第14話
事故で死んだ?いや、俺はここにいる。生きて過去へと飛んでいる。暑さも空腹感ものどの渇きもあるし、味覚もある。生きてるぞ。そんなことが顔に出ているのか、おじさんは苦笑しつつも説明を続けた。
「死んだお前を悲しむ人物がお前の魂を記憶の時間に呼んだ。それがここだ」
「死んだ俺を・・・悲しむ?」
「誰かは知らないが、お前が死んだことを深く悲しんだその人物は時空連続体に干渉を与えて魂をそこまで引っ張った。自分の中で安全で平和だった思い出のこの場所へ。だが、同時に事故に遭ったことを強く否定したために事故が起こった瞬間のお前の肉体をこっちへよこし、偶然にもそれが融合した。それが今のお前だ。そして帰ることによってその人物の願いは成就され、お前は生き延びることができる」
よくわからない。誰が念じてここへ寄こしたのか。魂はその人物によってここへ連れてこられた。ついでにやってきたのが肉体。だからまず帰る必要がある。事故を回避してその人に生きて会うために。
「よーわからんが、その人物は誰?」
「わからん・・・現時点では謎だ」
「でも未来のおじさんは知ってるわけだろう?」
「そう。だからお前も帰ればそれがわかる」
「・・・絶対に帰る理由ができた。帰る、俺はなんとしても!それが誰か知りたい!」
一瞬それがのんこではないのかと思った。だが、俺は未来ののんこを知らないし、彼女が俺が事故に遭ってそこまで悲しむ必要は無い。すでに過去へ飛んだ事実、生きているという事実を十歳の時に知っているのだから。だったら誰なんだろう。
「とにかく、ここにいたいと思うな。絶対に帰るんだぞ」
その言葉に俺は大きく頷いた。帰る理由が明確になった。
「よし。まぁとりあえずは帰るまでこの世界を楽しめ。彼女と一緒に」
それが引っかかる。何故おじさんはやけにのんこと一緒にいろというのか。やはり鍵を握っているのはのんこなんだろう、俺はそう思った。おじさんに聞いてもはぐらかされるだけだろうし、未来に帰ればはっきりもする。ただ、自分が死んだというのは信じられない。そして俺がここへ飛ばされた理由も。この世界の居心地の良さに帰れなくてもいいと思い始めている自分がいたが、そうもいかない理由もできた。とにかく明日はのんこと川で泳ぐ。幸いにもずっと天気はいいみたいだし。でもこの間のような夕立だけは気をつけないと。
「明日は彼女の水着姿を拝めるわけか、羨ましいねぇ」
茶化す声におじさんを見れば俺の携帯を差し出していた。俺をそれをひったくり、おじさんを睨んだ。
「メモリはまだ随分空いてるようだし、いっぱい写真撮っとけよぉ。なんせこんな経験、絶対に出来ないんだからな」
意味ありげにそう言うが、まぁ、そりゃそうだ。十年前の世界に来た思い出という感じのものになるのは間違いないわけだし。だからといってのんこばかりを撮る必要はないわけだけど。俺は握り締めた携帯電話を見つめ、風景やのんこ、おじさんを撮って残そうと決心した。だからか、意味ありげで嫌なにやけ面をしているおじさんには気付かなかった。その後は風呂に入り、すぐ夕食となった。田舎の料理だからか、野菜なども新鮮で美味い。一人暮らししていた俺にとってはごちそうばかりだ。こんなのを毎日食べてると、帰るのが嫌になってくるけど、帰らなくちゃいけない使命感が勝る。確かにここは居心地がいい。ずっと居ても、帰れなくてもいいとさえ思えてくる。だけど、さっきの話を聞いた以上、それはダメだ。夕食を終えて部屋に帰って寝転びながらも頭を過ぎるのは葛藤。残りたいと思う気持ちと帰らなければいけないという気持ち。見上げた天井は昔泊まった民宿の天井を思い出させる。いつかこの天井のこともそういう風に思い出すのかなとぼんやり考えていた矢先、おじさんが入ってきた。
「明日は川で水泳か、優雅な生活だな。だけど忘れるなよ、メモのこと」
「覚えてる。救急セットだろ?でもそれは明後日だよ」
俺は気だるく答えた。
「そうだったっけ?」
自分が、まぁ未来の自分だが、渡してきたメモの内容を忘れるなよ。
「しかしあれだな。そういう研究をしている俺が身近にいるお前がタイムスリップを経験、凄い偶然だ」
座りながらそう言うおじさんに顔を向け、俺は鼻でため息をついた。
「本当に偶然なのかな?なんか、話聞いてると必然だろ?」
「まぁな、時間的に通ってきた道だし。現にこの時代のお前は未来の自分が来ていることを知らずのん気に生きている。お前の時代の俺とのんこちゃんは過去にお前と会った事実がある。どれも事実で必然だ」
「タイムパラドックスだっけ?そういう事情もわかるけどさ、なんかヒントぐらい欲しかったね。十年も俺を見てニヤニヤしてたかと思うと腹が立つ」
俺はごろんと転がっておじさんに背を向けた。本当にムカついてきたからだ。
「助言したら宇宙が崩壊だ、そっちの方が大事だろ?」
返事はしなかった。正直俺にとっちゃ宇宙よりも我が身だし。
「ま、そりゃそうだ」
おじさんは手に持っていた缶ビールのフタを開けて一気に半分ぐらいを飲んだ。俺の分はないらしい。余計に腹が立って無視していると、どうやらそのまま寝てしまった。まだ八時過ぎだというのに健康的この上ない。
「必然か・・・お前にとっても、彼女にとっても・・・いや、彼女にしてみればこれこそ真理だ」
そんなおじさんの謎めいた言葉など、眠っている俺には聞こえない。もし聞いていたとしても意味がわからず問い詰め、結果無視されたということだけは予想し易い。




