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良い商売

「植物が全く無いね。ひどく乾燥してる」


「砂だらけ」


 ウィルム皇国を出たアダムとシャルルは、草木の無い荒れ地を歩いていた。

 水はエリドバートの厚意により豊富にあるが、それも長くはもつまい。


「アダム、寿命は? 大丈夫?」


「ウィルムで多めに食べたから、暫くは問題無い」


 アダムが自分の黒い前髪を摘まみながら答える。


「シャルこそ、こんなに陽射しが強くて大丈夫かい?」


「うん。ついさっきも血を貰ったから、大丈夫」


 数分間歩くと、2人の目は建物を捉える。

 やっと一息つけるかと胸を撫で下ろすアダムに向かって、何者かが駆けて来る。


「アダム、下がって」


「いや……あれはまだ子供だ。それに、何か様子がおかしい」


 2人の目の前まで駆け寄って来た少年は、砂に膝をついてアダムに縋り付く。


「助けて! お願いします! 戻りたくない!」


 涙と鼻水を垂らしてアダムに訴えかける少年の腕や体からは大量の血が流れ、それに鈍く光る足枷を着けていた。

 それ以上にアダム達の目を惹いたのは、頭に生えた黒い角、そして露出した腕から生えている赤い鱗。

 出血は、鱗が剥がれたことによるものらしい。

 泣きじゃくる少年の手を取り、アダムが驚きに満ちた表情で尋ねる。


「君は…………ドラグなのか? ドラグがどうして……」


「見つけた見つけた! 何やってんだアンタ等!」


 息を切らしながら走って来る黒服の男と、少し遅れて走って来る屈強な男4人。

 黒服はアダム達の前で止まると、物凄い剣幕で吠え始める。


「あのね! こっちは商売でやってんだから、こういうことされると困るの! 分かる!? 素人はドラグ1匹がどんだけの値打ちになるのかを全っ然分かってないから……」


「落ち着いて下さい。一体何の話をしているんです?」


「……はえ? アンタ等、こいつを逃がしたんじゃないんですか?」


 アダムの言葉に、肩透かしを食らったかのような顔をし、裏返った声で尋ねる黒服。

 勘違いをしていたことを自覚すると、今度は黒服は真っ赤な顔をして後ろに控える男達に激昂する。


「お前達……何度言えば分かるんだ!! 麻酔の量はキッチリ量れって唇がこぉんなに荒れる程言ったよなぁ!!」


「ボス、それは乾燥のせいだって自分で……」


「うるさい!! とっととこいつを連れて行け!! 全くもうこれだから素人は……」


 男達が4人がかりでドラグの少年を連れて行く間も、黒服はぶつぶつと独りごちる。

 憤る黒服に、アダムが恐る恐る話しかける。


「あの……」


「んあ? あぁ、いやーすいませんねぇ。すっかり早とちりしちまって」


「いえ。ところで、さっきの少年は……」


「あー、あれはうちの商品でさぁ。ガキでさえあの怪力ですから、1匹捕まえるだけでまー大変で」


 黒服の言葉に顔をしかめるシャルル。

 そんなシャルルの様子を見て、アダムは黒服に提案する。


「それは大変でしたね。僕はアダム、こちらはシャルルと言います」


「こりゃあご丁寧に。あたくしはダリー・クルガンと申します」


「僕も、貴方の『商売』に興味が湧いてきました。是非お話を聞かせて頂きたいのですが」


 アダムの言葉にシャルルが驚き、信じられないと言った表情でアダムの顔を見つめる。

 ダリーはその言葉に気を良くしたらしく、先程までよりも一段と態度が柔和になってアダムと話す。


「この商売の良さが分かるたぁアダムさん、若いのにアンタ見所あるぜ。しかし、あたくしも商売人。こんなオイシイ話をおめおめと教える訳にゃ……」


「ご安心を、それなりの対価は払わせて頂きます」


「分かってますねぇ!! ささ、こんなところじゃなんですから、屋根のあるところで話しましょう」


 ダリーの後に続くアダムを暫く見ていたシャルルは、普段よりも少し距離を置いてアダムについて行く。




※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※




 ダリーがこの荒れた町に来たのは、表沙汰にできない取り引きを行う為だと言う。

 こんな場所では、商売は愚か人が済むことすらままならない。


 主にヒューマンではない種族の人体を取り扱うダリーは、賑わう都市なんかに行けばすぐに世界守護のお縄にかかってしまう。

 人の寄りつかない砂漠と化したこの町は、彼ら違法商人にとっては格好の取り引き場らしい。


「なるほど、賢いやり方ですね」


「でしょう!? 実は、この場所を見つけたのはあたくしが最初なんでさぁ。その内ド素人共が嗅ぎ付けてくるでしょうが、暫くは安泰ってもんです」


 上着を椅子にかけ、ダリーがため息混じりに言う。

 シャルルは椅子に座らず、アダムの後ろで眉をひそめている。


「ヒューマンではない種族の部位というのは、そんなに値打ちのあるものですか?」


「そりゃあもう!! 売る相手にもよるでしょうがね、ドラグの成人なんかをうまく売り捌きゃ、2年、いや3年は遊んで暮らせまさぁ」


「ダリーさんの商品は、さっきの少年だけですか?」


「いやいやいやとんでもねえ。今日は大口の取り引き先ですからね。あたくしの商品全っ部! 引っ張って来ましたよ。つっても、ドラグとエルフのガキが数人ぽっちですがね」


 少々恥ずかしそうなダリーの言葉に歯を食いしばるシャルル。手を握りしめ、肩は小刻みに震えている。


「エルフまで……しかし、ドラグとは言え子供では、大した値にならないでしょう」


「そこがこの話の目玉でさぁ。ドラグってのは鱗が生えてますね? ぶっ飛んでも1日あればまた生えてきやがるって代物だ。ドラグの鱗は1枚でも多少の金になるんです。ですから……」


 ダリーが懐からハサミのような形状の物を取り出し、カチカチと鳴らす。


「こいつでブチッ! と。そんで、また生えてくるのを待って千切る、って寸法でさぁ」


 得意気に語るダリー。

 それを見て、商品であるドラグの少年が傷だらけだった理由がアダムの中で解明する。


「あのドラグの少年は、『鱗用』という訳ですね」


「そーそー! うちの部下もアダムさんくらい察しが良けりゃ文句無しなんですがねぇ……」


 シャルルが目を見開き、怒りを露にする。

 手をパキリと鳴らし、目の前の男の骨を砕かんと動こうとした腕を掴み、アダムがシャルルを止める。


「良い商売ですね」


 笑顔で言うアダムの手を振り払い、シャルルがアダムの頬を打つ。



「最低」



 そのまま部屋を出ていくシャルルを見て、ダリーが椅子から立ち上がる。


「ちょっとちょっと! この話バラされちゃ困るんですがね……それに良いんですかい、放っといて」


「問題無いでしょう。子供の言うことです。信じる人もいません。大人は汚いものだと、彼女がまだ知らないだけのことです」


 赤くなった頬をさすりながら冷ややかに言い切るアダムを見て、また椅子に腰かけるダリー。

 2人の話は、日が沈むまで続いた。




※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※




「こんなところにいた」


 アダムがダリーと話をしていた建物の屋根の上。

 すっかり日も落ち、星明りばかりが光る中でシャルルは座っていた。


「どこか行って」


「悪かった。シャルには辛い話を聞かせてしまった」


 シャルルは謝るアダムを鋭く睨み、膝を抱えたまま口を尖らす。


「好きにしたら良い。『良い商売』でも何でも」


「その『良い商売』を教えてくれた彼なんだが。呑み過ぎてしまったみたいでね」


 ポケットから何かを取り出すアダムの手を見つめて、シャルルは目を見開く。

 ポケットから出てきたのは、鍵の束だった。

 指先に引っ掛けた鍵を鳴らして、アダムは不敵な笑みを浮かべる。


「上機嫌にこれの保管場所を喋ってくれたよ。さあ、子供達を助けに行こう」

 皆様こんにちは。小夜寝草多と申します。


 第4話にあたる今回、明らかに嫌な感じの商人、ダリーの登場です。こういう人、嫌いじゃありません。但しフィクションに限る。


 ここまで読んで下さりありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。

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