第13話
その日はもう夕方で家路に着いた。午前中で虫取りも終わり、昼飯後は軽く川遊びをした程度だ。のんこを送り届けたのが三時を回ったぐらい。暑さにやられたせいか、少々疲れが溜まっている。暑いながらも風通しのいい部屋で転がっていたら、すぐに眠ってしまった。おそらく小一時間程度寝ていたんだろう、何か話し声で目を覚ました俺はゆっくりと意識が覚醒していくのを感じながら頭に話の内容が勝手に入ってきた。
「やはりか・・・影響が出るだろうとは思っていたけど、しゃーないか」
おじさんの声だ。電話でもしてるんだろう。俺はゆっくりと目を開けてのっそりと声のする方へと頭を動かした。綺麗なLEDがキラキラしてる。どっかで見たような携帯だ。
「手紙の謎は解けた。あとは・・・そうだな、当日と、あの子か・・・・・ん?んん、まぁそうなるな」
内容はイマイチだが俺に関することだな。まてよ、あの携帯、俺のじゃん。ってことは相手は一人だ。俺は勢いよく身を起こした。それに気付いたおじさんは少々あわてた風ながら俺を見て小さく笑った。
「じゃぁ当日にな。十年後が楽しみだよ」
そう言うとおじさんは電話を切った。
「おいおい!なんだよ、勝手に!しかも切るか?俺にもおじさんと話させろよ」
「俺とすればいいだろ?」
「はぐらかすだろ?俺の時代のおじさんとしたいんだよ」
「同じだ。俺は俺、はぐらかされるぞ」
言葉に詰まった。確かにそうだ。全てを知っている未来のおじさんがこの後に影響を及ぼすかもしれないことを話すとは思えない。それにどっちも同じ人物だ。嫌な人には変わりがない。
「まぁ落ち着け。少しだけ説明してやる。まず未来を示した手紙というかメモのことだ」
今現在一番気になっている事からか。とりあえず俺は一つ頷いてあぐらをかいた。おじさんに対してしっかりとした説明を求めるという態度を示した感じだ。
「ようするに、あれは俺だ。俺が過去へ飛んでお前に渡す、ということだ」
「意味わからん」
率直に思った事を口にしてやったが、おじさんはそれを予想済みというようにニヤリと笑いやがった。
「お前が未来へ帰るために開くタイムトンネルの範囲は意外と広いことが判明した。計算上のことだったが、今の電話でそれを確認した」
「広いってもあの何にもない場所だろ?影響なんかあるの?」
「まず、お前の携帯電話に未来からのタイムトンネル発生の電磁波が干渉する。未来のお前が飛ぶ際には向こうでの影響は皆無だが、その分こっちへ影響が出る。それが半径五メートル程度の干渉領域を生み出し、それに触れた者を時間の旅に強制連行、ってことになる」
「なんで向こうは平気でこっちに影響でるのさ?しかも俺が飛んでくるのは実際一週間も前だぜ?影響が出るなら来た時だろ?」
俺は素朴な質問をしたつもりだったが、おじさんは一瞬感心したように表情を変え、それから小さく微笑んだ。
「さすがに大学生というべきかな。お前の言う通りだ、矛盾していると言える」
そう言っておじさんは小さなテーブルにメモ用紙を置いて何かを書き始めた。一本の縦線の真ん中から横棒を引いたただそれだけのもの。平たく言えばカタカナのトの字だ。
「まず発端は最大の矛盾であるお前が未来へ帰るというもの。この際に莫大なエネルギーが働いてお前は過去へ飛んだ瞬間へ戻る。正確には戻った反動がその場所と時間に大きく干渉してしまいお前は過去へ飛ぶ」
それが意味わからんっちゅうの。過去へ飛んだから戻るのではなく、未来へ戻ったら過去へ飛んだっておかしいだろ。
「つまり、ここに巨大エネルギーが働いて未来へ飛ぶ」
おじさんはトの字の横棒の端っこから縦線の最上部へ向けて曲線を引いた。メモ上のトの字はアルファベットのPのようになった。
「入れ替わるように正規の時間上のお前がその爆発エネルギーの余波で過去へと飛んだ」
縦線の上と下を曲線で結び、Dの反対向きとPが合体したような感じになった。
「帰る時のエネルギーは帰った場所に影響は出してもやってきたお前には影響は無い。ここまではわかるか?」
線の一番下には交差はない。カーブを描いているが一本の線に他ならないからだ。だから頷く。そんな俺を見ておじさんは一つ頷いた。
「帰る際のエネルギーを発生させるためには未来の、お前が飛んだ時点の時間の影響も必要になる」
「なんでさ?帰るためのエネルギーが未来に作用してるのに、それが必要っておかしいじゃん」
「そうだ。だが実際そうなる。で、膨大なエネルギーを発生させるために俺がお前の近くにいる必要があり、結果俺も時間の空間へと飲み込まれる。まぁ、実際俺はお前にメモを渡し、元の時間に戻るだけだが」
肝心な所をはぐらかしながらそう説明した。
「なんですぐ戻ってこれんの?俺はダメなのにさ」
「よくわからんが未来の俺がそう言ってた。つまりはもう起こったことなんだ、理由は知らん」
ようするに結果があるってことだけかよ。
「じゃぁ、まぁ、とりあえず納得するけど、これだけははっきりさせてくれ」
俺はもう時間の理屈とか帰るための過程とかどうでもよくなっていた。ただ知りたいのはただ一つ。
「なんで俺はこの時代に来たんだ?というか、何で帰ることが始まりなんだ?来たから帰るんじゃなく、帰ったら来ちゃったっておかしいだろ?」
そう、最大の矛盾にして最大の謎。行ったら帰るんじゃなく、帰ったら来たってのはどう考えてもおかしい。これが納得できない限り、無事帰ってもすっきりしない。おじさんは俺をじっと見つめたまま口を開こうとしなかった。でも、俺も引き下がるわけにはいかない。しばらく無言の膠着状態に陥ったが、ついにおじさんがその口を開いた。
「いいだろう。いいか、よく聞け。お前は事故に遭った」
そうだ。それが発端のはずだ。俺はうなずいた。
「その際、お前は死んでいる。即死だ」
「・・・・え?」
言っている意味がわからず、俺は間抜けな顔をしておじさんの言った言葉をもう一度頭の中で繰り返した。




