海」

「あぁ」


思い出した。うん、もう忘れない。


「海に連れてって・・・・全が」

「わかった」


俺は笑った。のんこは笑っていない。十年前の約束をのんこが守れるのか疑問だ。もし十年後、彼氏とか出来ていたら行けるはずもないんだから。けれど今はそんなことはどうでもいい。約束をした、それでいい。


「連れてく」

「うん」


とびっきりの笑顔ののんこがいた。俺はこののんこを忘れない。ただ何となく生きてきた俺が前に進める力をくれたのんこの笑顔を。この気持ちを絶対に忘れない。そんな俺たちの様子を微笑を浮かべながらおじさんが見ていた。最後の花火が終わり、周囲が完全な暗闇に包まれた。俺たちは名残惜しくも立ち上がり、おじさんは後片付けを始めた。


「全・・・ありがとう」

「こっちこそ」

「好きだよ」

「ありが・・・・え?」

「大好き」

「・・・・・・ありがと」


思わぬ告白にドキドキしたが、十歳の女の子の心情がわからない。けれど好きと言われて嬉しくないはずもなく、俺は照れた笑いを浮かべた。のんこはそっと俺の手を握る。そんな俺たちを先導するおじさんのニヤつきが痛いが、そのまま黙って付いていった。そして先にのんこをトラックの荷台に乗せる。


「エロいことすんなよ?」


おじさんがボソッと耳元で囁いた。


「しねぇし」


それだけを言って俺も荷台に乗るとのんこが不思議そうな顔をしていた。今のを見ていた上に、俺の言葉を聞いていたからだ。


「なに?」

「え・・・あ、君に変なことをするなよって言われたから、しないって話」


正直に言ってやった。のんこは荷台の小窓からおじさんを睨んでいたが、おじさんはニヤニヤしてやがる。そのまま会話もなく、トラックに揺られていた。俺の左腕にピタリとくっついているのんこの体温を感じつつ、明日のことを考える。未来へ帰ったら、夏休みになったらまたここに来よう。おじいさんたちには会えないけど、山の川や滝、さっき花火をした川なんか巡るのもいいかもしれない。のんこが一緒なら最高なんだろうけど、それは期待しないでおく。そうして数十分後、おじさんはのんこのお祖父さんの家の前にトラックを止めた。


「明日は昼過ぎに迎えに行くから」

「はい」

「何も持ってこなくてもいいからね」

「はい」


丁寧な返事だ。育ちがいいのか、精神年齢が高いのか。


「じゃぁ、のんこ、また明日な」


あえてバイバイを言わない。それは明日言うべき台詞だ。


「うん、明日」


のんこは少し笑っていた。無理をしているようには見えない。


「おやすみ」

「おやすみ」


のんこもバイバイを言わなかった。おじさんはのんこに軽く手を上げるとトラックをUターンさせる。荷台の俺はのんこに家に戻るよう言いながら手を振った。のんこも手を振り返して家に戻っていった。ため息が漏れる。空を見上げれば満天の星空だ。そしてこの空を見るもの今日で終わりだと思うと感慨深い。心に何か寂しいものを感じる。夏休みが終わる前の寂しさのような感情だ。絶対に忘れられない夏がここにある。十年前の夏、けれど、今の夏。それを感じながら、星空を見続けた。


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