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彼は正義か?

 アダムの要望は快く受け入れられ、2人には来客用の部屋の中で最も広い1部屋が充てられた。

 エリドバートは2部屋用意するよう使用人に指示していたが、アダムが1部屋で良いと言ったために1部屋が充てられたのだ。


 その部屋で一休みしようという頃には、既に日が落ち切っていた。

 シャルルを抱えて部屋に入り、そのままベッドに腰掛けるアダム。


「遅くなってごめん。具合は悪くない?」


「大丈夫。力が入らないだけ」


「そうか。じゃあ……」


 白い首を露にするアダム。

 アダムの両肩に手を置き、首筋に顔を埋めるようにするシャルル。


「いいよ」


「頂きます」


 恍惚とした声で呟き、アダムの首に歯を立てる。

 アダムの表情は穏やかだった。

 こくん、こくんとシャルルの喉が音を立てて血液を体内に運ぶ。

 その行為がまだ最後終わらぬ内に、シャルルがアダムの首から口を離す。


「…………シャル?」


 舌で自分の唇に付いた血を舐めとるシャルルは、国を一望できる窓に目をやり、ぽつりと呟く。



「物が焼ける臭い」



 シャルルの言葉を聞き、アダムが服を正しながら窓を覗き込む。

 民家から火の手が上がり人々が逃げ惑うのに加え、遠方から城にも松明や武器を持った男達が向かって来るのが見える。


「手分けしてエリドバートを探そう。もう動けるかい?」


「普通くらいには」


「君の普通なら十分だ」


 アダムの言葉に弾かれるように2人共扉を出て逆方向に走り出す。

 それぞれが、白と銀の髪を振り乱して。




※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※




「おいおい待ってくれよぉ! イイコトしようぜ王女さんよぉ!」


 下卑た笑いを響かせながら手斧を振り回し、家具を破壊しながらエリドバートを追い掛ける男。

 男は1人ではなく、複数人が金目の物を奪い、城の中を荒らしている。


「エリドバート様、早くお逃げ下さい!」


「しかし、まだ民が……」


「早く!」


 騎士が盗賊の前に立ち塞がり、応戦する。

 実力や勢力はおよそ拮抗していると思われたが、外から盗賊の一団がまた塊で押し寄せ、騎士側を圧倒的な不利に追いやる。


「ぐあっ!」


 遂に最後の1人の騎士も盗賊の手にかかり、首を切り落とされて絶命する。


「エリドバート様!」


「馬鹿者! お前達は早く逃げ……」


「見ぃつけたぁ!」


 盗賊の1人がサーベルを掲げ、エリドバートをメイドごと切り裂くべくその腕を振り降ろす。

 鮮血が飛び散り、エリドバートの服を赤く染める。

 生温かい血液を顔に受けたのに関わらずいつまで経っても訪れない痛みを不思議に思い、恐る恐る目を開けるエリドバート。


「遅くなって申し訳ありません」


 盗賊のサーベルを腕で受け止める、輝く白髪の男がいた。


「っはっはぁ!! 獲物も持たずに受けるたぁとんだイカれ野郎だな! そのまま死ね!!」


 盗賊が腕を勢い良く振るい、アダムの右腕の肘から先が切り離される。

 左手を地面につき、それを軸に盗賊の手からサーベルを蹴り飛ばすアダム。その蹴りの勢いを殺さず、軸を足に戻して盗賊の顎に蹴りを入れる。

 その1撃で意識を失い、盗賊が倒れる。

 だが後続の盗賊の数は多い。


「アダムさん、腕が……!」


「問題ありません。それに……」


 千切れた右腕の痕を押さえる指の隙間から、ボタボタと血が零れる。

 目の前に死が迫るこの状況下で笑顔を絶やさないアダムが、左の掌に溜めた血を一気に溢す。



「これで、形勢逆転です」



 銀色の閃光が走り、落ちるアダムの血を空中で受け止める。

 鈍い刃のような銀色はアダムとエリドバートの傍を一瞬の間に通り過ぎ、盗賊の塊に飛び込む。

 無理解という名の沈黙が盗賊達の中で共有されたコンマ数秒後、1人が前触れも無く倒れた。


「え?」


「おい、どうし……ぅげっ」


「何だよ! 何が起こってんだ!」


「お、おいどうした!?」


 盗賊達が、幽霊を相手にしているかのように武器を振り回し、そして意識を失っていく。

 さっき倒れた男が他の男にもたれかかり、無理解は増幅する。

 戸惑う叫びは時を重ねる毎に減り、数秒後エリドバートの目の前で声を発する盗賊は、1人として残っていなかった。


「お疲れ様、シャル」


「ん」


 シャルルの戦いに目を奪われている間に、エリドバートの目にはまた不可解な出来事が映る。


「アダムさん、どうして……」


「ん? ああ、これですか?」


 アダムが切り落とされた筈の右腕を上げて見せ、エリドバートの混乱はより一層深まる。


「これは僕の、体質……のようなものです。傷を負っても……」


 アダムが転がっているサーベルを拾って自分の腕に当て、深く傷をつける。

 その傷から白い炎が上がり、傷口全体に広がる。ものの数秒で白炎が消え、そこにあった筈の痛々しい傷は完全に癒えていた。


「不死、身…………」


 開いた口を閉じることを忘れるエリドバートに、アダムは笑顔で告げる。


「では、残りを何とかしてきます」


 走り去るアダムとシャルルを呆然と見ていたエリドバートだが、ハッとしてその後を追う。

 ウィルム皇国を襲っている連中に、エリドバートは心当たりがあった。


 大盗賊団『ドルガルム』。

 周辺諸国にも活動範囲を伸ばす盗賊団だが、その巨大な全容を把握する者はいない。ただの盗人集団と呼ぶには不釣り合いな戦力と、高度な魔法を駆使する程の技術を持つ盗賊団。


 それが本当ならば、いかに強いとは言え人間2人が太刀打ちできる相手ではない。


「……人、間…………?」


 エリドバートが城外で見た戦いは、あまりに一方的だった。

 神速の銀が踊り、煌めく白が命を蹂躙する。

 白炎の塊が盗賊を捕らえ、その鮮血を浴びる。そしてその命が尽きる前、盗賊の胸を切り開くアダム。


「一体、何を……」


 エリドバートは、異様な光景を見る。

 アダムが、盗賊から奪った武器で敵を切り刻む中で、まだ拍動する心臓を引きずり出し、喰らっている。


 殺し、喰らい、殺し、喰らい、殺し、喰らう。


 心臓の無くなった死体には目もくれず、アダムは『狩り』を続ける。

 新鮮な心臓を求めて。


 込み上げる吐き気を堪えられず、エリドバートはその場に膝をつき、口を手で覆う。


「うぇっ…………どう、して……こんな…………」



「延命」



 すぐ隣から聞こえた声に身を跳ねさせ、後ずさるエリドバート。

 佇んでいたのは、服に汚れひとつ付けずに佇むシャルルだった。

 シャルルの顔は相変わらずの無表情で、疑問を持たぬその様子にエリドバートの背筋は凍りつく。


「延、命……?」



「アダムは死なない。怪我、病気、毒、何もアダムには死を与えない。でも、寿命は、尽きる」



 尚も続く人喰いの光景から目を逸らし、エリドバートはシャルルの言葉を聞く。



「生きた心臓を食べて、アダムは魂を繋ぐ。死なないように、少しでも長く、生きられるように」



「そんなの、間違ってる……! あんな、同じ人間を殺して食べて、それでも、生きたい、なんて…………」


 口を押さえ、恐怖で涙を流しながらエリドバートは叫ぶ。

 言葉は自然に溢れ出した。


「アダムは、人を助けたいだけ。奪うのは、悪い人の心臓だけ。それに……」


 シャルルが首を傾げ、エリドバートを見る。



「人が死にたくないと思うのは、何かおかしい?」



 狂っている。直感的にそう思った。

 エリドバートは、震える体を抱き、再び顔を上げる。

 アダムは、自分に刺さった武器達を引き抜いている最中だった。

 さっきまで真っ白だった髪は黒く変色し、彼の目には眩い程の光が宿っている。


 盗賊団の攻撃は止まない。

 金品を奪うことも忘れ、目の前の『化け物』を消し去ろうと魔法を放つ。

 アダムの体は焼け、千切れ、潰れ、削ぎ落とされても消えない。

 切れた部分は真っ白に燃え上がり、消し飛んだ部分も瞬く間に白炎に包まれ、元の形を取り戻す。

 魔法を受け、血肉を撒き散らして無様に進行する化け物は、やがてその使い手の下に辿り着き、首をへし折る。


「ひ、ひぃいあああああああああ!?」


「来るな化け物おおおおおぉ!!」


 逃げ惑う盗賊団に追いつき、殺し、また喰らう。

 いつしか逃げ惑う者はいなくなり、残ったのは大量の武器、血、喰い残された死骸、そしてその中に佇む黒髪の少年だけだった。

 皆様こんにちは。小夜寝草多と申します。


 このお話で、なんとなくアダムの抱える暗い部分が見えてくるのではないかなと思います。

 楽しいばかりではないかもしれませんが、これからも読んで頂ければ嬉しいです。


 ここまで読んで下さりありがとうございました。次回もよろしくお願い致します。

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