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ある日森の中

「アダム……血は…………」


「すまない。魔力が減少している。食料も子供達に全て渡してしまったから、血中の魔力は相当少ないな」


 ドラグの少年が言っていた『賢者』のいる国までの道中、あれ程軽かったシャルルの足取りは鉛のように重くなり、ずるずると足を引きずって歩いている。

 アダムが難しい表情でシャルルの言葉に答え、申し訳なさそうに苦笑する。


「次に食べ物にありつけるまで我慢してくれ」


「うん。まだ、平気」


 商人達との戦いで、シャルルは1度アダムの身体中の血と魔力をアダムが動けなくなるまで吸ったため、アダムの体に魔力は殆ど残っていない。

 魔力が激減した状態でもドラグ並の身体能力を持つヴァンパイアだが、皆無となれば流石に動けないし、怪我に対する回復力も失う。


「まだ町は見えないな……仕方ない。この辺りで獣でも探して食料にしよう」


「ん」


 魔力の回復に、休息と食事は不可欠である。

 まずは獣の痕跡を探そうと2人が辺りを探し始めたところで、シャルルがぴたりと動きを止めて一方向を見つめる。


「シャル? 何か見つけたのかい?」


「何か、来る」


 シャルルが見つめる先、森の奥から、走って来る人影が見える。

 何か叫んでいるが、いまいち聞き取れない。

 よく目を凝らしていると、その人影の後ろから、かなり大きい影も迫って来ている。

 じっと見ていると、声がはっきり聞き取れるようになった。


「たす、たすけ、たすたたたすたす助けえええ!!!」


「アダム」


「ああ」


 獣、それも市場で売ればかなりの値がつきそうなサイズの大猪に追いかけられているのは、18かそこらの少女だった。

 言葉にならない絶叫を放ち、アダム達に向かって全力疾走している。

 それを見た2人の目は。



「「食料だ」」



 ギラリと輝いていた。


 シャルルが空高く飛び上がり、アダムが大猪に向かって直進する。

 助けを求めた本人である少女は、アダムの行動に目を丸くする。


「どえぇ!? 何やってんのぉ!?」


「下がって」


 アダムが手を前に出すと、掌に赤い光が集まる。

 それを見て、少女は表情を厳しいものに変える。


「!」


「フレイル」


 赤い光は炎に姿を変え、球体となって大猪に襲いかかり、爆風でアダムの灰色の髪が揺れる。

 火球は毛に燃え移って暫く大猪を苦しめたが、硬質な皮膚に阻まれて大したダメージを与えないまま鎮火してしまう。


「ダメじゃん!!」


「大丈夫、今のは時間稼ぎです」


 アダムの言葉の直後、空から落ちてきた銀色の弾丸が大猪に突き刺さる。

 シャルルは大猪の首筋を的確に切り裂き、大猪はその場に重厚な音を立てて大地を揺らす。

 地面に降り立ち、手に付いた血を振り払うシャルルを見て、少女は口をポカンと開けて呟いた。


「かっ、こいい…………」


「大丈夫ですか? 怪我は?」


 唐突に話しかけられ、少女が慌てて礼を言う。


「ほあ!? ああ、大丈夫大丈夫。ありがとー! いやあ助かったよ!」


 アダムの手を取ってブンブンと振る少女に、アダムが尋ねる。


「こんなところで何をしていたんです?」


「敬語じゃなくていいのに。見たとこ大体同い年でしょ? あたしはリリー」


「分かった。僕はアダム、こちらはシャルル」


「いやね、木の実採りに来たんだけど、あの猪の縄張りに入っちゃったみたいで」


 リリーが頭を掻きながら言うのを聞いて、首を傾げるアダム。


「……ということは、この先に行けば町が?」


「そだよ。森を抜けたらすぐ」


 狩り損だったかと肩を落とすシャルルに、弱々しく笑いかけるアダム。

 2人を交互に見て、何かを思いついたように手を叩くリリー。


「そだ! お礼もしたいし、うちにおいでよ! あんまり良いもん無いけど、今夜ご馳走するからさ」


 こうして、新しい国での最初の滞在地が決定した。




※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※




 国の領地に入り民家も見られるようになったが、人気が無く閑散としている。

 その光景に不思議そうな顔をしているアダムに、前を歩くリリーが説明を入れる。


「今は、神父様が『神の力』を使われる時間だからね。皆教会に行ってるんだ」


「『神の力』……」


 ドラグの少年の言っていたのは、どうやらここのことらしい。

 怪訝な顔をするアダムに、続けて解説する。


「凄いんだよー。あっという間に怪我とか病気を治してくれるんだ。国にさっきみたいな害獣が入った時は撃退もしてくれるし…………そういえばさ」


 少し不思議そうな表情で振り返るリリー。


「アダム、猪をやっつけたのって……」


「ああ、あれは魔法だよ。大した技術は無いから、あれぐらいが精一杯だけどね」


「ふーん、あれが魔法か……なんかあの光、『神の力』に似ててさ。ちょっとびっくりしちゃった。でも神父様は呪文は唱えないから魔法じゃないよね」


 魔法を使うには、呪文の詠唱は不可欠だ。

 呪文は魔力を決まった形に留め、外部に放出する為の命令式の一環である。

 魔法を使うには、豊富な知識と圧倒的な魔力が必要となる。

 その神父がエルフならば話は違うが、ヒューマンならば魔法を使うのは困難な筈だ。


「さてー、ここがあたしの家! あんまり広くないけど寛いでって!」


 簡素な木造の家だが、よく手入れされていて清潔感がある。

 木の実を片付けたリリーは、ある部屋に入って声をかける。


「ただいまレオ。お客さん来てるから。アダムと、シャルルちゃんね。レオはあたしの弟!」


「お邪魔します。お姉さんとは森で偶然会って、今夜お世話になることになりました」


「こ、こんにちは……って姉さん、また森に入ったの? 危ないから入ったらダメって言われてるじゃないか」


 ベッドで横になっていたリリーの弟、レオは体を起こし、挨拶の後リリーを咎めるように言う。

 対してリリーは危機感も無く答える。


「いーの、大きい木の実が採れるんだから」


「もう……。アダムさん、姉が迷惑をかけてすみません」


「なんで迷惑かけた前提なのよ!」


 レオを軽く小突き、再び外に出ようとするリリーに、アダムが尋ねる。


「リリー、どこに?」


「神父様のとこ! あたし、教会でも働いてるんだ。そうだ! アダムとシャルルちゃんもおいでよ! 今ならまだ『神の力』も見られるだろうし。この国に来たなら見て行かなきゃ損だよ」


 アダムとシャルルが目を見合わせ、殆ど考える時間も無くアダムが答える。


「分かった、行くよ」

 皆様こんにちは。小夜寝草多と申します。


 ある日 森の中 くまさんに……ではなく大猪に出会った2人でした。

 お肉おいしいですよね。僕も大好きです。


 ここまで読んで下さりありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。

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