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”のんこ”といた夏  作者: 夏みかん
12/26

第12話

結局服は十分ほどで乾き、俺たちはバイクで山を降りた。確かに十分ほど下った場所にこじんまりしたコンビニがあった。俺はおにぎり三個とお茶、のんこはサンドウィッチと紅茶を買って外に出た。相変わらず日差しは強く、さっき夕立があったことなんか嘘のようだ。とりあえず涼しい場所でと思い、昨日行った川へ向かう。少しして着いたけれどさっきの雨で水かさが増している。仕方なくもう少し上流へいけば手ごろな岩が多い日陰が見えたのでそこへと向かった。いざという時にすぐ非難できるよう、土手に近い位置で足を川につけながらさっき買った昼ご飯を広げる。日影は涼しく、雨のせいか冷たい川の水が暑さを取り払ってくれているようだ。真夏の日差しを受けてキラキラと点滅するように輝く水面が落ち着きと、なんというか、こう、心の中にある汚れたものを取り払ってくれるような感じがした。


「大学って面白い?」


おにぎりを食べ終わったのを見計らってか、唐突にのんこがそう聞いてきた。


「まぁ、面白いっちゃ面白いけど・・・ま、何も考えずに行ってるからな」


綺麗な水面のせいか、俺は素直な感想を口にしていた。


「そうなんだ。でも芸能人とか来るんじゃないの?」

「芸能人って、学園祭か?ウチには来ないよ。ミスコンとか、なんたら発表会みたいなのはあるけどね」

「ミスコン?」

「学校で一番の美人を決めるってやつ。ウチは何故か五月にするんだよな。普通は秋にするもんなのに」


そういや、俺がここへ飛ばされた日がその日だったな。なんかもう、遠い昔のような気もする。お茶を口に含みながらそんなことをぼんやりと考えてしまう今の状況って、やっぱ異常なんだろうか。


「水着審査とか?」

「あー、ウチはないな。私服と、用意されたドレスと。あと特技披露とか」

「ふぅん」


なんか興味津々だな。食べかけのサンドウィッチを膝の上に置いてしまっている。


「ま、だいたい選ばれるのは新入生だけどね。でも今年は同学年の女子だった。去年はエントリーしなかったのに、何故か今年は出たんだ。ま、みんな彼女がナンバーワンって知ってるから去年のクイーンは可哀相だったけど」


浅見の顔を思い浮かべる。去年入学した時から誰もが認めるナンバーワン。去年ミスコンを辞退した彼女が今年エントリーしたのは新入生に可愛い子がいなかったからだとか言われてたな。けど、いるぞ、可愛い子。そりゃ浅見には劣るけど、それでもレベルが高いのが。浅見を口説き落としたのはミスコン委員会の力技なのか、彼女の心境の変化か。ま、正直どうでもいい。


「君と同じノリコだ。ま、向こうは浅見紀子で君じゃないけどな」


苦笑混じりにそう言う。


「浅見・・・紀子?」


怪訝な顔をするのんこ。ありえないけど心当たりがあるのか、ただ同じ名前に違和感があるのか。ま、後者だろうけど。


「気にするな、君なら絶対選ばれる」

「出ないけどね」


やや唇を尖らせてサンドウィッチを口に運んだ。こういう言動見ると大人っぽいんだよなぁ。


「もう一人知り合いに、同じ学校にノリコがいるよ。まぁ、ちょっと太っちゃいるけど。高杉典子ってな」


やはりここでも怪訝な顔をした。やっぱ違和感があるのかと思いきや、そうでないことを口にした。


「タカスギ?ノリコに縁があるね。全って、ノリコマニアだ」


マニアって、変だろ。まぁ縁があるのは確かだ。俺はお茶を飲み干し、腰を上げた。少し離れた場所で魚が跳ねる。わずか数日でこの環境に適応してしまっていると思う。元の時代に戻っても今まで通りの生活ができるか疑問になってくる。


「ミスコンで優勝したら、いいことあるの?」


サンドウィッチを食べ終えたのんこが見上げながらそう言った。なんだかんだで興味あるのか。


「別に。ただそういう肩書きがもらえるだけ。ま、その年一年間のナンバーワンってこと。特典としちゃ、彼氏がいなければイケメンで金持ちの彼氏が出来るっていうぐらいかな」

「ふぅん」

「今年の浅見とか、去年の子も彼氏いなかったから、必然的にそうなる」

「浅見って人、彼氏いなかったの?」

「あぁ。一度だけまぁ、食事会みたいなので一緒したけど、そう言ってた。っても、俺は避けられてたから横で話を聞いてただけだけどな」

「なんで避けられれてたの?」


なんか、いやに突っ込んでくるな。まぁ興味があるんだろうけど、俺の不甲斐なさに。


「見た目こうだし、モテるような要素もないし、範疇外だったんだろ」


自嘲気味にそう言った。実際避けられている理由なんか知らない。要するに俺に興味がないんだろう。


「そうかな?」


小首を傾げるのんこ。どういう意味かはわからんが、聞く気にもなれない。


「そうなの」


有無を言わせずそう言う俺。また魚が跳ねた。


「釣り道具、持ってくればよかったな」

「そうだね」


輝く水面を見ながら、まるで心ここにあらずのような返事をよこす。ホントに十歳には思えない憂いの表情が大人っぽい。


「明日、どうする?」


今日の虫取りはこんなもんだろう。突然の雨でなんか終わった感じがするし。のんこは返事をせずにただ川を見つめていた。


「泳ぐか?」


俺の言葉が意外だったのか、のんこが顔を上げる。


「水も綺麗だし、泳ぎたくなったから。嫌なら他に考えるけど」


2、3歩前へと進んでみる。ここは浅く、深い場所でもせいぜい俺の膝までしかない。昨日みたいな下流にいけば泳げる場所があったことを覚えている。せっかくだから川で泳いでみたい。そんな経験今までないしな。


「いいけど・・・」


含みを持たせた返事だ。なんかあるのかな。


「何?」

「・・・別に。いいよ」


ないんかい。まぁとりあえず予定は決まった。しかしこう毎日一緒にいると行く先も限られるし、予定が難しいな。でも、まぁ、仕方が無い。


「のんこさぁ。ずっと俺と一緒でいいのか?予定とかいいの?」


前にも聞いた気がするけど、やっぱ気になる。完全に巻き込まれてこうなったわけだし、俺のせいだし。


「いいよ。全といると楽しいし。それに・・・」


笑顔のない言葉だったけど、素直さは伝わってきた。


「それに?」


ただ、一旦切れた言葉が気になってしまう。


「家にいても退屈だし」


愛の告白でもされるのかと思った。まぁ、冗談だが。しかし暇つぶしとはね。仕方がないとはいえ、なんかわびしい。


「ま、退屈にはさせないよう、頑張るわ」


笑いながらそう言うと、のんこも笑った。やっぱりこの子は笑顔が似合う、そう思った


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