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魔構石

 男達を路地に放置し、リリーの家に戻った2人は、夕食を振る舞われていた。


「いやー……アダム、よく食べるねぇ……」


「これでも、市場の露店で多少食べてきたから抑えている方なんだけどね」


「うげぇ嘘でしょ…………あんまり食べてないけどシャルルちゃんは? 嫌いなものあった?」


「お腹、一杯」


「さては市場で食べ過ぎたな~」


 勿論満腹というのは嘘である。

 シャルルからすればすぐにでも食事を終えて魔力十分なアダムの首に飛び付きたいのだが、事情を知らない人間の前ではできない。

 食事も終わり、食器も片付いた後、リリーが唐突に手を打つ。


「良いこと考えたんだけどさ」


 バタバタと部屋の中に入っていき、何やら色々と音を立てているリリー。

 少しすると、リリーがシャルルの手を引っ張って部屋に引きずり込む。

 暫く待つと、扉の閉まった部屋の中でリリーの喚声が聞こえてくる。

 ガチャリと開いた扉から、フワフワとした白いワンピースを着たシャルルが出てくる。


「これは……」


「シャルルちゃん美人だから何でも似合うね! あたしのお下がりなんだけどさ、どう!? どう!?」


「ああ、かわいいよ」


「かわいくない……」


 シャルルの白い頬が、少し紅潮する。

 それを見て満足気に頷いたリリーが、再びシャルルの手を引いて部屋に入っていく。


「シャルルちゃん借りるね!」


「あ、アダム、助け……」


 シャルルの声が、閉まる扉の音に消える。

 中でドタバタと暴れるような音がするが、今度は部屋から2人が出てこない。

 恐らく、リリーが1人で楽しんでいるのだろう。

 穏やかな笑顔を浮かべて食後のお茶を飲むアダムに、別の部屋から声がかかる。


「あの、アダムさん」


 車椅子に乗って出てきたのは、リリーの弟のレオだった。

 レオは音を立てるリリーの部屋を横目で見て、ため息をつく。


「すみません。姉さん久々の来客ではしゃいでて……」


「構わないよ。とても楽しいお姉さんだね。シャルも少し嬉しそうだった」


「だったら良いんですけど…………アダムさん、神父の『神の力』は見ましたか?」


「……ああ。どうかしたのかい?」


 何か良い淀むレオに、怪訝な表情をするアダム。


「……姉さんは、神父に騙されてるんです」


 意を決して話したレオの言葉に驚く様子は見せず、黙ってアダムは聞き入る。


「僕、小さい頃の事故のせいで、足が動かないんです。その時の事故で父さんや母さんも死んで、姉さん塞ぎこんじゃって……」


 苦々しく話すレオは、自分の膝に手を置く。

 次第にその声には怒りが増していく。


「それである日、あの神父って奴が現れたんです。『神の力』って言って、人々の怪我や病気を治していきました。最初は僕も、もしかしたら足が治るかもって思いました。でも…………5年間、姉さんは信仰だと言って、教会に収入の半分を払い続けてる!」


 5年間。それも収入の半分。

 今まで表情を変えずに聞いていたアダムの顔が歪む。

 レオの声は更に熱を増し、拳は固く握られて震えている。


「教会の手伝いだって殆どタダ働きだ。それでも食事だけは贅沢しようって、今朝だって危ない森の中に入って……! ……お願いします、神父を、止めて下さい。姉さんを、助けて……」


「いいよ。僕もそのつもりだ」


 何の気無しに言うアダムを、逆にポカンとした顔で見つめるレオ。

 立ち上がったアダムがレオの前でしゃがみ、その肩に手を置く。


「僕も、彼の『神の力』には疑問を持っている。どうにか秘密を暴いて、皆の目を覚まさせてあげたい」


「……でも、どうやって…………」


「こう見えて、腕っぷしには自信があるんだ。シャル程じゃないけどね。それに……」


 アダムが立ち上がり、呟く。



「『神の力』の正体の目星はついてる」




※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※




 リリーのベッドを貸し出すという申し出を断り、2人は毛布を貸してもらい、食事を摂った客間の長椅子で眠るということになった。

 リリーとレオが部屋に入り、寝静まった頃。

 シャルルの『食事』が行われていた。


「んく……ん…………」


「さあ、行こうか。……少し寿命が減ってきたな」


 シャルルがアダムの首筋から口を放し、2人は立ち上がる。

 静かに静かに扉を開け、リリー達の家を後にする。

 灰白色と銀色が、夜の町を無音で駆ける。

 2つの影は教会の入り口が見える建物に隠れる。


「真夜中の教会に見張り番か。疑えと言っているようなものだね」


「右は、やる」


「僕は左だね」


 アダムとシャルルが夜の闇に溶ける。

 見張りの1人が欠伸をする。


「ふわ……あぁ……」


「おい、神父様に見つかったら面倒だからしっかりしろよ」


「こんな時間に教会に来る奴なんかいねえだろうよ。何だよ見張りって」


「報酬良いんだから文句言うなって…………誰だ!」


 シャルルが堂々と見張りに近づき、無言で見つめる。


「何だよ子供か……」


「こんな時間に何を……うげっ」


 シャルルに気を取られた見張りの1人が、短く唸って倒れる。


「あ? どうし」


 振り返ったもう1人の見張りを、音も無く沈めるシャルル。

 アダムが暗闇から姿を現し、建物の影に見張り2人を隠す。そのまま滑るように教会の中に入り、1つ1つ部屋を探り始める。

 ある部屋にだけ、鍵が2重にかかっているのにアダムが気がつく。


「シャル」


「ん」


 シャルが錠を切断し、部屋に入る。

 その部屋に入ってすぐに、アダムの目には美しい装飾が施された箱が映る。近づいて箱を開け、中身を確認する。

 箱の中に収まっていた石の下に敷かれていた書類を読む。


「まさかとは思ったが…………さて、もう出てきたらどうだい」


 箱の中身を確かめた後、部屋の入り口に向かって声をかけるアダム。


「何、してるの……」



「それは僕も知りたいな、リリー」



 姿を見せたのは、眠った筈のリリーだった。

 リリーの顔は不安に満ちている。


「アダム達が、こんな時間に家を出たから、心配で」


「違うな。君は、『神の力』が本物でないことを分かっていた」


 リリーの肩が跳ね、震える。

 至って冷静に、咎める様子も無くアダムは続ける。


「今朝の君の、魔法の光と似ているという言葉と、昼間の女性を見た時の反応。神父を咎めたシャルを止めようとしたのも、『神の力』が偽物だと知って……」


「もういい」


 リリーが沈んだ声でアダムの言葉を止める。

 顔を上げたリリーの表情は歪み、リリーは後ろ手に隠していた包丁を前に突き出す。


「だって……神父様は言ってくれた…………パパとママを、生き返らせることができるって……とっくに気付いてたよ? お金だって、騙し取られてるって」


「だったら……」


「縋るしかないじゃない!! 神父様のご機嫌取って、いつかその日が来るって信じるしか無いでしょ!? 最後の希望なの……お願い、黙ってこの国から出てって……」


 アダムがつかつかとリリーに歩み寄り、包丁の刃に胸が触れる程に近寄る。


「その日は絶対に訪れない」


「何で、そんなことが言えるの!? アダムの知ってる魔法じゃないんでしょ!?」


「神父が使っているのは魔法だよ」


「嘘はやめてよ!! だって呪文は……」


 怒鳴るリリーの目の前に、アダムが箱から取り出した『石』を掲げる。


「これは魔構石と言って、魔法に必要な要素である構築式、魔力を全て補ったものだ。これを身に着け、ほんの少し魔力できっかけを与えてやれば、誰でも魔法が使える」


「そんな……そんな話知らない!! そんな物のことなんて誰も……」


「70年前、1つの種族が魔構石によって滅びた」


 アダムの重々しい声に、リリーが思わず黙る。

 言葉を失うリリーに、アダムは言い聞かせるようにゆっくりと話を続ける。


「魔構石は、74年前にエルフの大魔法使いが生み出した技術だ。魔力の変換が不得手なヒューマンでも強力な魔法を使えるようになり、生活の中に魔法は欠かせないものになった」


 リリーの視界に唇を噛み締めるシャルルの姿が映る。


「それから僅か2年後、迫害が始まった。人間の血を飲むことでしか生きられないヴァンパイアという種族。ヒューマンは彼らを、世界の害悪と言って忌み嫌った」


 無表情でありながら確固たる怒りを内包した声に、リリーが震え上がる。

 これが、自分と同じような時間しか生きていない人間の出せる声だろうか。

 重い、あまりに重い。

 呼吸すら忘れさせる恐怖の重圧を受け、リリーの喉が渇きを覚える。


「2年間。たったそれだけでヴァンパイアの殲滅は果たされた。世界守護はこの力を危惧し、2度と世界に魔構石に生み出さないことを約束した。魔構石は迅速に回収され、世界守護によって厳重に保管されている。それ以降、魔構石の製造や所持は堅く禁止された」


「じゃあ、何で、ここに……」


「そうだ。ここに魔構石があるのは異常なことだ。君の父母の代なら知っているよ。あの悪夢を。……神父もこれが違法行為だと知っている筈だ。昼間、僕達を消そうと人をけしかけて来たからね」


 アダムの言葉の1つ1つが、リリーの心を抉っていく。もうリリーに、否定する力等残っていない。それでも、アダムは止めない。


「このまま下手をすれば、この国の人間全員が世界守護に罪に問われる。そして魔構石では、魔法では」


 リリーの手にある包丁の刃を掴み、切っ先を上に逸らす。

 アダムの手から血が流れ、リリーの頬に落ちる。



「終わった命を取り戻すことなんてできない」



 リリーの涙とアダムの血が頬で混じって、地面に落ちる。


「アダム、誰か、来る」


 感情を押し殺したように抑揚の無い声で、シャルルが告げる。

 アダムは包丁から手を放し、魔構石とテーブルの上の書類をリリーに渡す。


「この書類は、恐らく神父が裏で魔構石を取り引きしたという記録だ。この国を救うのか、来る筈の無い希望に縋り続けるのか、君に任せる。早く家に帰って」


 アダムが静かに言うが、リリーは中々動かない。

 涙を流して首を横に振るリリーに、低い声で言うアダム。


「早く」


「ひっ……!」


 恐怖に背中を押され、走り出すリリー。

 角を曲がり部屋を振り返ると、アダムとシャルルは教会の人間に捕らえられていた。


「どう、して…………アダム達、強い、のに……」


 拘束されるアダムがリリーを睨む。

 再び恐怖が込み上げ、弾かれるように走り出した。

 それから家までどうやって帰ったのかは、覚えていなかった。

 皆様こんにちは。小夜寝草多と申します。


 アダムの大食いにも、一応設定らしきものはあります。が、単純に僕がいっぱい食べる子だったり甘いもの好きの女の子は好きというのもあります。

 ちなみに僕も甘党です。え? どうでもいいって? 僕だって分かってるさそんなの!!


 ここまで読んで下さりありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。

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