英雄追放
ウィルム王国に送られたのは盗賊団の中でも指折りの実力者揃いだったことが、後の調べで分かった。
指名手配を受けていた者も数人おり、その懸賞金は国の復興に充てられることになった。
ウィルムの人々にも数人の被害者が出たが、盗賊団の規模から考えれば殆ど無いと言って良い被害だ。
「一晩休ませて頂いた上食料までお与え下さり、感謝の言葉もありません」
「……本来ならば、お2人は国を救った英雄です。なのに、こんな、追い出すような真似を…………」
アダムとシャルルが国を発つことになったのは、盗賊団襲撃の次の日、まだ太陽が半分しか出ていない時間だった。
2人の戦いぶりを目撃した騎士が、彼らを危険視したがための措置である。
「仕方ありませんよ。盗賊しか対象ではなかったとは言え、僕が人を食したのは事実です。それに僕は、皆が無事ならそれで良いんです」
謝罪の言葉とは裏腹に、エリドバートの手は小刻みに震える。
昨夜の悪夢が、脳裏にこびりついて離れない。
そんなエリドバートを見て、アダムは手短に質問をする。
「最後に1つだけよろしいですか?」
「……は、はい」
「ヴァンパイアを、見たことはありますか?」
アダムの質問に首を傾げ、少し考え込んだ後におずおずと口を開く。
「いえ……ヴァンパイアは70年前に絶滅した種族だと聞いています。今更、どうしてそんなことを……? …………まさか、シャルルちゃんは……」
口元に人差し指を当て、エリドバートの言葉の続きを遮るアダム。
そのまま、明るい調子で言う
「見たことが無いならいいんです。では、僕達はこれで失礼します」
笑顔のまま踵を返し歩き出したアダム達。
その背中に、小石がぶつけられる。
「この化け物! 死ね! 死ね!」
数は少ないがアダム達を見送りに来ていた民衆。感謝の気持ちからか興味本意からかは分からないが、その中の1人の少年が石を投げたその人だった。
アダムが振り返るよりも早くシャルルがその少年の目の前まで移動し、足をかけて少年を転ばせる。
尻餅をついてシャルルに見下される少年は、ガタガタと震えながらもシャルルに食ってかかる。
「だ、だって見たんだ! あいつが人を食べてるのを! この、化け物!」
「黙って」
「いいよ、シャル」
鋭い眼光を少年に突き刺すシャルルを、アダムが引き止める。
アダムは座り込む少年の前で膝をつき、静かに言う。
「君は今、もう死んでしまいたいと思うかい?」
「な、何言って……」
「それとも死にたくない?」
既に少年の目からは涙が零れ、恐怖は頂点に達していた。
精一杯の反抗だったのだろう、少年は全力でアダムの問いに叫んで答える。
「し、死にたい訳ないだろ!!」
「だったら、君は僕と同じだ。君が無事で良かった」
少年の頭に優しく手を置き、穏やかに微笑んでアダムは立ち上がる。
そのまま何も言わずに立ち去るアダムの後に、シャルルが続く。
振り向いたシャルルの視線の先には、見慣れた目が沢山並んでいた。
おぞましいものを、気持ち悪いものを、『化け物』を見る目。
その視線を断ち切るように銀の髪を翻し、シャルルはアダムの手を掴む。
いとおしそうに、慈しむように。
皆様こんにちは。小夜寝草多と申します。
第3話にあたります、この『英雄追放』。本連載ではプロローグ的な役割を果たしています。
不死身で穏やかなアダムと、とっても強いシャルル。不死身でも戦いに優れていても、悲しいものは悲しいのだと思うんです。
ここまで読んで下さりありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。