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ウィルム王国訪問

 多種多様な無数の小国が点在する大陸の、国と国とを繋ぐ道。

 本来ならば馬車で行き交う距離のその道を、1組の男女が歩いている。


「シャル、まだ歩けないかい?」


「無理」


 否。正確に言えば、1人の青年が、1人の少女を背負って歩いている。 

 2人共標準よりは少し痩せた体つきで、青年はスラリと背が高く、少女の身長はかなり低い。

 少女は背負ってもらっている青年の白灰色の髪を、無表情でいじり回す。


「こら、髪で遊ばない。むしろシャルは僕にお礼を言う立場に……」


「アダム、あれ」


 少女が指差す先に、2人が目指している国に向かう3台の馬車。装飾品からかなりの上流階級であることが分かるが、青年は臆せず馬車に近づく。

 好都合にも馬車はゆっくりと走っており、すぐに追い付くことができた。


「すみません、旅の者なのですが……」


「全員武器を取れ!!」


 馬車から号令が発せられると前後2台からぞろぞろと鎧の男達が現れ、瞬く間に青年と少女を囲む。


「落ち着いて下さい。僕達は本当に旅の者で、決して怪しい者では……」


「何が旅の者だ! 貴様等、最近ここらで暴れている盗賊の一味だろう!」


「丸腰で盗賊をやる者はいないと思うのですが……」


 青年の弁明も虚しく、男達は剣を構えたままジリジリと距離を詰める。

 困り果てる青年と、少年の背中で眠たそうに目を擦る銀髪の少女。

 危うく男達が飛び掛かろうかというところで、中央の馬車から声が響く。


「おやめなさい!」


 馬車から姿を現したのは、青を基調としたドレスに身を包んだ、若い女性だった。

 悠然とした佇まいの女性が男達の間を縫って青年に近づいて、柔和な笑みを浮かべる。


「旅の者、と言いましたね。町までお送りしましょう。ようこそ、我が国へ」




※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※




「ご無礼をお許し下さい。(わたくし)はエリドバート・ウィルム。ウィルム王国の第1王女です」


 外観に違わず凝った内装の馬車に乗せられた2人に、女性が申し訳なさそうに語りかける。


「申し遅れました。僕はアダム。アダム・メイス。そしてこちらが……」


「シャルル」


 シャルルの長く艶やかな銀髪を撫でながら名乗るアダム。

 シャルルの言葉少なな自己紹介も終わって、エリドバートが再び口を開く。


「本当にごめんなさい。最近、盗賊が頻発するので、騎士達も気が立っているんです。お2人は、ウィルムにはどんな御用で?」


「ちょっと人探しを。何か手掛かりが無いかと思いまして」


 片手をシャルルの頭に置き、もう片方の手で馬車の内装をなぞるアダムの顔を見て、エリドバートが心配そうに尋ねる。


「何か、気になることでも……」


「ん? ああいえ、この馬車の他に、不自然な震動が……」


「アダム」


 シャルルがアダムの服を摘まみ、静かな声で名前を呼ぶ。

 呼ばれたアダムは、口では何も応えずシャルルの顔を見る。



「『悪い人』?」


「さあね。どちらにしろ、ここでは食べられない」



「……?」


 目の前で交わされる会話に首を傾げるエリドバートの耳に、騎士達の声が飛び込んでくる。


「馬車を止めろ!」


 激しい震動と共に馬車が止まり、騎士達の声に焦りが混ざり始める。

 馬車から顔を出そうとしたエリドバートを止め、口に人差し指を当てて静かにするよう指示するアダム。


「シャル……」


「動けない」


「仕方無いな」


 シャルルと簡単な言葉のやり取りを終えた後、馬車から様子を窺う。


「貴様等、盗賊か!」


「話が早くて助かるねぇ。でもよぉ、これはお前等の責任でもあるんだぜ? こんなところに、金目のモンぶら下げた馬車で来るお前等の、な」


 汚れた身なりに、厳めしい体。馬車を取り囲んだ男は30人余り、それぞれが武器を持っている。

 対してエリドバートの騎士は騎手3人を除いて10人と少し。

 騎士の錬度次第ではあるが、数で言えば盗賊か圧倒的に有利だ。


 始まってしまった戦闘の中、エリドバートの乗る馬車に盗賊の1人が押し入る。


「お? 良い女がいるじゃねえの」


「…………!」


 盗賊がエリドバートに手を伸ばすが、その腕をアダムが取る。


「ああ? ヒョロッちいガキが何の用だ? 死にたくなかったら下がってろ!!」


「悪いが、目の前で女性が酷い目に遭うのを見ていられる程、腐ってはいないのでね」


 アダムが盗賊の胸ぐらを引き寄せ、顔を馬車の装飾に打ちつける。鼻血を吹き出して仰け反る盗賊の頭を掴み、また顔を装飾に叩きつけて外に投げ捨てる。

 唖然とするエリドバートに気がつき、笑いかけるアダム。



「少しの間、シャルをお願いします」



 エリドバートの返事を待たずに馬車の外に出るアダムが、端から盗賊に攻撃を仕掛けていく。

 騎士1人に対して3人以上で相対する盗賊達がアダムに気がつくのは、そう遅くはなかった。


 明らかにアダムの動きは騎士よりも洗練されており、次々と制圧されていく仲間を見て、攻撃の優先順位を切り替える盗賊。

 刃や鎖が飛び交い、アダムに襲いかかる。迫り来る攻撃を紙一重で避け、的確に急所を突いて盗賊を薙ぎ倒すアダムを、騎士達は驚愕の眼差しで呆然と眺める。


 だがそれも束の間、騎士達も盗賊を撃退するべく奮起し、やがて勢力の優劣は逆転する。いつしか盗賊団は、リーダー格の男を残した全員が地面に伏していた。


「な、何なんだお前……お、おいお前等! ずらかるぞ!!」


 その男の号令を聞き、倒れていた盗賊達がフラフラと立ち上がり逃げ去っていく。

 服に付いた土埃を払うアダムに、騎士の1人が恐る恐る話しかける。


「お、お前は一体…………」



「特別なことはありません。ただ、他人より長く生きているだけです」



 騎士は、笑顔で佇むアダムの白灰色だった髪が、真っ白に変わっていたのを見た。




※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※




 ウィルム王国は小さな国ではあったが、商人や芸人、それに様々な種族の人々が行き交う賑やかな国だった。

 領土が狭く兵力も十分ではないところを見ると、商業を主として栄えていることが窺える。


 そんな小国の中央にそびえる、城と呼ぶには少し控え目な建物の中。


「城内にお招き頂いた上に、お食事まで…………感謝します、エリドバート様」


「え、ええ…………お口に合ったようで……良かったです……」


 エリドバートの目の前では、見たことの無い数の皿が瞬く間に空けられ厨房に消え、おぞましい量の料理がアダムに吸い込まれるという光景が繰り広げられていた。


 ウィルム王国では年に1度、周辺の国々から要人を招いた会食が行われるのだが、その時に消費される分に匹敵する量の食材がアダムの腹に収まったのを、エリドバートはまだ知らない。


「珍しい食材もいくつか見受けられたもので、つい食べ過ぎてしまいました」


「つ、つい、ですか…………ウィルム王国は、交易や商業が盛んですから。遠方の国からも商人がやって来て、ここで珍品を売っていくんです。アダムさん、改めて、私の命を救って頂き、ありがとうございました」


 立ち上がってお辞儀をするエリドバートを見て、アダムも席を立つ。


「いえ、こんなに素敵なお食事を頂いたんです。僕が為した事以上の礼を頂き、申し訳ないくらいです」


「それにしても先程の戦いぶり、感服しました。何か武術の心得が?」


「特に誰かに師事したりは…………治安の悪い国や地域にも行くことがあるので、自然に身に付いただけです」


 アダムが恥ずかしそうに答え、エリドバートは益々目を丸くする。

 教育の一環として護身術の稽古をしている自分を過大評価している訳ではないが、アダムの動きは護身術のそれを遥かに超えていた。

 あれが自然に身に付いたなんてと驚くエリドバートを尻目に、アダムは甘い果実を頬張るシャルルの髪を丁寧に撫でている。


「そういえば果物しか口にしていないみたいですが、シャルルちゃんはお食事は……」


「ああ、シャルはいいんです」


 アダムの言葉に釈然としない面持ちでいるエリドバートに、アダムが声をかける。


「お食事を頂いた上、厚かましいとは思っているのですが……」


「えぁ、はい! 何でしょう? 私に出来る事であれば協力しますよ」


 力強く答えるエリドバートに、遠慮がちに尋ねるアダム。


「実は、前に訪れた国で文無しになってしまい、宿を取れないのです。一晩泊めて頂けないでしょうか」

 皆様こんにちは。小夜寝草多と申します。


 色々な方のご協力のおかげで、早めに新連載の投稿にまでこぎつけることができました。

 本当にありがとうございます!

 これから何卒、『白き不死者は生き足掻く』をよろしくお願い致します。

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