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”のんこ”といた夏  作者: 夏みかん
15/26

第15話

今日も快晴である。田舎とはいえ、山のせいか暑さはましだと思えたが、外に出るとやはり暑い。時間は八時半。今日は遅刻するまいと早めに用意をしていた。五分の遅刻で睨まれるのはもうゴメンだと思いつつ、まるで十歳ののんこを彼女のように思っている自分に笑ってしまう。すでに原チャリのカゴにはタオルを入れている。水着はおじさんが買ってきた水着には見えない短パンタイプなので装着済みだ。場所も釣りをしたところに決めている。今日も弁当と飲み物を用意してくれたおばあちゃんにお礼を言い、かなり早めに家を出た。今日は先に行ってのんこを待ち、少しでも遅れたら嫌味を言ってやろうと思ったからだ。十歳も年下の子を相手に自分でも大人げないと思うが、どうしてもそうしたかった。意気揚々とのんこの祖父の家へ着くと、何故かそこにはのんこの姿があった。約束は九時、現在は八時四十五分、どんだけ早いんだよ。のんこは意外な顔をしつつもいつものすまし顔で俺を見やった。


「今日は早いね」

「いや・・・そっちがな」

「うん。でもたまたま」

「・・・・そうですか」


たまたまこっちが早かったらそっちも早いって、これってどうなんだ?ま、とにかく時間は早いがのんこを後ろに乗せてゆっくりめのペースでバイクを進めた。時間的にまだ水も冷たいはずだ。そう考える中、何気にさっきののんこを思い出した俺は少し後ろを振り返る仕草を見せてのんこに質問をした。


「水着は下に着てるの?」


今日ののんこは赤と白のTシャツに短パンのジーンズ姿だ。大人っぽく見えるスタイルだが、さすがに俺も慣れてきたのかドキッとはしなかった。


「着てる」

「どんなの?」

「・・・・・・・・・ワンピース、ピンクの」


少しためらったのは何故だ。だがわかる気もするのでそうかとだけ言っておいた。十歳ってのがどれぐらいの精神年齢かって言えば十歳なんだろうが、のんこはそれよりも高いようだ。今更ながらにそれに気づいた俺は今後は同年代の子と同じように接するようにしようと決めた。セミがせわしなく大量に鳴く中をバイクが進んでいく。既に行き慣れた場所だけに軽快に飛ばすと、すぐに目的の場所に着いてしまった。釣りの時と同じ場所にバイクを止め、俺とのんこは沢に下りた。相変わらず誰もいないそこはまだ陽が当たりきっていないこともあって少し肌寒い。まずはそこで軽く水遊びをすることになり、俺はTシャツを着たまま足だけを水に浸ける。思った通りかなり冷たいが、日差しもきつい分、小一時間もすれば泳げそうだ。のんこの方を見れば大きな石に隠れるようにしながら短パンを脱いでいた。どこか大人の女性を匂わせる行動にやらしい気分も感じるが、さすがにそれだけで終わる。Tシャツを脱いだのんこはピンクと白のワンピース姿になり、川の手前で立ち止まった。そのまま膝上まで入っている俺を見てくる。


「冷たいけど、寒くはないよ」

「その場所だと、私はお尻まで浸かっちゃうけど?」


のんこにそう言われて気づいたが、背丈が違うんだよな、忘れてた。俺は岸に近づくとのんこに手を差し出した。


「おいで」

「んー」


足場が悪いせいか、一瞬ためらいつつも手を掴み、左の足首までをそっと水に浸けた。


「つめたっ!」

「慣れるよ」

「んー・・・」


一瞬俺を睨んだのは何故?のんこは右足も浸けるとぶるっと震えてみせた。俺はのんこの手を引きながら陽の当たっている場所まで移動する。のんこが躓かないようにゆっくりとした足取りで。やはり太陽の力は偉大なのか、ここだと水の冷たさも多少なりとも緩和されている。のんこは二歩ほど前に進み、ぐるっと川を見渡すようにしてみせた。少し先で魚が跳ねる。


「今日はカニを追っかけても大丈夫だよ」


俺のその言葉にのんこは軽く睨んでくる。釣りの際に水にはまった事を突かれての仕草だった。


「結構イヤな人だね」

「冗談だって!」


俺はそう苦笑しながらポケットから携帯を取り出した。一応ビニール袋を何重にもして防水にした状態で。カメラを起動させ、カニを探すのんこの姿を写真に収める。シャッター音というべきメロディを聞いて怪訝な顔をするが、嫌がる様子は見せなかった。数枚写真を撮り、携帯を荷物の入れたバッグにしまうとTシャツを脱ぐ。まだ水は冷たいがお構いなしに腰まで浸かった。やっぱ冷たいが、どこか気持ちよくも感じられた。


「魚、結構いるなぁ」


釣りをした時のことを思い出すが、水面に反射した光のせいかここまでは見えなかったよなぁ。手で掴めそうな気もするが、それが無理だともわかっている。のんこは膝までの場所から動いていない。その場所から首を伸ばして魚を見ようとしていた。そんなのんこに手で水をかけてみた。やはりというか、冷たい水にのけぞったのんこはそのままバランスを崩して水の中に尻餅をついて飛び上がる。


「つめたっ!うー!全!」

「あひゃひゃ!」


笑う俺を睨むが、俺が腰まで水に浸かる位置にいるせいか来ることはできまい。さらに笑っていると結構大きめの石を拾い上げたのんこがそれを頭上に掲げた。


「いや!ちょっとまて!危ないって!」


だがのんこはそれを俺の足元に投げつけた。もちろん届くはずもなかったが、大きな音をさせて石は水中に沈んだ。


「今度したら、もう遊ばない!」

「うへーい」


ぷいっとそっぽを向くのんこも可愛い。俺はそんなのんこに近づくと機嫌を取ろうとした。が、反撃された。のんこは足を振り上げて俺に水をかけてきやがった。さすがに水に慣れていない上半身にかかると冷たい。変な声が出る。


「ひょー!」

「うりうりー」


のんこは左右交互に蹴りを見せて水をかけてくる。俺も反撃しようと前に進んだ時、調子に乗っていたのんこがバランスを崩して後ろに倒れかけた。あわてて手を掴んで引き寄せたが、相手の体が軽すぎたせいか俺のほうが勢い余って後ろに倒れこんだ。のんこは俺の体の上に乗っかっている。俺はずぶ濡れになり、のんこはそうでもない。


「つめてー」


髪の毛も濡れた状態の俺のつぶやきに、のんこが大きく笑っている。俺は左腕でのんこの華奢な体を支えつつも大笑いをした。石でケツをうったせいか痛いけど。そのまま立ち上がり、一旦岸に上がる。さすがに泳ぐにはまだ寒いから、カニを探すことにした。石をひっくり返すと結構いるもんだな。のんこは小さなカニを追いかけ、大きなカニには驚きながらはしゃいでいる。そうしていると汗ばんできた。俺はのんこを横目に足を水に浸ければ、あまり冷たいとは思わなくなっていることに気づく。そのままばしゃばしゃと水に入ると全身を水に沈めた。冷たいが、すぐに慣れた。そのまま釣りをした大きな石の方まで泳いでいく。


「ぜーん!冷たくないぃ?」

「最初はな!気持ちいいぜ!」


俺の言葉に反応したのんこが足を水に浸けた。そのまま腰まで浸かると一気に水の中に体を沈ませる。一瞬寒そうにしたけれど、すぐに同じように泳ぎ始めた。俺は一旦岸に上がるとおじさんが用意してくれた水中眼鏡を装着。再度水に飛び込んで奥の深い場所を目指した。するといるわいるわ、魚の群れ。こんなにいるのに何故8匹しか釣れなかったと思うほど。二メートルほどの深さに結構な数の魚がいるが、手掴みは無理だ。


「すんげーいるぞ!」


水面から顔を出した俺はのんこに水中眼鏡を手渡すが、サイズが合うはずもない。苦笑して回収し、ゴムを調節してから再度のんこに渡した。今度はぴったりと合い、のんこも顔を浸けて魚を追いかけるように見ている。そのままどんどん深い場所に向かった。さすがに足もつかない場所だけに、俺も付き添うようにして進む。のんこは俺の腕に掴まるようにしながら魚を見ていた。


「すごいね・・・」

「この間は魚にナメられてたんだな」

「うん」


のんこは笑った。濡れた髪がまた別の印象を与える。たぶん、十歳の俺だったら心をときめかせていただろうな。二十歳の俺でも少しくるものがあるんだから。そういえば、この年っておじさんに一緒に行くかって誘われたんだよな。田舎だし、めんどくさいって思って断ったんだ。今考えるとすごくもったいないことをしたなぁ。当時、ってもこの時代だが、俺がのんこと出会っていたらロマンスの一つや二つが生まれてたはずだ。きっとそうに違いない、そう思いたい。馬鹿だな、俺は。美人の彼女が出来るチャンスを棒に振ってたなんて。


「全・・・・」


そんなことを考えているとのんこが声をかけてきた。


「なに?」

「ちょっと寒い」


確かにここは日陰で水も冷たい。そのままのんこを腕に掴ませて岸へとあがると荷物を手に少し大きめの石の腕に座った。太陽が照り付けていることもあって石はかなり熱いが、冷えた体を温めるには十分だ。のんこを石の上に寝転がせ、俺はそんなのんこも写真に収める。


「水着の写真ばっか撮らないで」

「んー、でもさ、こういう記念も必要でしょ?」

「うーん」

「十年後に再会したとき、絶対懐かしく思うぜ?」

「うーん・・・そうかなぁ?」

「そうそう」

「でも全は懐かしくないでしょ?私は十年後だけど、全は何日か後だし」

「のんこが懐かしがればいいじゃん」

「まぁ、んー」


納得しつつも納得してない感がありありだな。でも確かにそうだ。俺には数日後でものんこは十年。逆に言えば十年後ののんこを知らないけど、のんこにとっては今の俺を知っている。容姿は変わらないんだし。なんか複雑だ。懐かしいと思ってくれるのかなと思う。それ以前に、再会してくれるのかな?


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