魔王教育
「なんでなんでー、どゆこと!?」
せっかくアティ様が頑張ってそれっぽく小十分ほどかけて作り上げた文章が……! それっぽく仰々しい魔王感を作って告げた演出が……!
それが、まったくの、無駄骨ですって!?
害虫駆除の所なんかとくにとくに、お気に入りだったのに!!
心持ち小指を立て気味なイントネーションでむきーとどういう事どういう事と騒ぎ立てれば、味方であるはずのリーエ様からぎんとした一睨み。
はい、すみません。黙ります、黙りますね。
なんて心の中で全アティがリーエに向け謝っていると、一つ言葉を零したことで何かの弾みがついたのか、堰を切ったように勇者様は不平不満めいた言葉を魔国の王様である魔王様にむかってぶつけ始めた。
「いわく、俺たちが生まれたころにはもうここが魔国だって教わって育ってきたんだし、俺たちのせいじゃないし、つーかてめーらの対応が遅かったことに逆切れされても俺たちは知るわけねぇべや、と。そういう訳ですね?」
「そっそんな事いってません!!」
ちょっぴり盛り盛り感をぶっこみつつアティ様が解釈してあげたぜ! きらーんなお言葉は、勇者様より反論が。
「でもそういう話だったよね?」
きょとんと首を傾げて勇者様を見つめれば、うっと息を詰まらせまたあっちへふらふら視線を泳がせちいさなちいさなちっさい声で、言い訳を始めた。
「そりゃまーそう思ってるのは間違いないですけど、っ!! 言い方がまるっきり違うじゃないですか!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ始める勇者様はもはや煩わしい存在でしかなく。
「どうするリーエ、やったるか?」
「いえ陛下、さすがにそれは外交問題上都合がありますので」
決してリーエを気にするあまり勇者にやきもきするのが辛くなってきた訳ではなく、なぁーく。
リーエがー、勇者様に対してーいらだっていらっさるからーという思いからのー、この優しい魔王様の発言はー。
リーエ様にすげなく却下された。
リーエのためと思っていったのに。
なんだよなんだよーとぶすぶすしながら片耳をほじくって、かったる気持ちをそのままに。んじゃあと先を続けることにする。
「まー、それはどうでもいいとして」
「!!」
反論しようとする勇者様を、そこのところはほら。
なんといってもわたくし、魔、王様! ですから。ちょちょいのちょいと、お言葉を封じ込めさせていただきまして。
ご意見はいただきますが、文句は却下ですと物理的手段に出させていただきました。
まぁご安心を。決して悪い魔法ではございませんので。
優しくにっこり告げた言葉に、けれど私の言葉が嘘ではないと示すように無駄にぱくぱくさせていたお口を閉ざし、勇者様はお言葉を紡いでくださるようになった。
プラスアルファーでお話は簡潔に、魔法も掛けさせてもらったのは別に言わなくてもいいことだろう。
これによってわが兵のみならず、勇者のお仲間その一、その二。つまり勇者をのぞく勇者ご一行様までもをリーエ様の脅威から間接的に助けたことになったのだから。
アティってば、やっさしー。
他に誰も言ってはくれないので、自画自賛してから先へ進めようじゃあーりませんか。
「んじゃあ、騒がれるためにはどうすればいいのよ?」
「分かりません!」
元気いっぱい即決されたすがすがしいまでのお言葉に、勇者を除いた誰もかれもが私に視線をおくってくる。
……はい、すみません。私が悪かったです。
ちょっとした親切心からでた魔法を解除し、はらはら通常運転の勇者様に戻してあげた。もちろん、余計な言葉を防ぐ魔法はかけたまま。
「……もう一度、お願いします」
「えっと、ちょっと俺にはどうしていいのか……」
結局少し変えただけで何も変わっていないお言葉に、ちょっぴりイラッとしたのは否めません。
おいこら勇者、もっぺんかけたろか。
少しばかり漏れた怒気にぶるりと体を震わせる勇者様の様子に、しょうがない。こいつに聞いたのが悪かったんだとぐっ、と堪えて。
大人、になったアティ様は勇者の隣にいる勇者のお仲間その一をとんでその二に話を振ることにした。
「じゃあ、先隣りの魔術師の方」
「私、ですか?」
「はい」
ローブを身にまとっていたので魔術師だろうと当たりをつけ指名をすると、戸惑ったように声を出す魔術師にきっぱり是と告げる。
お宅の勇者様のような回答はノーサンキューと目に力を入れつつ彼から視線を外さずにいれば、そこらの美女顔負けの整った顔を困ったようにして、口を開く。
「魔王様が魔王らしく、魔王たる事をしたいとおっしゃるのでしたら」
若干くどいぞこの人と思いつつ、その答えを出してくれるのかと美形魔術師の言葉にうむうむと頷いていれば。
「世界征服をするのが妥当かと」
はい、きたー! 爆弾発言ありがとうございます!
まさか勇者のお仲間さんからそのようなお言葉をいただくとは思ってもおりませなんだ。
まさかの身内の発言に、勇者様もそのお仲間その一さんも目を見開いております。
「おっ、おま」
動揺した勇者様の様子がすべてを物語っております。
続く言葉はこうでしょう……
「それは言っちゃいけないお約束だろう!?」
そっくりそのまま思った通りに勇者様は言ってくださったけれど、そりゃそうだ。
彼らにとっては倒しに来たはずの魔王に、もっともらしいと言えばもっともらしい入れ知恵を授けるのは身内としてはいかがなものか。
わななく勇者様の心中、お察しいたします。
……が、しかし! 魔王様としましては、そのご期待に応えなくてはあるまいて。
「分かりました。それでは私、これより世界征服をしたいと思います」
魔王宣告をした先ほどのようにきりっとした顔で告げ、彼らの顔を見渡して私は口を開いた。
「つきましては、何をどうすればいいのでしょうか? なにぶん魔王業は今日からでして」
てへりと笑って告げれば、白けるムードがあたりに漂い。その空気に、私は荒む。
だって、しょうがないじゃないか。
魔国魔国といわれつつ実際私達はそんな事意識したことなかったし、ほんといつの間にかそう呼ばれて、魔国の王様は魔王だって言われてて。
足りない知識で考えるに、限りなく魔王に近いだろうリーエ様を再現しろと言われたって私には難しいし!
「どうしろっていうんですか!!」
むかぷんと逆切れかましてやると、あー……というどこか遠い目をした勇者様。
そして、ここに来てからちっともしゃべる様子を見せなくて今もまた黙り込んだままで。けれど地味に反応は示してくれている、戦士風お兄さん。
勇者のお仲間その一と、
フードをかぶりつつけれどその美貌は隠せていないぜ! 魔術師と呼んでも否定はしなく、話を振れば若干くどいながらもちゃんと答えをくれる、銀糸の髪も素晴らしい美貌魔術師お兄さん。
勇者のお仲間その二さんも、どことなく戸惑い気味の様子を見せて。
あたりには、再び沈黙が訪れる。
こんなの、こんなのっ……! アティのせいじゃないんだからっ!!